|尊敬できる鮨[4]|
鮨ダネを見極め、活かすための『知識』

店には全国から同業者が勉強しに訪れる。仕入れに関する著書は魚のプロが購入。業界の尊敬を集める第三春美鮨店主、長山一夫さんが毎日90分かけるのは、自筆の品書き。魚の産地のみならず、漁法、体重まで記載した品書きは、いわく「最高の魚を仕入れている覚悟の現れ」。さあ、当代きっての目利きによる、鮨ダネの仕入れと旬講座の始まりです。

長山一夫さん

向島生まれ、日本橋育ち。早稲田大学卒業後、家業の春美鮨本店(現在は閉店)に入店後、1973年に第三春美鮨を新橋に出店。著書に『増補江戸前鮨仕入覚え書き』などがある。

【仕入れ】

50年以上も築地に通い、産地表示もない時代から仲買人と闘ってきた長山さんの仕入れの極意とは?

「なぜ、産地まで足を運ぶかって?だって魚のプロ中のプロである仲買人が質問に答えられないっていうからね、じゃあ、直接聞きにいこうと思ってサ」と、歯切れのいい江戸っ子口調で幕を開けた長山さんによる「魚アカデミー」。

「最高の魚で握りたい」一心で、今まで訪れた全国の産地は50ヶ所以上!なかには、何度も通う産地もあるほど。そのまま、深く厚い(熱い?)魚の話に突入したい気持ちをぐっとおさえて、ここで、築地における仕入れの流れについて少々ご説明を。産地から築地に届いた魚は、まず「荷受」という大規模な卸5、6軒の元へ。

そこから約630軒ある「仲買人」の手に渡り、流通関係者や飲食店は仲買人から購入します。仲買人とトップの魚を求める鮨職人はお互いに毎回が真剣勝負。300年程前のある日、長山さんは、それまで仕入れていた最高級の相模湾産真鯵(黄鯵)に代わって登場した南淡路島産真鯵のおいしさについて仲買人に質問します。しかし、納得のいく答えが得られず冒頭の次第に。

生来の探究心から現地へ飛び、漁船に乗り込み、さらに流通の仕組みも学びます。「当時革命的なトラック便を実現した流通業者さんが南淡路島にいてね。鮮度のよさと同時に、旨みが出る熟成時間も含めた流通が旨さの秘密だった。魚の旨さの捉え方、仕入れの考え方の原点はあの真鯵ですね」。築地でさえも魚の産地表示がなかった時代に、長山さんの産地巡礼がこうしてスタート。得た情報は仲買人と共有していきます。

「全国から築地を目がけてものすごい量の魚が届いてその中から選抜されるんだから、産地直送の時代になったとはいえ、やっぱり築地のレベルはすごいんです。仲買人とずいぶんケンカもしてきたけど、産地偽装もある時代。やっぱり最後は魚について真実の情報を交換できるようにお互いが目利きになって信頼関係を築くことが大事。そうじゃないと、いい魚なんて絶対に出てこないんですよ」。

実力派が揃い踏み!鮨ダネの友

醤油

江戸前鮨は各店独自配合の煮切り醤油を使用。鮨職人は鮨ダネによって、煮切り醤油の塗る量を微調整している。鮪や鰤、鰹など脂が強いものにはたっぷりと。白身系など淡白なものは控えめが基本。

ワサビ

御殿場産の最高級ワサビ「真妻」は、甘みがあるという長山さん。醤油と同じく、鮨ダネによって使用量を調整。繊細な香りと旨みは脂に負けてしまうため、マグロなどにはたっぷりと。脂の少ない白身系には少量で。ワサビには殺菌効果も。

お茶

昔から鮨店のお茶は粉茶が一般的。一節には、せっかちな江戸っ子気質に合うためとか?お茶に含まれる渋みや苦みが魚の生臭さをさっぱり洗い流す。第三春美鮨では、うおがし銘茶の最高級の粉茶を新茶とともに季節を追って使用している。

ガリ

口直しに添えられる生姜の甘酢漬け、ガリ。握りの邪魔をしないよう甘酢の塩梅が鍵になる。6月~7月になると新生姜のガリが登場するのも、短い旬を楽しむ江戸前鮨ならでは。長山さんは高知県で採れる香り高い生姜を使用。

Text:浅井直子

※こちらの記事は2015年2月20日発行『メトロミニッツ』No.148に掲載された情報です。

更新: 2016年11月10日

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