食×グッドアイデアでみんなが喜ぶ未来を築く
SOCIAL GOOD FOOD

畜産農家も料理人も大注目する!

アニマルウェルフェアなエシカル牛をつくる
乳酸菌発酵飼料
「バイオバランス®️」が凄い

photo 花村謙太朗 text 佐藤 潮 

”SOCIAL GOOD FOOD”(ソーシャルグッドフード)とは、生産者や消費者にとって”Good”であることはもちろん、自然や生命、地域社会や地球にとっても”Good”であり、食を通じて「みんなが嬉しい」を生み出せる食品やフードビジネスのこと。今回は今話題のエシカルな健康肉をつくる乳酸菌発酵飼料「バイオバランス®️」の現場をルポタージュします。

POINT

エシカルな健康肉を育む”バイオバランス”のコンセプトは「ホリスティック・ プロバイオティクス」

“ホリスティック・プロバイオティクス”とは、食べたもの(家畜等)にも有益な効果をもたらし、その効果が、さらに全体的(関連的)に副次的な効果をもたらすという考え方です。

家畜に微生物(乳酸菌)を給与することにより、家畜自身の健康が改善されて品質が向上するとともに、それを食した人も健康になり、さらには、家畜にも人々(畜舎で働く人、近隣に住む人)の環境も改善される効果が得られるということを意味します。

“ホリスティック・プロバイオティクス”を実現することで、次世代の地球環境の改善に貢献していくことができます。

外苑前のフレンチ『Ysm (イズム)』の美味しさの秘密は乳酸菌にあり!?

日本中の生産者が築き上げてきた和牛の品質は、世界的に類を見ないほどハイレベルというのは誰もが認めることでしょう。しかし、どれだけ上質な味でも食べ慣れてしまえば、次第に驚きは薄れるものです。

そんな中で衝撃的な、まったく新しい食肉の可能性を感じる出会いがありました。その驚きは美味しさだけに留まらず、背後にある生産者のストーリー、さらには社会全体への影響力にまで波及します。きっかけは外苑前にオープンした話題のフレンチ『Ysm (イズム)』でした。

コースのメインディシュとして登場したのが、乳酸菌配合の飼料で育てられた葉山牛。とろけるような食感であり脂の甘味も力強く、それでいて赤身の美味しさが際立っているのです。

そもそも葉山牛とは食材の宝庫、三浦半島が誇るブランド牛。全国和牛品評会にて松阪牛や神戸牛を抑えて日本一に認定されるなど、輝かしい受賞歴があるものの年間200頭程度しか出荷されないため市場に出回りにくく、幻の牛とまで言われています。

確かに、幻の牛というだけあり格別の美味しさなのですが『Ysm (イズム)』のメインディッシュは別の機会にいただいた葉山牛よりも明らかに上質です。この謎を解き明かすのは「乳酸菌配合の飼料」が鍵となりました。

健康飲料やヨーグルトに含まれる乳酸菌。
人の体に良い存在として広く知られています。
動物の飼料に配合するという話は聞いたことがありませんでしたが……。「飼料に乳酸菌を混ぜれば牛の免疫力がアップし、抗生物質の必要がなくなるほど健康的に育つのです。肉質だけでなく肥育効率も向上し、結果的にはコスト削減も見込めます」

『Ysm (イズム)』の創業自体が乳酸菌配合の飼料、バイオバランス®の普及が目的のひとつだったと語るのは、オーナーの内藤善夫さんです。

内藤さんに勧められるまま食べたのは、バイオバランス®︎入りの飼料で育てられたC2ランクのホルスタイン牛(北海道産)。A5ランクの黒毛和牛(葉山牛)と比較すれば品質の劣るイメージでしたが、そんなことはまるでなく、また違った赤身の美味しさを楽しめました。肉質を向上させているのは乳酸菌配合の飼料、納得です。

「バイオバランス®︎の普及を通じ、私たちが伝え広めたいのはホリスティック・プロバイオティクスという考え方です。
まずプロバイオティクスの説明ですが、こちらは抗生物質に対して作られた言葉で、腸内環境を整え病気を予防してくれる微生物のことです。その有益な効果は腸内だけでなく、生産者や地域、そして社会全体といったより広い範囲に影響を及ぼします。具体的には、乳酸菌の働きにより牛舎などから悪臭がなくなり、家畜にとっても生産者さんにとっても環境が改善するなど、副次的なメリットを語りだせば限りがありません」

乳酸菌配合の飼料を使うだけで社会全体に有益……そんなに都合の良い話があるのでしょうか。こちらの怪訝そうな様子を察知したのか、内藤さんから「実際に生産者さんの元に行ってみませんか?」という嬉しい申し出がありました。こうして『SOCIAL GOOD FOOD』の企画がスタートしたのです。

石井牧場の環境を変えたバイオバランスの確かな力

神奈川県の三浦半島西部にある葉山町。その山間部にバイオバランス®︎を導入しながら葉山牛を育てる石井牧場があります。「ここで本当に牛が飼育されてるの?」と疑問に思えるほど動物臭は一切感じられません。肥育されている70頭の黒毛和牛を目の前にしても、なお無臭です。

取引先の各牧場にて、悪臭の発生源であるアンモニアを定期的に測定しているという内藤さん。この日も30分かけて国が推奨する測定法を実施しましたが、アンモニアは一切検出されませんでした。これだけ臭いがないのであれば、例え都会の真ん中に牛舎があったとしても周囲から苦情は出ないでしょう。

また2時間ほど牛舎に滞在することになりましたが、その間、鳴き声を上げる牛は一頭もいませんでした。「牛たちがストレスを感じていないことが理由」と教えてくれたのは牧場主の石井祐一さんです。

「石井牧場では、出来る限り牛たちにストレスを与えません。例えば、通常は牛の耳に穴を空けて個体識別番号を付けるのですが、うちでは穴を空けずに済む特殊なプレートを取り付けています。痛み自体は牛たちにとって小さなものであっても、それを回避する手段があるのならば試さない手はないでしょう」

ほかにも角を切らずに育てるなど、飼育環境に気を使い続ける石井さん。約20年前に親の後を継いで牧場主となり、それ以来は和牛の肥育一筋で、さまざまな育て方を実践してきたそうです。

牛たちの体を作り上げる飼料も良質なものにこだわっています。

メインとなるのが国産の白米(精米時に割れるなどした破砕米)。巨大なかまどで約30kgを炊き上げ、おから、ビール粕、麦、大豆、トウモロコシをブレンドし、2日に分けて牛たちに与えているそうです。

「葉山町は都心の近郊にあるため食品の副産物が多く、牛たちにも品質の高い飼料を与えることができます。しかし、これまでは炊いた白米にカビが発生しやすいなど衛生管理が難点でした。そんな中、たまたまテレビ番組でバイオバランス®︎の特集を見かけたんですよ」

石井牧場では、2017年4月からバイオバランス®︎を導入。特製の飼料にバイオバランス®︎を混ぜて、半日ほど乳酸発酵させてから牛たちに与えるようにしました。すると、その年の梅雨の時期には、早くも劇的な変化があったそうです。

「あれだけ悩まされていたカビが、飼料にまったく発生しなくなりました。また、それまで下痢をするなど、定期的に体調を崩す牛がいたのですが、軟便になる牛すらいなくなったのです」

抗生物質などは一切使用していないにも関わらず、バイオバランス®︎導入後から現在まで、一年以上も牛たちは病気知らず。「これまで色々な種類の飼料を試し続けてきましたが、ここまで目に見える結果が出たのは初めてです。しかも科学的なものを使わず、乳酸菌だけの力で」と石井さんも驚いたそうです。

乳酸菌発酵飼料 「バイオバランス®️」

バイオバランス®︎を与える推奨量は、和牛一頭あたり1日30g。1g1円で販売されているため30円のコストはかかりますが「導入後に牛たちを出荷する際の枝肉の重量が一頭あたり20〜30kgほど増えているため、それだけで金銭的にはプラスなんです」とのこと。科学的な成長促進剤を使用せず、健康的に肥育を促進しているため、食べる側としても嬉しい限りです。

肉質が単純に美味しいだけではなく、消費者にとっても安心安全。石井さんの育てる葉山牛の価値は、今後より高まっていくでしょう。

「うちの牛の排泄物から作った堆肥を使用する野菜農家さんからも嬉しい報告を受けています。堆肥以外は隣の畑とまったく同じ育て方をしているのに、雑草が生えない、収穫前後に野菜が傷まない、味自体も良くなっているなど、目に見える変化が起こっているそうです」なぜ牛たちに乳酸菌を与えることで、ここまでの効果があるのでしょう。科学的なお話を内藤さんに聞いてみることにしました。

悪玉菌やカビの増殖を抑える特許も取得したアンティムッファ株

乳酸菌の権威である大学教授のもとで研究を重ねた後、カビの原因菌や大腸菌を抑制する「アンティムッファ株」を発見した内藤さん。バイオバランス®︎の成分は主に、この特殊な乳酸菌になります。

菌の苗床は、牛の飼料として普及している小麦の表皮部分「ふすま」。こちらを熱により殺菌消毒してからアンティムッファ株を添加し、1g中に10億匹くらいまで増殖させたものがバイオバランス®︎です。あとは仕上げに乳酸菌のエサとなるオリゴ糖を配合する程度で、化学的な添加物は一切使用していません。

生きた乳酸菌の塊ですから、バイオバランス®は冷蔵庫で管理できるようなものではありません。万が一、雑菌が発生する可能性もありますので、アンティムッファ株が活性化した最も状態の良いものを定期配送しています」使った分だけ補充する、まさに某乳酸菌飲料メーカーのおばちゃんが商品を届けるのを彷彿とさせます。

「善玉菌の代表格である乳酸菌は、糖分を主な栄養として、乳酸をはじめビタミンB1やビタミンB6など人間にとっても牛にとっても有益な代謝物を発生させます。腸内のpH値を下げ酸性に保つことで、大多数の悪玉菌の増加を抑制するのです。しかし通常の乳酸菌ではカビの原因菌を抑制できません。だからこそ、抗カビ作用をもつアンティムッファ株が貴重な存在なのです」

乳酸は消化を助け、食欲を増進させる効果もあるほか、定期的に摂取することで絨毛と呼ばれる栄養吸収のための腸内機関の面積が増えるという研究結果も出ているそうです。

つまり乳酸菌は腸内環境を整え、消化や吸収を促進し、体全体の成長を健康的にうながすということ。これが石井牧場の牛たちの体重が増加した理由なのです。栄養の吸収量が上がることでアミノ酸やイノシン酸など旨味成分が増え、肉の美味しさにも繋がります。

「牛の体の中にアンティムッファ株が入ると、増殖と死滅を繰り返しながら、大体2~3週間で腸内に定着していきます。その頃には、どの牛の糞からもヨーグルトレベルの乳酸菌が検出されるようになるのです。また病原性大腸菌の数は、乳酸菌の1万分の1から100万分の1の割合まで減少します。アンモニア臭が発生しなくなり、糞にはハエも寄り付きません」

こうしてアンティムッファ株が大量に含まれる排泄物を堆肥舎に集め1ヶ月ほど放置すれば善玉菌の塊が出来上がります。この「乳酸発酵堆肥」は豊富な栄養素が含まれるだけでなく、アンティムッファ株の抗カビ活性により作物の腐敗も抑制するため、野菜畑の土壌作りに最適です。

「一般的には堆肥作りは『切り返し』という空気を送り込む撹拌が必要ですが、乳酸菌の活性化に空気は不要なため作業の負担を軽減できます出来上がった堆肥は野菜畑の土作りに適していますが、石井農場などでは大半を牛の寝床に敷いています。そうすることで牛舎全体からアンモニアを発生させる菌や大腸菌が激減し、カビの発生も抑制されるんですよ」

通常は病原菌の増殖を防ぐため、牛たちの寝床には乾燥させたオガクズなどが推奨されています。しかしオガクズには1gあたり1000万匹程度の大腸菌が潜んでいるそうです。いっぽうアンティムッファ株で満たされた牛の寝床は、ぬか床のような状態。水分を豊富に含む衛生的かつ居心地の良い環境です。

「石井牧場の葉山牛を食べる方に『こんな素晴らしい環境で育っていますよ』と自信を持ってお伝えできるよう、飼料や排泄物に含まれる微生物バランス、水分値、ペーハー値などを科学的に測定し毎月データ化しています。一般的な飼育環境の場合、ほぼ100%検出される大腸菌ですが、現在の石井牧場ではアンモニアと同様に検出されていません。元々こちらの牧場は牛たちが健康的に育てられていましたから検出値は低かったのですが、バイオバランス®導入後3カ月で計測不能なほどになりました。文字や数値だけでは伝わらないこともあるため、興味をお持ちの方には、今回のようにバイオバランス®を導入している生産者さんをご紹介することも多いです」

バイオバランス研究室

牛たちの腸内から良い循環がはじまり、牛舎の環境を改善し、生産者たちの抱える問題も解決する、バイオバランス®の仕組みは自然界の循環のように完成されているように感じます。これまで生産者同士のネットワークを活かし、その普及を続けてきた内藤さん。すでに北海道から九州まで600箇所以上の生産者と繋がり、導入を軸とした飼育管理のサポートを行っているそうです。

ホリスティック・プロバイオティクスの考え方が作る未来の世界

「最初は試してみるだけと仮採用した生産者さんも効果が実感できるためか、バイオバランス®を解約される方はほとんどいません。そした生産者の方々は、悪玉菌だけでなく乳酸菌にもダメージを与える抗生物質は徐々に使用しなくなります。また自然と家畜の成長がうながされるため、化学的な添加物を含む飼料に頼る必要もありません」

健全であることはブランド価値の向上にもつながり、経済的なメリットにも自然と結びつくでしょう。もちろん、美味しくて安全な牛肉が食べられることは消費者にとっても大きなメリットです。

「食用の和牛に限らず、乳牛や豚、鶏といった家畜全般の飼育環境改善にもバイオバランス®は効果を発揮します。例えば、抗生物質を使用せずに育てた鶏の卵は、ビタミンEやビタミンCの含有率が驚くほど高まることも実証済みです。アニマルセラピー用の馬の飼料として導入されているほか、教育の一環として農業高校へ無償提供もしています」

後継者不足など多くの問題を抱え、衰退が叫ばれている日本の畜産業ではありますが、それをひっくり返すような光明のきざしが内藤さんの活躍に垣間見れた取材となりました。

またバイオバランス®はアメリカをはじめ、中国や韓国でも特許を取得済み。「情熱をもち畜産物を育てている方々を手助けしたと思います」。と国内外を問わず、生産者をサポートし続けることがミッションだと語る内藤さん。その活躍は、今後も社会に貢献する多くの生産者を育むことになりそうです。

更新: 2018年7月8日

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