Forage for food

上五島の生産者に会いに行く。
食材の宝庫を巡る旅 #01

文 :冨手公嘉 写真:宮下直樹

東京のレストランでも牡蠣やアゴ、そしてクエといった高級魚などの食材が見られ、さらに隠れキリシタンの文化による教会群の景観が世界遺産登録への動きも見られ、近頃名前をよく聞くようになってきた上五島。美しい海に囲まれて、豊富な海産物に恵まれたこの地には、志を持って自然と相対する生産者がいます。実は12月17日に恵比寿「セル・サル・サーレ」で上五島食材がいただけるイベントを計画中。どんな人が、どんな食材を作っているのか、メトロミニッツWEBでは現地に赴き、直接会って、食材に対する想いを聞きました。まずはダイジェスト版でお届けします!

上五島とは?

長崎県の西側の海に浮かび、五島列島の北側に位置する上五島。五島列島は、大小合わせて140の島々によって構成されていて、福江島、久賀島、奈留島を下五島、若松島、中通島を上五島と呼びます。このあたりは江戸時代、キリシタン禁制が敷かれていたころ、九州から教徒たちが移住した土地。その後、カトリックの洗礼を受けた教徒が多く現在でも上五島には29ものカトリック教会があり、その景色を見にこの地を訪れる人も多いのだとか。隠れキリシタンの習俗にまつわる教会群を2018年に世界遺産登録を目指して取り組んでいます。


東京から半日かけて、上五島に上陸

羽田空港から2時間で長崎空港へ、そこから高速バスで1時間かけて長崎港に到着。さらに高速船で一時間半ほど海を渡り、たどり着いた上五島。底に光る珊瑚と泳ぐ魚を直視できるほど美しい海と、緑深い山々が迎えてくれました。商工会の職員さん曰く、上五島エリアの島民は2万人ほどで、街にはそこかしこ生活の息吹が感じられます。今じわじわとにぎわいを見せる食材そしてすてきな島民たちの宝庫・上五島の魅力に迫る取材がはじまります。車を進めると海を眼下に見下ろせる教会、水面に反射するように映る教会など点在する教会をいくつも目にすることができます。かつて仏教徒を装って海を渡り、農民として開墾されたこの地は、現在もなお教会へは赴かず、昔の信仰を守り自宅で祈りを捧げる隠れキリシタンの末裔が27軒ほど住んでいます。

島には車で進むとおよそ20分おきくらいに教会が点在していることがわかります。観光地として、多くの人がレンタカーやバスを借りて訪れるスポット。2018年に世界遺産への登録を目指し、活動していることもあってか、東京から半日もかかる上五島にも着実に観光客が訪れるようになっています。最近で映画『沈黙』で、隠れキリシタン役を演じた俳優の窪塚洋介さんもこの地を訪れたことが島民たちの間で話題に。とはいえ街のすべては観光地化されているわけではなく、そこには島の人々の穏やかでのんびりとした日常があります。主な産業は、水産業にそれらの加工物、そして日本三大うどんにも数えられる五島うどん。椿油や塩の生産。平地が少ないため農作物は少なく、畜産もごくわずか。

しかしながら、美しい海で育まれた海の幸は、東京のシェフたちも注目しています。五島うどんの出汁に使われるアゴ、丸々とふとった牡蠣、高級魚のクエをはじめアジやサバ、イカなどがとれる定置網。さらにはマグロの養殖まで。


最近では代替わりがはじまり、30代の若手の生産者が島の産業をリードしているというのも頼もしい話。今回の旅で出会った個性豊かな上五島の生産者のみなさんを、ひとまずダイジェスト的にご紹介します。それぞれの食材に対する想いは、また次回以降にじっくりお届けします。

上五島の生産者①松園水産 松園文策さん -大型定置網漁-

十字架のように割れた「新上五島」の西側に位置するひときわ小さな日島。毎朝7時、松園水産の定置網漁が始まります。今回沖合300メートルに仕掛けられた網をゆっくりとたぐり寄せる定置網漁に同行させてもらいました。するとシイラにカマスにハギに、タコ、そして珍しいハコフグもあがりました。鮮度を落とさないため、その場で仮死状態にするべく氷漬けにし、沖に上がり神経締めと呼ばれる手法で魚を活き締め。その手際の良さに熟練の技を感じとることができました。一連の作業を終えた朝8時半頃、海の上での厳しい雰囲気から一転穏やかな様子で「定置網漁の灯火を絶やさないようにしたい」と語ってくれました。

上五島の生産者② はたした 畑下直さん -焼きアゴ-

アゴの漁から加工までを手がけるはたした。去年はアゴの価格が4~5倍ほどに高騰しましたが、今年の相場は落ち着いたよう。身がしまったアゴを昔ながらの炭火で焼き、天日干しにして作り上げられた焼きアゴ。「この炭火焼きも中央と外とでは焼き加減が違う。コンベアで加工するのとは違う丁寧な作業は、女性のほうがきめが細やかで僕は蚊帳の外」なんて笑います。

上五島の生産者③ 五島灘酒造 田本佳史さん -芋焼酎-

島生まれ島育ちだが仕事は東京と福岡で建築関係の仕事をしていたという田本さん。10年前父が遺したを五島灘酒造を継ぐべく島へ舞い戻りました。下戸であった田本さんは、自ら生産に関わることでみるみるうちに芋焼酎造りの魅力に取り憑かれていきます。100年程前から上五島に伝わる貴重な国産芋の在来種『金ぼけ』を3年かけて1600kg相当にまで増やすことに成功させました。その仕事に対するひたむきさと、会話の節々から溢れ出るチャーミングな人柄から同年代の仲間からは「これからの世代のリーダーになる逸材」という声があがっているようです。

上五島の生産者④ 徳丸 大坪良徳さん -マグロ養殖-

水産大学を卒業後、昨年12月まで東京の築地市場で仕事をしていたマグロの養殖会社「徳丸」3代目の大坪良徳さん。競りでは、視覚と触覚で魚の状態を図るため、目視と触診で魚の状態がわかるようになったのだと語ります。若松島の綺麗で潮流が早い海の生け簀で育てた運動量の多いマグロたちは健康そのもの。「養殖産業のイメージを払拭したい」と語るその言葉尻からは、2代目として家業を継ぐんだ、という強い覚悟と意思を感じ取ることができました。

上五島の生産者⑤ 矢堅目の塩本舗 川口秀太さん -塩-

矢堅目の塩本舗では五島近海の海水を100 %原料に、昔ながらの直火焚きの釜で一昼夜かけて煮詰め、海水から水分を抜くことによって塩分を濃縮させて、川口秀太さんが結晶化させます。上五島のミネラル豊富な海水塩を選定するのは、奥さんの役目。ジブリ映画の人気キャラに似ている「トトロ岩」が眼前に見える観光スポットとしても話題に。仲睦まじそうに、素敵な掛け合いしながら矢堅目の塩の力について語ってくれました。

上五島の生産者⑥ 虎屋 南慎太郎さん -あごんちょび-

『虎屋』はもともと先代の犬塚虎男さんが五島うどんの製麺所として創業されました。虎男さんは昔気質の職人男で『五島のトラさん』として、島の有名人。1993年から22年間に渡る密着ドキュメンタリーが昨年映画化されていました。その後、娘のこころさんと結婚した慎太郎さんは、虎屋の2代目としてあとを継ぐことを決意。先代がうどんづくりの情熱を傾けたように、新商品を開発するべく塩づくりの研究を一からはじめ、さらにアゴ漁に出るため船を購入。そして、アゴと塩で作ったアンチョビ『あごんちょび』を開発。バイタリティの熱源を問うと、先代に背中を追されたと語ります。現在は、先代が作っていた五島うどんの皮を用いて作った『金の水餃子』の開発にも成功しています。今回はあごんちょびと金の水餃子の貴重な製造工程を見学させていただきました。

上五島の生産者⑦ マルオト 山田大さん -牡蠣-

漁港から700メートルほどのエリアで水深18メートルの場所で真牡蠣と岩牡蠣の養殖をする山田さん。ミネラルやプランクトンを大量に含んだ牡蠣は、1年を通して大きくなります。「熱心に仕事すればするほど、成果として帰ってくる。ストレスも感じたことがない。この島の宝を生かした一次産業は面白い」とはじけんばかりの笑顔で語りかけてくれます。マルオトではアジア圏からの研究生も受け入れて熱心に五島の牡蠣養殖のノウハウを伝えています。今回の取材では時期に恵まれ貴重な牡蠣の稚貝を見せてもらいました。

更新: 2017年10月16日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop