TOKYO BEERNISTA 2017 # 4

横浜・野毛の「ヌビチノ」で
“ビール×料理”について考えた。

una casa de G.B. G.B.El Nubichnom

Tel 045・231・3626
神奈川県横浜市中区宮川町1・1 都橋商店街117
17:30~ ドリンク22:30LO(フードLO22:00/土・日15:00~) 火定休 ※臨時休業・営業時間変更もあるので、営業日時は店のブログで確認を。
http://ameblo.jp/el-nubichinom/

店がある「都橋商店街」は大岡川に面し、ディープな飲み屋街的な雰囲気がムンムン(写真は対岸から商店街に向かって撮った写真)。建物は1964年の東京五輪の際に建てられたもの。店内はおよそ8名も入ればギュウギュウ。にもかかわらず、冷蔵庫は2つもある。片や5~6℃、もう一方は10℃程度という温度違いで、スタイル(種類)に応じて入れるビールを分けている。気になる店名の由来は、店に訪れた人のみ教えてもらえる秘密、4名以上のグループの場合は貸し切りになるため1週間前までに要予約(1時間2,000円/人 ただ、この店は少人数でサクッと飲んで帰るお客の方が似合うかも)

基礎知識とともに
ビールのマリアージュ考

「今、まさにその方法を構築中でした。〝言葉探し〞の途中なんです。すごいタイミングでやってきましたね」。ビールと料理を上手く合わせる方法を聞きに訪れた 「ヌビチノ」で、開口一番、そう言う店主の加治さん。加治さんいわく、ビールと料理の〝相性の良さ〞を分類し、言い得て妙な表現をしている文献などを見たことがない、とか。
「ビールの仕事を専門にしている私たちは〝相性バッチリ〞と言って済ませるのではなく、これからはなぜ合うのかをきちんと伝えられないとダメだと思うのです。一度整理して、誰もがスッと納得できるような共通言語を見つけ、もっと良い説明の仕方ができたら、とちょうど考えていたところでした」
加治さんによれば、私たちが「相性が良い」と感じる理由はいくつかあるそうです。それは「料理の強い味が洗い流された」「2つの要素が組み合わさることで新たな風味が生まれた」「同じ香りの方向性で、風味が強調された」「一方の風味は上がり、もう一方の風味は下がった」といったような要素で、例えば「強調」という言葉で良いのか「調和・ハーモニー」の方が正しくないか、1つずつに言葉をのせていって、図表化できたら誰もがもっとビールと料理を組み合わせやすくなるのではないかと言います。
「ところで、さらにもう1つ言葉の話をすれば、よくビールと料理の組み合わせを指して〝ペアリング〞と言いますが、クラフトビア・アソシエーションのビアコーディネーター講習では〝マリアージュ〞という言葉を使っています。ペアリングと言うと、単に『上手に組み合わせること』というイメージですが、マリアージュはビアスタイルごとの持ち味(フレーバー)と料理のフレーバーの相互作用によって、〝第3のフレーバー〞が生み出されることだと捉えているからです」。結婚(マリアージュ)して子(第3のフレーバー)が生まれる形こそ、最上級の〝相性の良さ〞を引き出すポイントだと考えているそう。

ビールは常時6種類(タップ数6)。均一価格でレギュラーサイズ(400ml)1,400円、ハーフサイズ(200ml)700円。ハッピーアワー時(オープン~20:00まで)は、それぞれ1,100円、600円になる。学割もあり。ヌビチノの店主・加治正慶さんはビアジャッジの資格を持ち(ビアジャッジとはビアテイスターの上位資格で、世界のビア・コンペティションなどで審査する知識と官能評価能力があるという認定)、2007年から国内外のアワードに審査員として参加しているスペシャリスト。

"ビアジャッジ"

さて、ここで改めて加治さんが何者か? をお伝えしますと、「ヌビチノ」の店主である一方で、ビアジャッジという資格の保有者でもあります。あまり知られていないかもしれませんが、世界各地に国際的なビールのコンペティション(品評会)があり、味や質が競われています。イギリスのIBA(1886年〜)、オーストラリアのAIBA(1993年〜)、アメリカのWBC(1996年〜)、ドイツのEBS(2004年〜)、そして日本でも毎年8月にIBC(インターナショナル・ビア・カップ)という品評会が行われていますが、時にこれらは一括りにされて「世界5大ビール品評会」と呼ばれます。I B C が始まったのは1996年のことで、先に挙げた世界のコンペティションをご覧いただくとわかるように、実は世界でも3番目の歴史を持つもの。それを主催するのが「クラフトビア・アソシエーション」(日本地ビール協会)で、加治さんはそこに属するビアジャッジ(審査員)として活躍されています。
「クラフトビールについて言えば、ダントツの種類と品質を誇り、世界を牽引しているのはやはりアメリカです。しかし、実は料理と合わせるという点では、フルーツやハーブ、スパイスといった様々な原料を使い、各時代の研鑽を重ね、地域ごとに個性のあるビールが多数存在するベルギーの方が先進国と言えるのかもしれません」
日本のビールはさっぱりとしたのど越し爽快なビールが主流のため、枝豆、唐揚げなどの塩味の利いた食べ物と組み合わせる傾向が強いですが、ベルギーのように長い歴史を持つ〝ビールの国〞では地方ごとに様々なビール×料理のマリアージュの形が確立されているそうです。その土地で採れる食材と料理、そしてビールの黄金の組み合わせは、理屈抜きで自然と備わってきた土地の文化。しかし日本にとって、ビールは、近年、外から入ってきたばかりの文化であり、北海道産の食材を使った料理と北海道で造られたビールが合うかと言えば、そう単純ではないと言います。

ビールの違いとは?

ところで、ここで気になるのが「日本のビール」と「クラフトビール」、「ベルギーの伝統的なビール」の違いではないでしょうか。私たちが普段から最も親しんでいる、大手メーカーが手がける「日本のビール」はブランドごとに優れた技術力の下、独自の味わいを造り出していますが、ほとんどがラガータイプのピルスナーというスタイルのビールです。ラガーに対してはエールというタイプもありますが、総じて、製造方法、原料、発祥国、色、香りなどにより分類されたビールのスタイルは100以上あります。「クラフトビール」とは小規模な醸造所で造られたビールとされていますが、ピルスナーに限らず、様々なスタイルのものが商品化されているのが特徴です。しかし、そうなると、ベルギーなどの伝統的なビールを造っているのも中小の醸造所の場合がほとんどのため「クラフトビール」と呼んでも良さそうですが、地元で得られる材料や水を用い、古くから伝わる製法で造ることを基本としているため、各地から自由に集めた原料を使い、様々なスタイルの味わいにチャレンジしているクラフトビールとは線引きがされているよう。そして今、造り手やスタイルごとに味わいが異なるクラフトビールに、ハマる人が増加し、それに伴い料理との上手い組み合わせ方も次第に求められるようになりつつあります。
「すでにクラフトビールの存在は世間に浸透しつつありますが、これから時代はもう1歩進むと考えています。つまり、1杯のビールに対して料理を1皿ずつ合わせていくような方向へ楽しみ方が拡大していくのではないかと思うのです。うちの店は6タップ(6種類のビール)しかありませんが、60タップある大きな店なら60皿の組み合わせの提案ができますね」
そんな加治さんも、最近、すぐご近所に姉妹店をオープンさせたと言います。その店では4種類のサンプラーセット(味見セット)とつまみの盛り合わせを組み合わせて楽しめるそうで、いわばヌビチノの〝マリアージュ・ラボ〞的な店だとか。

"ビール×料理"

それにしても、これまで〝ワイン×料理のマリアージュ〞は様々に追求されてきたようですが、〝ビール×料理〞があまり注目されてこなかったのは、なぜでしょうか。
ほんの少しだけ古い時代をたどってみれば、どちらも起源は中近東、シュメール文明の頃に、ぶどうのお酒も大麦のお酒もすでに記録が残っているそうです。そして、いずれもエジプトで発展していきますが、ワインはやがて古代ギリシャへ伝わります。古代ギリシャ帝国の末期になると地中海全域に広がっていましたが、当時はまだ食後に飲むお酒。ローマ帝国の頃に食事と共に飲むお酒になって、料理とワインには深い結びつきが生まれ始めたようです。
一方、ビールはエジプトから小アジアを経て、ヨーロッパ北部から西部へ伝わります。ビールはギリシャやローマでは好まれず、近代までは「地中海沿岸がワイン圏、ヨーロッパ中部・北部はビール圏」という構造でした。冷涼な気候に適した大麦、温暖な気候を好むぶどう…、つまり大麦・ぶどうの生育条件でエリア分けがなされたということになるのかもしれませんが、温暖な土地の方が豊かな食文化が育ちやすいというのは確かなのでしょう。
しかし、ビールとワインに共通して言えるのは、ヨーロッパの人々にとってずっと水の代わりの飲み物だったということ。日本のように清らかな水に恵まれている国は世界には少なく、ヨーロッパの人たちが水を飲んだのは1600年代にコーヒーや紅茶が伝わって、沸かせば安全に飲めるということに気づいてからだそう。そんな奥深きビールの歴史の中で、「クラフトビール」が生まれたのは1960年代頃のアメリカだと言われていますが、世界中が改めてビールの多様性に気づき、その魅力が広まったのはもっと最近のこと。日常的な飲み物から上質な嗜好品としての道を歩き始めたばかりのビール、料理とのマリアージュについてのこれからには乞うご期待、です。

※こちらの記事は、
2017年3月20日発行『メトロミニッツ』NO.173に掲載された情報です。

更新: 2017年3月20日

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