VOICE OF CHEESE
日本のチーズ職人「百人百話」

Vol.1 北海道 十勝エリア

日本チーズの“こえ”に出合う旅

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房の数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。この連載ではチーズが生まれる現場を訪ね、作り手の“こえ”をお届けします。第1回は、北海道から。

VOICE 01

北海道・足寄町 「しあわせチーズ工房」
本間幸雄さん

目指しているのは“土地の味を作る”こと。ここには素晴らしい酪農家がいて、最上級の牛乳があるからです。

しあわせチーズ工房
☎0156・26・2585
北海道足寄郡足寄町茂喜登牛141・4
SHOP|直売あり(訪問の際は要連絡)。その他、札幌「ブーランジェリーコロン」、「フーズバラエティすぎはら」、帯広「藤丸百貨店」などで販売

「私が好きなチーズは、コンテやグリュイエールのような複雑さと長い余韻を持つもの。でも駆け出しの頃は理想の味が出せず悩むこともありました」。そう話す本間幸雄さんは、銅釜と直火を使った伝統的な製法でチーズを仕込む注目の若手職人。高校時代からチーズ職人に憧れ、卒業後は各地の工房でチーズ作りに邁進してきました。試行錯誤しながら本間さんが行き着いた味の決め手は、原材料である生乳の質。実は、日本の牛乳のほとんどは牛舎で育つ牛のもので、広大な北海道でさえ、放牧牛は全体の1割にも満たないそう。「自分が好きなヨーロッパのチーズは、放牧された牛の生乳で作られることがほとんど。そこで各地の農家さんに放牧牛の牛乳を分けてもらって作ったら、とにかく美味しくて!牛乳のことを何も知らなかったんだとショックでした」。そんな本間さんが酪農の勉強のため門を叩いたのが、現在の工房の隣にある「ありがとう牧場」。牧場主の吉川友二さんは、自然に近い状態の牧草地に牛を放牧し、四季に沿った循環型農業を実践する酪農家です。「吉川さんの牧場の牛乳は草の香り。上手く熟成させると、それがより強く感じられます。今は自分が好きなタイプのチーズにこだわるより、土地の個性を表現する方が面白い」。本間さんの代表作「幸(さち)」は一昨年のJapan Cheese Award 2016で金賞を受賞。のびのび育った牛の牛乳の香りと旨みが凝縮されたチーズには、足寄の自然が詰まっています。

山の斜面を利用して作った熟成庫にて。チーズの表面を拭くなど日々の管理が一番楽しいと本間さん。「熟成が上手くいっている時の庫内の空気がたまらなく気持ちいい!」

■フランス製の銅釜で一度に500Lの牛乳を仕込む ■工房は2016年創業

キャラメルのような甘みがあるハードタイプの「幸」(左)1,069円/100g。地元産の羊乳で仕込む「羊のハード」(中)2,916円/100g。「しあわせラクレット」(右)788円/100g

「しあわせチーズ工房」で使用する牛乳を作る「ありがとう牧場」の吉川さんは放牧酪農の本場・ニュージーランドで学んだ後、2000年に足寄町へ移住。「農業は環境保護」との考え方のもと、牛、人、土地、経済に負担を強いない農業を実践中

コクがあるのにさっぱり、爽やかな風味の牛乳

VOICE02

北海道・足寄町「ありがとう牧場」
宍倉優二さん

チーズも季節ごとに味が違う。四季に寄り添う酪農をしながら自分にしかできないブルーチーズを届けます。

ありがとう牧場
☎0156・26・2082
北海道足寄郡足寄町茂喜登牛98・4
SHOP直売なし。「道の駅 あしょろ銀河ホール21」などで販売

1. 4日に1回、20kgのチーズを仕込む少量生産

フリーカメラマンからチーズ職人へ転身し、右ページで紹介した「ありがとう牧場」で働く宍倉優二さん。酪農の仕事とチーズ作りを両立させる、日本でも数少ない職人の1人です。「自然環境の中に身を置きたいと農業の道へ進んだ時、初めて本格的なナチュラルチーズを食べ、その美味しさに衝撃を受けました。そして牛を育てながらチーズを作る、フランスのフェルミエ(農家製チーズ工房)の暮らしに惹かれるようになったんです」。現在、手掛けているのはブルーチーズのみ。「1種類だけというスタイルが、物ごとを突き詰めたい自分の性格に合っている気がします」。そんな宍倉さんが目指すのは、バターのような口溶けとミルク感を持つチーズ。「初夏にたっぷり牧草を食べた牛の牛乳で作るチーズは、香りが最高。季節によって味が違うのも、チーズの面白さだと実感しています」

「オンネトー」1,177円/100g

■程良い塩味でまろやかなブルーチーズ「オンネトー」。足寄町にある美しい沼から名付けられた ■搾乳舎に併設した工房

VOICE 03

北海道・足寄町 「あしょろチーズ工房」
佐々木 司さん

子どもから大人まで親しんでもらえる食べやすさを追求し、チーズの裾野を広げたい。

あしょろチーズ工房
☎0156・25・7002
北海道足寄郡足寄町中矢673・4
SHOP直売なし。足寄町内のAコープ、直売所「寄って美菜」などで販売

元々道の駅併設の商業用施設だった広い工場。1日で1tの 牛乳を仕込める

酪農王国・十勝には、全国で唯一JAが運営するチーズ工房が。その「あしょろチーズ工房」に所属する佐々木さんは、十勝の有名チーズ工房出身の実力派職人です。現在は町内の農家から届く牛乳で、常時10種のチーズを生産中。「種類が多いのは、自分の好みのチーズに出合ってほしいから。小規模ながら生産量も保ち、誰もが食べやすく価格も抑えめのチーズを作る。そしてチーズの魅力を知ってもらうことが、私たちの使命なんです」。独自の工夫は、主力商品の「ころ」にも。棒状のモッツァレラチーズをカットし、約2週間転がしながら熟成させたこちら、まるでホタテの干し貝柱のような食感と、噛めば噛むほどあふれ出る旨みが特徴。ユニークなネーミングと見た目が相まって、幅広い世代に人気だそう。「足寄は同世代の職人が活躍する場所。刺激を受け合えるいい環境です」

■手で転がしながら熟成させる「ころ」 ■足寄湖を望む好ロケーション!

「ころ」439円(50g)

VOICE 04

北海道・帯広市 「十勝加藤牧場」
加藤佳恵さん

クリームのように甘いジャージー牛の牛乳。その味を知っているからこそできるチーズがあります。

十勝加藤牧場
☎0155・60・2107
北海道帯広市美栄町西8線130
SHOP直売なし。帯広市内の「藤丸百貨店」などで販売

300頭以上の牛を飼育する「十勝加藤牧場」。そのうち120頭が茶色い毛色のジャージー牛です。ホルスタインに比べ搾乳量は減るものの、その分脂肪分が高い濃厚な牛乳が採れるのがジャージーの特徴。「30年前に父が『これからは量より質の時代』と、他に先駆けジャージー牛を飼い始めたのが原点です」と語るのは、その牛乳でチーズを作る加藤佳恵さん。現在は月1回、市の研修施設内の工房でゴーダチーズを仕込みます。製造を始めて数年、「まだ試行錯誤中で、納得いかない味の時も多くて」と謙遜する加藤さん。ゴーダ1種に絞っているのも、チーズ製造の基本となる種類ゆえ。「でも私たちは、ジャージー牛の牛乳の美味しさを一番知っている。だからこそできるチーズがあるはずだと信じています」。来年には牧場の敷地内に工場を新設予定。加藤さんの夢は広がります。

■“ゴールデンミルク”と称される美味しい牛乳 ■ジャージー牛を導入した父・加藤賢一さんと

「ゴーダチーズ」1,177円/100g

【SHOP】東京・清澄白河「チーズのこえ」

東京・清澄白河「チーズのこえ」
今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、 日本で唯一の北海道産ナチュラルチーズ専門店「チーズの こえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約35工房、年間 300種類以上のチーズを取り揃えています。

☎03・5875・8023
東京都江東区平野1・7・7 第一近藤ビル1F
11:00~19:00 不定休
http://food-voice.com/

※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります。

|EVENT|

「共創料理 with ロッツォシチリア」

10月6日(土)開催!北海道のチーズを味わうランチパーティ参加者募集中!

メトロミニッツWEB「一流の料理人がいる名店案内」に加盟しているレストランと、日本各地の様々な生産者とのコラボレーションによる特別企画「共創料理」。その第1弾となる本イベントで腕を振るうのはシチリア料理の名店「ロッツォシチリア」の中村嘉倫シェフ。取材陣とともに北海道の生産者を訪ね、その高い品質に「日本のチーズの概念が変わった!」とも。イベントでは中村シェフが「しあわせチーズ工房」のチーズを使用して作る1日限りの特別メニューや、今回ご紹介した4生産者のチーズ食べ比べを、「しあわせチーズ工房」の本間幸雄さんのお話をお聞きしながら楽しめます。

■日時:10月6日(土) 11:30~14:30(予定)
■会場:「ロッツォシチリア」
東京都港区白金1・1・12 内野マンション 1F
■料金:3,000円
(ウェルカムドリンク付き着席ランチ)
■募集人数:25名(抽選)&

詳細はこちら→

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

更新: 2018年8月20日

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