TOKYO FOOD JOURNAL 2016 #1

KEYWORD
―今年の雑感―

Text:静浩太、佐々木ひろこ、野中ゆみ
Illustration:ナカイテッペイ

「東京フードジャーナル」は、今年1年の東京の「食」のシーンを振り返ってみようという企画です。「今、流行っている「食」のその理由を知り、時代の潮流を読んでみたいという試み。まずは今年のキーワードを考えてみましたので、ご紹介します。ただし、下の文章はキーワード解説というよりも、あれこれ考えた雑感ですのでご注意を。

例えば、昨年は「ブルックリンから上陸」「ハイブリッドスイーツ」「低糖質(ロカボ)」「パクチー専門店」などといったキーワードを様々見つけることができましたが、今年はちょっとワケが違います。昨年に引き続き…という風で、新しいキーワードが生まれた気配があまりないのです。また、良いお店も多数オープンしましたが、例えば、ブルーボトルコーヒーやシェイク シャックのように注目度が突出した店もあまりなかったような…。今月の特集は昨年末に続く2回目の、今年1年の東京の「食」のシーンを振り返る「東京フードジャーナル」です。しかし、キーワードが少ない中で、どう振り返ろうか考えた結果、「ルポタージュ」というテーマを持ちながら、1つずつを深掘りすることに。この後に続くページで扱うキーワードは3つだけ、「シェア空間」「ペアリング」「クラウドファンディング」です。まず、初めにそれがどんなキーワードなのかを考え、調べた上で、その言葉に紐づく場所へ取材に行っています。この3つを選んだ理由は恐らく、一過性ではなく、今後、さらなる展開が期待できるキーワードだから。どれも今年の状況に至るまでの間に背景があり、今、求められる理由がありますが、それらをいろいろ考えていくと今という時代がもう少し見えてくるのではないでしょうか。

【クラフト】ビール・チョコレートなど

かつては「おいしいもの」や「ヘルシーなもの」がほとんどなかったアメリカで、近年、劇的に「食」の革命が起きたそうです。地産地消オーガニックな食材が手に入りやすくなり、NYのブルックリンなどではアルティザン(職人)の手がけた「食」が人気に。その一番のきっかけは、2008年のリーマン・ショックがもたらした空前の不景気だと言われています。民主主義の大きな社会に住むことの価値を問い直す人が増えたから。大量生産で得た物質的な充足感より本質的な豊かさを求め、その先にあったものの1つが作り手の見えるクラフト。そして日本でも、数年前からクラフトビールが人気で、昨年頃からは急激にビーントゥバー(職人のチョコレート)も増えています。というのも、この時代の気分はアメリカに限らず実は世界的なことで、今、東京もきっとその潮流の中に。

付録:2016年 1月・2月の出来事(主に、東京の街や食)
1月 1日マイナンバー制度」開始/ 13日産廃業者による冷凍ビーフカツ横流し問題発生/ 14日 『食べログ』のレストラン予約サービス、累計予約人数が500万人突破
2月 1日タニタ食堂が宅配サービスを開始/4日 TPP協定文署名/22日 UHA味覚糖が近畿大学とコラボして「近大マグロの化粧品」発売/9日 平塚製菓が小笠原の母島で生産した国産カカオを使用したチョコレートを2018年目途に発売すると発表

【グルメ化】焼きそば・サンドウィッチなど

ここ数年を振り返ってみても、グルメポップコーン、高級かき氷、おしゃれフライドポテトなど、今までは“B級~カジュアル”のカテゴリだった「食」が、何かをきっかけに“グルメ~高級”の方へ出世することはよくある現象です。あらゆる「食」が飽和し、新しい出合いも生まれにくくなった東京ですが、日本人の新しもの好きの気質が、“グルメ化”をもたらすようで。その現象は、今年は焼きそば(麺が手打ちになったなど)やサンドイッチ(軽食ではなく食事と呼べるような)などに見られたようです。ちなみに、“グルメ化”の先駆者とも言えるハンバーガーはグルメバーガーが世間に定着した後で、今やオーガニックやヘルシー志向へ向かっています。

付録:2016年 3月・4月の出来事(主に、東京の街や食)
3月 11日タイのバンコクで「アジアベストレストラン50」が発表に。1位は、2年連続バンコクのンド料理店「ガガン」。日本勢は、過去最多の10軒がランクイン/ 25日 「ニュウマン」オープン/ 31日「東急プラザ銀座」オープン
4月 1日「ガリガリ君」が値上げ(60円↓70円に)/4日「スタ新宿」オープン/4 日 NHK『とと姉ちゃん』放送開始/14日「平成28年熊本地震」発生/15日 「アトレ恵比寿西館」オープン/29日映画『ノーマ、世界を変える料理』公開

【コラボレーション】シェフたちのプロジェクト、イベントなど

2016年も、ガストロノミー界のシェフ達が動いた年でした。仲間の料理人たちと協力し合い、災害復興イベントを行ったり、食の社会問題に対するメッセージを発信したりという昨年までの動きはさらに加速の一途。5月の「熊本・大分チャリティー食堂(東京・築地)」、7月の「Reborn-Art Festival (宮城)」での復興ダイニングイベント、9月の「いただきますプロジェクト(沖縄開催回)」や10月の「いわて 食でつながろうプロジェクト(岩手)」ほか、料理人が主導・サポートした数々の社会派イベントが続けざまに開催されました。また、2人以上のシェフがコースを一緒に作り上げるというコラボレーションディナーは、今、まさに花盛りと言っていいでしょう。東京のレストラン同士のイベントはもちろん、東京と他県のレストラン、地方内での組み合わせ、また海外レストランとのディナーイベントなど、コラボレーションの開催は毎月数え切れないほど。このようにしてシェフ間の交流が深まるとともに、それぞれの調理テクニックや哲学がお互いにシェアされ、海をも渡り、ひいては料理界全体の発展につながっています。

付録:2016年 5月・6月の出来事(主に、東京の街や食)
5月 1日「日清やきそばU・F・O」発売から40周年/10日 パナマ文書公開/26日「伊勢志摩サミット」開催
6月 15日アメリカNYで「世界ベストレストラン50」が発表に。今年の1位はイタリアの「オステリア・フランチェスカーナ」。日本勢は「Narisawa」が8位、「龍吟」が31位、「傳」が「注目のレストラン賞」を受賞

【肉】熟成肉・ローストビーフ・ジビエなど

雑誌もテレビも見渡せばグルメ界は肉、肉、肉のオンパレード。この肉ブーム、ひも解けば2010年の後半あたりから熟成肉に火が付いたことがきっかけでした。先駆けとなったのは現在もトップランナーとして君臨する「中勢以」や「カルネヤ」など。同時にイタリアンやフレンチで赤身肉を扱う店が増え、多くの人が肉の新たな旨さを知ることとなります。その流れは現在まで続くビッグウェーブになりました。一方で、一部のフレンチが中心だったジビエは、2013年に焼肉スタイルの「焼ジビエ 罠」が登場するなど、徐々に裾野を広げます。また、2014年には立ち食いの「いきなり!ステーキ」が躍進、海外有名店の日本進出も相次ぎ、ステーキブームが到来。2015年にはローストビーフ丼や牛かつなどB級グルメ方向にも肉ブームは広がりました。そして、2016年は窯焼き、薪焼きなど調理法にこだわりを持つ店に注目が。中でも薪焼き肉をメインに掲げる「TACUBO」(P40掲載)は今年を代表する1軒と言えます。まだまだこの肉ブーム、勢いが衰えることはなさそうです。

付録:2016年 7月・8月の出来事(主に、東京の街や食)
7月 20日「星のや東京」開業/22日 「ポケモン GO」の日本配信開始/27日「東京ガーデンテラス紀尾井町」がオープン/29日 映画『シン・ゴジラ』公開/31日 東京都知事選挙(小池百合子さんが当選)
8月 5日 リオデジャネイロオリンピック開幕/7日 渋谷パルコが一時閉店(3年後に生まれ変わる)/11日「山の日」が国民の祝日に/19日「下北沢ケージ」オープン(P 25)/26日映画『君の名は。』公開

【酒場】古典酒場からネオ居酒屋など

立石や赤羽、門前仲町。夜な夜な呑兵衛たちが集う大衆酒場に変化が訪れています。常連に混じり、若者や女性ひとり客の姿が目立って増えているのです。その最大魅力は、店と客、客と客の距離感。普段のしがらみは一切関係なく、年代も肩書きも全く異なる人たちと自然に会話が生まれ、心地良く過ごせる。そんな大衆酒場ならではのゆるやかなコミュニティ機能が改めて注目されているのです。そのため、安さを売りにした大型チェーン居酒屋は冬の時代を迎える一方、大衆酒場の良さはそのままに入りやすい開放感とこだわりのメニューを打ち出すネオ居酒屋が続々誕生しています。「貝呑」は立ち飲みながら貝料理やフレンチで、「ひとひら」は漁港や農家から取り寄せる食材の上質な和食と地酒で人気を集めています。あの和食の名店による「賛否両論KAKUUCHI」もオープンするなど、新旧入り混じり、酒場巡りは今こそ楽しい時代に入っています。

付録:2016年 9月・10月の出来事(主に、東京の街や食)
9月 7日 リオデジャネイロパラリンピック開幕/ 12日 マクドナルドがランチメニューを発売/24日「銀座プレイス」開業
10月 12日「サントリーホール」開館30周年/26日 フードカルチャー&ライフタイル誌『RiCE 』の創刊号発売(P42)


 

【地元めし】博多うどん・名古屋ごはんなど

「ふるさと納税」も注目されがちな昨今ですが、東京で地方自治体のイベントを目にしたり、地方の味を楽しむ機会が増えてきています。そんな中、2016年は「郷土料理」ではなく、あえて「地元めし」と呼びたくなる料理を出す店が話題を集めることも。例えば、恵比寿の「イチカバチカ」、中目黒の「二〇加屋長介」に代表される「博多うどん」。さぬき一辺倒、コシ命だった東京のうどんシーンに、ふわふわと柔らかな麺を出汁で食べるという新たな選択肢が加わったのです。また、名古屋めしの進出も目立ちました。名古屋のソウルフードあんかけスパの元祖『スパゲッティ・ハウス ヨコイ』が六本木に、台湾ラーメン発祥の店『味仙』も神田に出店し、これまで東京になかった味を提供しています。

付録:2016年 11月・12月の出来事(主に、東京の街や食)
11月 7日 築地市場の豊洲への移転延期が決定/ 14日 ウルトラスーパームーン観測/24日関東地方で初雪/25日「京橋エドグラン」オープン/ 22日 「中目黒高架下」オープン(P 24)/ 29日 『ミシュランガイド東京2017』掲載店発表。日本版発行から今年で10年目、10年連続3ツ星は4軒。
12月 1日 「2016 ユーキャン新語・流行語大賞」が発表され、「神ってる」が年間大賞に/6日フランス外務省が世界各国の飲食店1000店のランキング「ラ・リスト2017年版」発表。国別では日本の店が116軒で、フランスの113軒を押さえて最多に/9日「サナギ 新宿」オープン(P25)

※こちらの記事は、
2017年12月20日発行『メトロミニッツ』No.170に掲載された情報です。

更新: 2017年12月20日

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