一気飲み?今やエレガントに味わうスピリッツ

|メキシコの風、吹く[8]|
第二章 テキーラの風、吹く。
アメリカに風を吹かせた、レジェンドテキーラブームの起源を語る 後編

メキシコの食文化を語る上で、無視できないのが“ テキーラ”。ただ、そのイメージは、一気飲みをして、悪酔いをするお酒、というところで止まっているように思います。しかし今、欧米を中心に、丁寧なつくりと豊かな味わいを愉しむ、極めて質の高い“プレミアムテキーラ”がブームとなり、広く親しまれているのです。そこでまずは、アメリカと日本でテキーラの風を吹かせるべく邁進するお2人に、その深い愛について語っていただきます。後編は日本編。

日本に風を吹かせる、伝道師はなぜ、テキーラに憑りつかれたのか?

私が初めてテキーラと出逢ったのは1992年、憧れのハリウッドで映画制作スタッフとして働きはじめていた頃。当時の私は、酒が全く呑めない下戸でした。しかし映画「ライジング・サン」のスタッフ打ち上げパーティーの時、主演のショーン・コネリーが一番下っ端のスタッフだった私に、わざわざロックグラスにテキーラを注いでくれたのです。お疲れ、呑め!と。正直、嫌だなぁと思ったんですが、その盃を断れるはずもありません。天下の大スターからの一杯ですから。おそるおそる鼻を近づけると、バニラのようで、華のような、まず香りが美しい。そしていざ呑んでみても度数を感じさせず、柔らかい甘さでスムーズに身体に入ってくる。そのテキーラは %アガベのアネホという高級品で、当時の最先端を行くプレミアム・テキーラでした。ハリウッドの人々は常に新しもの好きですから。しかし酒が呑めないはずの自分がこんなに気持ちよく呑め、しかも翌日朝5時から仕事だったのに全く残っていなかった。こんなお酒なら付き合ってみた!と思ったのが全てのはじまりでした。

トミーズ

翌年の1993年、サンフランシスコのトミーズを初めて訪れます。当時は %アガベがまだ法制度化されておらず表示が曖昧でしたが、トミーズのチョイスなら間違いなしという評判でしたし、何よりテキーラへの情熱が熱く、いつまでも居たいと思わせるものがありました。この直後、100%アガベは法制度化されラベルに明示されることになります。これがきっかけとなりメキシコとアメリカに100%アガベテキーラの大ブームがやってきたのです。

100%アガベテキーラはセレブ達からも引っ張りだことなり、クリント・イーストウッドがそれしか飲まないと言ったり、ロバート・デ・ニーロも大ファンを公言。私もビバリーヒルズの寿司屋で、デ・ニーロがブランコのテキーラをロックで呑みながら白身魚の刺身をかっこ良くつまんでいるのを目撃したことがあります。90年代後半からは、テキーラに魅せられたミュージシャンや俳優が次々と自分のテキーラブランドを興していきます。その頃からテキーラは一気飲みだけのお酒から、大人がスタイリッシュに愉しめるお酒へと変わって行ったのです。

2006年に日本へ帰国しましたが、日本ではテキーラの銘柄数も少なく、イメージは「罰ゲーム」と「二日酔い」ばかり。誰も一緒にテキーラを呑んでくれない。そこで悔しさも手伝って自分で日本テキーラ協会を興し、テキーラの良いイメージを伝えていこうと決意しました。2011年から始めたテキーラ・マエストロクラスの受講者も1800人を超え、日本での銘柄数も飛躍的に増えてきています。フリオ・ベルメホ氏も言うように、今まさに日本でのテキーラ文化がはじまろうとしているのを感じます。

プレミアムテキーラとは?

原料にブルーアガベのみを使用し、それ以外のものは使わない、ピュアで高品質な100%アガベ・テキーラのことをプレミアムテキーラと呼ぶ。特にハリウッドのセレブに愛され、クリント・イーストウッドやロバート・デ・ニーロはファンと公言していたり、好きが高じて自らのブランドを立ち上げるセレブも数多い。

テキーラ、ブームの歴史

15世紀~17世紀
コンキスタドール(スペイン人)によって蒸留技術が持ち込まれ、テキーラの原型である蒸留酒「メスカル」が造られる。

1758年
質の高いアガベが原生していたテキーラ地区、最古の「クエルボ蒸留所」の記録がこの年に残っている

1974年
テキーラの原産地呼称が成立。メスカルとテキーラは別のものという認識に。

1993年
「100%アガベ」の規定が定まる。北米を中心にプレミアム・テキーラブームに。

2006年
「竜舌蘭景観とテキーラの伝統的産業施設群」がユネスコ世界遺産に登録。

あの映画にも!テキーラは成功の象徴?

アメリカでの人気を示すように、様々なハリウッド映画にもプレミアム・テキーラは登場。下記の二つの作品のように、特別な祝杯を上げるシーンでテキーラはよく飲まれている。

発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントc 2014 Sous Chef, LLC. All Rights Reserved.

シェフ 三ツ星フードトラック始めました

『アイアンマン』のジョン・ファブローが監督・脚本・主演を務めたハートフルコメディ。劇中、仲間とお祝いをするシーンで「ドン・フリオ」で乾杯が行われる。

発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントc2010 Columbia Pictures Industries, Inc.and Beverly Blvd LLC. All Rights Reserved.

ソーシャル・ネットワーク

Facebook創始者マーク・ザッカーバーグの半生を描いた2011年公開作品。ジャスティン・ティンバーレイク演じるショーン・パーカーが契約成立の席で高級テキーラ「ドン・フリオ1942」を注文するシーンが。

Text:林生馬
Photo:今井広一

※こちらの記事は2015年6月20日発行『メトロミニッツ』No.152に掲載された情報です。

林 生馬さん

日本テキーラ協会会長 林 生馬さん

1968年生まれ。ハリウッドでの映画製作スタッフを経験し、帰国後日本テキーラ協会を発足。メキシコの蒸留所90ヵ所以上を訪ね、1000種類以上のテキーラを飲む。「テキーラ・マエストロ」の講座開催や様々なイベント、執筆活動、近年は飲食店のドリンクアドバイザーも行う。著書に『テキーラ大鑑』(廣済堂出版)。

更新: 2016年11月25日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop