日本の中華料理 # 13

東京の中華料理

雲を起こし、雨を操る水の神・龍。風を司る、平和の象徴・鳳凰。気高く縁起の良いこの神獣たちは、日本では、お皿に、店内の装飾に目にする〞中華料理店の象徴〞…というイメージもあるのではないでしょうか。今、東京の中華料理店は、昔ながらの名店、本場さながらの店、洗練されたカウンター中華など、多様化しているのが面白い。ここでは2人の敏腕ライターが龍、鳳凰に扮し、それぞれのテーマの下で、今、最も足を運ぶべき東京の中華料理店をナビゲートします。

NAVIGATOR

『風の中華』~東京に新しい風を吹かせる、精鋭揃いの個性派~
NAVIGATOR 小松めぐみ/MEGUMI KOMATSU
東京都出身。フードライター、エディター。10代で料理に目覚め、様々なジャンルを食べ歩く。現在は主に雑誌で飲食関連の記事を執筆、編集。「週刊新潮」と「CREAWEB」で連載中。和洋の甘味からお酒、お茶まで、あらゆる嗜好品をこよなく愛好。

『水の中華』~水のように心を落ち着かせる、揺るぎない実力派~
NAVIGATOR 永浜敬子/KEIKO NAGAHAMA
京都府出身。料理、食文化の執筆多数。 全国の郷土料理&ソウルフードを紹介した47都道府県のお国自慢グルメ「食わせろ!県民メシ」(講談社)、「東京出張」(京阪神エルマガジン社)など、ご当地料理に造詣が深い。

風・〇四 [表参道] 青山はしづめ

左は魚の浮き袋の煮込み。魚の浮き袋はシェフが香港で買い付けた高級食材。海老粉で味を含ませた長芋と、三ツ葉を添えて。右は「青椒肉絲」を進化させ、細切りのローストビーフに甘辛のタレを絡めた冷製「青椒牛肉絲」。

古民家で味わう四川と日本の調和味

南青山の路地裏に佇む古民家の扉を開け、木製の階段を上ると、2階に広がるのは静かな「和」の空間。ホテルや中華料理店に中華麺を卸してきた橋爪製麺が、広尾店に続き、2015年に開業したお店です。広尾店は和風出汁を使用した中華ですが、こちらは四川料理に和食のエッセンスを加えたおまかせコースのお店。料理長の初見直人さんは名店「四川飯店」で20年間研鑽を積んだベテランで、四川料理の技術と知識を基に、食材にも味付けにも“和”を取り入れています。
「中華出汁だけでなく、カツオや昆布や煮干でとる和風出汁を使うこともあれば、蕎麦醤油やたまり醤油、米酢といった日本の調味料を使うこともあります」とシェフが言うように、約12品から成る旬を取り入れたコースの中には、優しい味付けの料理と四川風のスパイシーな料理が混在しています。中でも日本的な趣なのが、古染付の豆皿などに盛られた「中華式八寸」。お酒はもちろん、ワイングラスで味わう中国茶との相性もなかなかです。
締めの麺は、橋爪製麺特製の極細麺や練り込み麺を、炒めて軽やかな焼きそばにしたり、冷やし中華にしたりと、最後まで季節感溢れる味わいです。

写真左 中国茶のペアリングコースは3,456円。/写真右 「あおやま はしづめ」Tel 03・3478・3520(要予約)
東京都港区南青山3・10・34 2F 18:00~21:00LO 日・祝定休 10,800円と16,200円の2コースのみ。http://www.hsmen.com

風・〇五 [表参道] DAINI’S table

6,480円のコースより。手前から時計回りに「ダイニズ特製回鍋肉」「ズワ イ蟹と枝豆のムースと上湯ジュレがけ」「冬瓜のすりおろしとコンソメのスー プ」

フレンチの視点で分解・再構築!

かつて「ヌーベル・キュイジーヌ・シノワーズ」を広めた名店が、昨年、創業35周年を機に料理を一新。オーナーの岡田大貳氏が新たに料理長として迎えた梶間稔氏は、なんとフランス料理出身です。それは“主役の食材が曖昧で調味料の味が支配的な中国料理”を、フレンチのシェフの視点で“主役の食材の味が引き立つ料理”に再構築するため。
たとえば梶間シェフが「回鍋肉」の要素を分解・再構築した「ダイニズ特製回鍋肉」は、フレンチの技法で蒸し煮にした豚肉が主役の「肉料理」。キャベツと豚とタレの味が渾然一体となった巷の回鍋肉とは見た目も異なり、その姿はまるでフランス料理です。とは言え、豚肉の上に載っているのは甜麺醤ベースのタレで味付けしたネギと、油通ししたキャベツ。全部一緒に食せば慣れ親しんだ回鍋肉の味が現れ、別々に食せば豚肉やキャベツの美味しさを楽しめます。夏の新作の「冬瓜のすりおろしとコンソメのスープ」や「ズワイ蟹と枝豆のムースと上湯ジュレがけ」は仏中折衷の趣で、ワインとの相性も抜群。洗練された演出も魅力的です。

写真左 フランスのミシュラン3ツ星店で修業した梶間稔シェフ。2015年からダイニズテーブルで活躍中。
写真右 オリエンタルな内装は1981年の開店時のまま。中国の風景画に李白の詩が添えられた壁は螺鈿細工です。
「ダイニズテーブル」Tel 03・3407・0363 東京都港区南青山6・3・14 サントロペ南青山B1F 11:30~14:30LO、17:30~22:00LO ランチ1,100円~(土日祝日2,160円~)、ディナーコース6,480円~(2名より) ※サ別 日定休 http://www.dainis-table.com/

水・〇四 [中野] 鉄板 仁 ~JIN~ 

気仙沼産の肉厚のフカヒレをスープで煮込み、そのまま鉄板で焼いた人気の一品。(5, 400円のコースより)。カリッとした表面ととろける中身のコントラストにも驚きます。上海蟹のかにみそとオイスターソースがベー スの濃厚なスープとともに。

エンタメ性も抜群 ここだけの鉄板中華

鉄板中華という独自のジャンルを開拓した人気店。オーナーシェフの原田亮さんが最初にオープンした場所は、元スナックを改築したカウンターだけの小さなお店でした。厨房に十分なスペースを確保できないので、苦肉の策で鉄板で調理するスタイルを取り入れたのです。いろんな料理にチャレンジしてみると、炒める、蒸す、焼くなど、ほとんどの料理が鉄板で調理できることに開眼。目の前で音や湯気、香りを感じながら、目にも鮮やかな原田さんの鉄板さばきを見る鉄板中華はエンタテイメント性もしっかり。隣合わせた客同士が、目の前で調理される料理を話題にすぐに親しくなれるのも鉄板マジックです。また、食材を油通しして使用する調理法が多い中国料理ですが、こちらでは油通しせずに鉄板で野菜や肉に火を入れます。その分、にんにく油やねぎ油、ラー油など、自家製の香り油を調理の最後に効果的に使うので、香りとコクがあるのに軽やかな仕上がり。鉄板で焼いたフカヒレのステーキは、その歯ごたえと味わいに新鮮な驚きが感じられるはずです。

写真左 ズワイガニとレタスのチャーハン 1,296円。/写真右 大きな鉄板の前のカウンター席が人気。個室も完備。「てっぱんちゅうか じん」Tel 03・3388・4597 東京都中野区中野5・46・2 MSIプレイス1F 11:30~13:30LO 17:00~22:30最終入店 水定休。

水・〇五 [浅草] 龍園

「穴子の黒酢ソース」は、黒酢と米酢、レモンの3つの酸味を合わせた重層的な味わい。「トウモロコシの春巻き」は、無農薬の糖度の高いトウモ ロコシがぎっしり詰まった夏らしい人気の1品。稲庭うどんの伝統製法である「干し」で作った稲庭中華麺を使用した「担々麺」はキリっとした辛さ。 6,480円のコースより。

旬の素材を和洋中の技法で昇華

上海料理をスタートに、数々の名店で伝統的な中国料理を身につけた栖原一之さんは1993年に「中国小菜 龍圓」をオープン。以来、さまざまなジャンルのシェフとの交流を経て、和洋の技法や食材、調味料を取り入れた新感覚の中華料理を生み出してきました。その象徴的なメニューが豆乳をエスプーマ仕立てにしたピータン豆腐。見た目はムースのようで斬新ですが、食べるとしっかりピータン豆腐。それどころか。一般のピータン豆腐より、豆腐とピータンが一体化したおいしさが味わえます。「料理がお皿の上に行く着くまでのプロセスを大切にしています」と語る栖原さん。自分の足で探した食材と生産者との交流、そして彼らの思いがどうすれば最良の方法で食べる人に伝わるかを考えます。「たまたま私は中国料理の技法や調味料をベースにしていますが、どんなジャンルでもプロセスが大事。そうすれば結果はついてくると信じています」。こうして生まれた龍圓の独創的な中華料理の魅力を最大限に伝えるために昨年からコース料理だけの構成にリニューアル。栖原ワールドの魅力を余すことなく楽しめるようになりました。

写真左/自由な発想のオリジナル料理に定評がある栖原一之さん。生産者の顔が見える安心・安全な素材を厳選。/写真右 「りゅうえん」Tel 090・8720・2581 東京都台東区西浅草3・1・9 12:00~13:30入店、17:30~20:00入店 月定休(祝日の場合は営業、翌火曜休み) ランチコース2,700円、ディナーコース6,480円のみ。

Text:小松めぐみ(風の中華)、永浜敬子(水の中華)
Photo:牧田健太郎、よねくらりょう、柳大輔
※こちらの記事は2016年6月20日発行『メトロミニッツ』No.164に掲載された情報です。

 

更新: 2017年6月20日

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