日本の中華 # 14

東京の中華料理店

雲を起こし、雨を操る水の神・龍。風を司る、平和の象徴・鳳凰。気高く縁起の良いこの神獣たちは、日本では、お皿に、店内の装飾に目にする〞中華料理店の象徴〞…というイメージもあるのではないでしょうか。今、東京の中華料理店は、昔ながらの名店、本場さながらの店、洗練されたカウンター中華など、多様化しているのが面白い。ここでは2人の敏腕ライターが龍、鳳凰に扮し、それぞれのテーマの下で、今、最も足を運ぶべき東京の中華料理店をナビゲートします。

NAVIGATOR

『風の中華』~東京に新しい風を吹かせる、精鋭揃いの個性派~
NAVIGATOR 小松めぐみ/MEGUMI KOMATSU
東京都出身。フードライター、エディター。10代で料理に目覚め、様々なジャンルを食べ歩く。現在は主に雑誌で飲食関連の記事を執筆、編集。「週刊新潮」と「CREAWEB」で連載中。和洋の甘味からお酒、お茶まで、あらゆる嗜好品をこよなく愛好。

『水の中華』~水のように心を落ち着かせる、揺るぎない実力派~
NAVIGATOR 永浜敬子/KEIKO NAGAHAMA
京都府出身。料理、食文化の執筆多数。 全国の郷土料理&ソウルフードを紹介した47都道府県のお国自慢グルメ「食わせろ!県民メシ」(講談社)、「東京出張」(京阪神エルマガジン社)など、ご当地料理に造詣が深い。

風・〇六 [銀座] 銀座 やまの辺 江戸中華

まるで和食のように ホッとする味わい

金彩の九谷焼の皿が折敷のように置かれたカウンターやテーブルは、あたかも割烹のよう。銀座の老舗中華料理店に長年勤めた山野辺仁氏が2015年8月に開業したこちらは、“江戸中華”というコンセプトが斬新です。

写真右 オーナーシェフの山野辺仁さん。/写真左 トウモロコシとトリュフバ ターの春巻。揚げたての春巻に生ハムを巻いてかじると、ト リュフバターのコクと香り、トウモロコシの甘味が口中に広がります。

メニューは、10品前後から成る10,800円と16,200円のおまかせコース2種類。和食器で供されるコースの中には必ずお椀が登場し、蓋を開ければ、鶏ガラや金華ハムからとった上湯(シャンタン)スープの湯気が立ち上ります。その香りにふんわりと心が和む瞬間は、まるで日本料理を味わっているような錯覚に。また、シェフ自身が千葉の契約農家で田植えから収穫までしたお米を土鍋で炊き上げるごはんが登場するのも、こちらの特徴。醤油味のフカヒレの煮込みなどを炊きたてのご飯に載せていただけば、日本人に生まれた喜びを実感できます。
「中華料理は、日本人が子どもの頃から親しんでいる国民食。だからこそ中国人の感覚ではなく、日本人の感性で作る中華料理店を開きたいと思っていたんです。店名に江戸中華と付けたのは、江戸前の食材を中心とした旬の食材を使い、日本の四季を感じられる中華料理を出したいという思いから。日本には夏の鮎や冬の白子、ノドグロなど、中国では使わないけれど美味しい食材がたくさんあるので、そういった旬の食材を積極的に取り入れています」。たとえば春巻きには、夏はトウモロコシとサマートリュフ、秋は上海蟹などの旬の素材を使用し、揚げたてに生ハムを載せて提供。尾崎牛の挽肉と九条葱でつくる麻婆豆腐は、春は鯛の白子、晩夏~秋は鮎の白子と、その季節に手に入る魚の白子を使い、まろやかなコクがプラスされます。
〆の麺は「葱そば」「担々麺」「稲庭中華麺」の3択で、中でも珍しいのが、宮城県東松島の海苔生産者が作る希少な“ばら干し海苔”をのせた「稲庭中華麺」。鶏ガラベースのスープに“追い鰹”をしたかけつゆは、海苔の豊かな風味と溶け合い、和食のようにホッとする味わいです。

写真左 尾崎牛の挽肉と九条葱、水茄子、京揚げ、豆腐を使った「麻婆豆腐」。夏以外は白子が入ります。
写真右 店内はカウンターの他にテーブル席も。

水・〇六 [学芸大学] CHINA MOON

食材との対話から生まれる 日本の風土が育んだ中華料理

学芸大学駅から徒歩1分の賑やかな一角に、落ち着いた佇まいを見せる小さな中華レストランがあります。中華料理の技法を基礎に、食材の性質や持ち味を活かした調理法を巧みにアレンジ。独自の世界を切り拓くのがオーナーシェフの関根祥司さんです。目にも美しい料理が評判ですが、常に大切にしているのは、中華料理の古典を踏まえた心と技。六本木「中国飯店」調理主任や「麻布長江」の料理長を務めた関根さんは「今、目の前にある食材にとって何が必要なのか。食材同士の組み合わせ、火の通し方など、すべての要点とバランスを考慮した結果が美味しい料理につながると信じています」と語ります。たとえば6月~8月の季節メニューの「酸橘海斗(木耳と花咲クラゲのスダチ風味)」は、肉厚のクラゲの頭をたっぷりのスダチの果汁で和えた爽やかな前菜。コリコリとした軽快なキクラゲと、ザクッとした歯ごたえのクラゲの頭の口当たりのコントラストも楽しく、清々しいスダチの風味が清涼感を運んでくれます。「甘酢風味のクラゲの前菜の延長上で、季節感をスダチで盛り込みました」。一方、国産うなぎとトマトのピリ辛ソースは、茹で豚の薄切りにした前菜、雲白肉に使われる甜醤油をうなぎの蒲焼きのタレ風にアレンジした1品。引き締まった身の国産うなぎに、ピリッと効いた辛味と陳皮や八角、桂皮の香りが豊かなタレが絡み、疲れた夏の体に喝を入れるのに最適な夏中華です。

写真左 スタイリッシュで洗練された空間。
写真右 「四季のある日本で提供する料理だからこそ季節感を大切にしたい」と関根さん 。

こちらでは作り置きをせず、注文を受けてから食材に包丁を入れます。「時間はかかっても、新鮮で季節感溢れる料理を提供したい」と関根さんは語ります。
『ミシュランガイド東京2016』で、コストパフォーマンスが高く上質な料理を提供する店を表すビブグルマンに選ばれたチャイナ・ムーン。しかし、ビブグルマンは、この店のほんの一部分を表す要素でしかありません。訪れるたびに五味五感が喜ぶ新鮮な感動に出合えます。

写真左 蕃茄鰻魚( 国産うなぎとトマトのピリ辛ソース)2,376円。料理は、6月~8月の季節メニューからの2品。
写真右 酸橘海斗( 木耳と花咲クラゲのスダチ風味)2,160円 。

Text:小松めぐみ(風の中華)、永浜敬子(水の中華)
Photo:牧田健太郎、よねくらりょう
※こちらの記事は2016年6月20日発行『メトロミニッツ』No.164に掲載された情報です。

 

更新: 2017年6月20日

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