日本の中華料理 # 4

日本の中華料理のあゆみ
巨匠たちの愛した店

私たちは子どもの頃から、家庭の中で、街の中で、ごく当たり前のように中華料理を食べてきました。しかし、元はといえば中国の料理。日本人と中華料理は、一体いつからこんなにも深いお付き合いを始めたのでしょうか?ここでは、かの作家やあの漫画家たちが行きつけにしていた名店とともに、日本の中華料理の時代を振り返ります。

中華料理の歩み

1972年(昭和47)9月、日中国交正常化。この歴史的事件の直後、日本では中国ブームが起こり、街では中華料理が人気となります。共同声明に合意した、時の首相は日本側・田中角栄、中国側・周恩来。そんな周恩来と言えば…、上の写真の店、神保町の「漢陽楼」ではないでしょうか。日清戦争終結の翌年、1896(明治29)年から、日本には多くの中国人留学生がやってきました。その中には、1917(大正6)年に来日した周恩来をはじめ、孫文、魯迅、蒋介石といった面々もいたのです。そして、学生の街・神保町には、江南料理の「漢陽楼」をはじめ、留学生たちの故郷の味を伝える本格中国料理店が増えていきました。というのも、中国人は自分が生まれ育った郷土の味に執着しがちで、他の地域の料理は受け付けないことが多いもの。よって、日本での食事問題は大きく、神保町には山東、寧波など、エリート留学生の出身地の料理店が続々と誕生したそうです。
「そう。日本にきちんとした中国料理が入ってきたのは、明治時代のことなんです」。さて、ここで登場するのは、この定食評論家の今柊二さん。中華街でお馴染みの横浜、東京有数のチャイナタウン神保町に通い続けて約30年という今さんは、各街に息づいた中華の歴史にも精通されています。というわけで、今さんから聞かせていただいた話を少しだけご紹介しながら、これより日本人と中華料理の歩みをたどってみましょう。

[神保町] 中国名菜 「漢陽楼」 創業1911年

中国の偉人・文人が青春時代に 通った故郷の味を受け継ぐ

一月二十七日
【治事】(中略)昼飯のあと、漢陽楼に行って同学会の月例会を開く。出席者は二十余人。
―  周恩来『十九歳の東京日記』より(小学館)

創業時、中国人留学生が通った東亜高等予備校の近くに店があり、後の中華人民共和国で総理大臣となる周恩来も贔屓にしていた。江蘇省出身の周は、初代が作るまろやかな味付けの浙江料理に親しんだ。お金を貯めて月に1度ほど仲間と食卓を囲むのを楽しみにしていたという。4代目に代替わりした現在も「獅子頭」は店の看板メニューで、しみじみとした中国の家庭の味を伝えている。また、革命家・孫文が好んだ粥もメニューに残っており、当時の中国人にとって拠り所となっていたことが分かる。店名は“漢民族”を“朝陽”が照らすという意味を持つ。

「かんようろう」Tel 03・3291・2911 東京都千代田区神田小川町3・14・2
平日 11:00~15:00 (14:30LO)/17:00~23:00(料理22:00LO、 ドリンク22:30LO)、土11:00~15:00 (14:30LO)/17:00~22:00(料理21:00LO、 ドリンク21:30LO) 第四土曜日・祝定休。/
写真右「獅子頭」1,512円。一度揚げたこぶし大の肉団子を、貝柱を出汁にしたスープごと蒸す。肉に練り込んだ椎茸、ネギの旨みも感じる。

[高田馬場]「一番飯店」 創業1952年

何本も名作を生み出した手塚治虫の好物とは

手塚治虫が事務所を構え、多くの漫画家や編集者で賑わっていた高田馬場。初代が白金にかまえた店をこの地に移すと「手塚プロダクション」が得意先になった。現在2代目の山本義家さんが出前を届けたある日、多忙な手塚治虫が申し訳なさそうに「焼きそばに八宝菜をかけて持ってきてくれないか?」と言う。これをきっかけに鶏肉や海老、袋茸など手塚の好物ばかりが入った「特製上海焼きそば」1,420円が誕生した。1日1度しか食事をとらなかったという彼にとって、ごちそうだったに違いない。初代は「揚子江菜館」で料理長を務め、吉田茂時代の総理官邸でも腕をふるった人物。甘みの強い上海料理を日本人向けにアレンジした味付けで、親しみやすい中華料理だ。

「いちばんはんてん」TEL03・3368・7215 東京都新宿区高田馬場4・28・18  11:30~23:30 LO 水定休。
写真右 ゆるめの野菜餡を麺に絡むようにかけ、次に硬めに仕上げた鶏肉と海老の餡をかける。そばにも醤油で味をつけてバランスをとっている。

Text:浅井直子、いずみかな(店舗)
Photo:今井広一、花村謙太朗
※こちらの記事は2016年6月20日発行『メトロミニッツ』No.164掲載にされた情報です。

更新: 2017年6月20日

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