旬は3つある

|尊敬できる鮨[5]|
鮨ダネを見極め、活かすための「旬」

店には全国から同業者が勉強しに訪れる。仕入れに関する著書は魚のプロが購入。業界の尊敬を集める第三春美鮨店主、長山一夫さんが毎日90分かけるのは、自筆の品書き。魚の産地のみならず、漁法、体重まで記載した品書きは、いわく「最高の魚を仕入れている覚悟の現れ」。さあ、当代きっての目利きによる、鮨ダネの仕入れと旬講座の始まりです。

長山一夫さん

向島生まれ、日本橋育ち。早稲田大学卒業後、家業の春美鮨本店(現在は閉店)に入店後、1973年に第三春美鮨を新橋に出店。著書に『増補江戸前鮨仕入覚え書き』などがある。

【旬】

殊の外、旬を礼賛する江戸前鮨。魚の旬は三つという長山さんの「旬の捉え方」から見えてくる、食文化と味。

ひと口に「魚の旬」といっても、長山さんによれば、①季節的走りの旬、②旨さの盛りの旬、③漁獲量的盛りの旬の三つの旬があるとのこと。「①は、実際の美味しさよりもやがて来る旨さの旬への期待を愛でる、日本独特の旬。魚種によっては熱狂的な需要が多く高価格。②は、旨さの盛りの旬。脂がのって旨みも出てくる。③は、産卵期や餌を追って群れをなすため大量に獲れる旬」。食べ手としても②と③を知ると、その時期食べるべき鮨ダネが一目瞭然。「一般的に旬の認識がずれている例は細魚。4〜5月は産卵期でたくさん獲れるから、③の観点から旬だと思う人が多いけれど、②で考えると、本当は晩秋から春先までが旨さの旬なんです」。旬を把握することは、鮨職人にとって魚の生態までも念頭に置くこと。究極の一貫にかける長山さんの魚への情熱に脱帽です。それでも「自分では当たり前のことをやっているだけなんだけどね」とさらりと笑うのは、さすが江戸っ子としての矜持、でしょうか。

”旬は3つある”

1.季節的走りの旬
「初鰹は女房を質に入れてでも食え」と諺にあるように、文化的習慣を背景に持つ初物には、昔から人々が殺到しました。それゆえ、価格も高騰する傾向に。味はまだまだこれからながら、いち早く食べておきたい!という衝動は、昔も今も変わらないようです。


2.旨さの盛りの旬
食べて最もおいしく感じる旬。脂がのり、旨み、甘みも増幅した最盛期です。鮃や鯛は晩秋から春先にかけて、産卵に備えて餌をたっぷり食べるため身肉が充実。晩秋の車海老は水温の低下と共に餌をしっかり食べるため、同じくいい肉がついてきます。


3.漁獲量的盛りの旬
春から初夏にかけて、産卵のために沿岸に近づくため大量に獲れるものの、旨さの盛りの旬は過ぎた細魚のような魚の一方で、群れで餌を追うため脂がのって、漁獲量も多い冬の鮪のように②と③の旬が合致することも。最高潮の旨みを迎えながら価格も安定。

日本の主な漁港・産地

周囲を海に囲まれた日本。太平洋側も日本海側も寒流と暖流が流れ込み、豊かな漁場に恵まれています。なかでも、おさえておきたい主要な産地をピックアップ。大間といえば鮪、氷見といえば鰤など、ブランド化している産地も。ただし、水産庁データによると、漁業・養殖業の生産量は、1984年の1,282万tをピークに減少し、2012年には約3分の1の486万tに。近年海水温の上昇により、北海道でのブリの水揚げもあるそうです。

釧路

夏はイワシやスルメイカ、秋には秋刀魚、12月に入ればウニ…と年間を通して様々な魚介が獲れる良港。

大間

スルメイカの群れを追いかけて北上する本鮪が11月頃から大間にやってくるため、最高級本鮪の産地。

気仙沼

黒潮(暖流)と親潮(寒流)が交差する三陸漁場を抱える気仙沼。鰹の一本釣りや、本鮪も揚がる。

氷見

日本海側最大の外洋性の湾を持つ富山県・氷見は、水産資源が豊富。脂がのり、香り高く旨みをもつ「氷見鰤」が有名。

焼津

江戸時代から幕府に許可された鰹漁船を抱えていた歴史ある港。遠洋の鮪漁船や鰹漁船の基地となっている。

明石

潮流が早く身の締りがいい明石鯛や明石蛸など、年間を通して約100種類もの魚が水揚げされる豊かな漁場。

唐津

全国的にも呼子のイカが特に有名。玄界灘で獲れる真鯵は脂ののりがいいといわれている。他にも鮃など

|鮨ダネの王者・マグロの豆知識|

今や、鮪といえば、押しも押されぬ鮨ダネの王者。鮪専門の仲買人や鮪を看板に掲げる鮨店など、鮪はトロを中心にもてはやされてきました。しかしながら、江戸時代前期はまずい魚として不遇な扱いを受けていた鮪。当時は、鯛の方が格上だったようですが、後期に入って醤油と出合い、ヅケの技法が広まったことで一般的に食べられるように。最近では、トロ一辺倒ではなく熟成させた赤身の美味しさに目覚める人が増えています。

◎どこを食べる?

◎マグロの断面図

大トロと中トロの位置は腹側。なかでも最も高級なのは「腹カミ」と呼ばれる部位で、ブロックごとに脂の入り方や、旨みが異なるため、品書きに部位を明記している鮨店も。背側からは主に中トロと赤身がとれ、赤身は独自の旨みをもっています。

◎主な食用マグロは全6種類

食用鮪は、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガマグロ、タイセイヨウマグロの計6種類。なかでも、クロマグロが最高級魚。

Text:浅井直子
Illustration:グルーヴィジョンズ

※こちらの記事は2015年2月20日発行『メトロミニッツ』No.148に掲載された情報です。

更新: 2016年11月17日

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