もっと知りたい羊大国の事情

|羊肉の饗宴 Banquet of Sheep’s Meat[2]|
世界"ヒツジ"見聞録

現在、世界の羊飼育頭数は、1位中国、2位インド、3位オーストラリア。もちろん、これらの国々ではよくヒツジを食べるわけですが、各国、羊肉との付き合い方は全く異なります。そこで現地の羊肉事情に詳しい方に話をお聞きしました。まずインドは、東京スパイス番長のお2人。オーストラリアについては、オージー・ラムの三橋さんです。

[1]インド編 by スパイス番長

【東京スパイス番長】
インド・スパイス料理を研究する日印混合料理ユニット。メンバーは、シャンカール・ノグチさん、ナイル善己さん、水野仁輔さん、メタ・バラッツさんの4人。今回は、シャンカールさんとナイルさんに、『チャローインディア2011』(イートミー出版)をもとに話をお聞きしました。それは年に一度、4人が料理の研究のために渡印するマニアックな旅の記録本で、2011年号のテーマが「マトン」。現在、2010~2013まで全4冊刊行

たぶんきっと、マトン料理の可能性は∞

インドでは、牛、豚を食べる習慣があまりなく、そこで主な食肉は、トリ、ヤギ、そしてヒツジなど。羊肉を食べる時には、ラムではなくマトンばかりだそうです。とは言え、聞けば「マトン」があのマトンとは違うモノだったりすることもあるようで。というわけで、銀座「ナイルレストラン」へ、東京スパイス番長のシャンカールさんとナイルさんにお会いしました。

●シャンカール・ノグチさん(写真右)1973年、東京生まれ。貿易商。アメリカ留学後、帰国し、インド人の祖父が立ち上げた「インドアメリカン貿易商会」の3代目となる●ナイル善己さん(写真左)1976年、東京生まれ。銀座の老舗インド料理店「ナイルレストラン」3代目。祖父はインド独立運動家であり、店の創業者A.M.ナイルさん

シャンカールさん(以下S):インドは人口の8割がヒンドゥー教徒で牛肉が、残りはほとんどがイスラム教徒だから豚肉が食べられません。だから肉は自然とチキンになりがちだけど、たまに贅沢する食べ物としてマトンが広まったらしい。
ナイルさん(以下N):街中のレストランのメニューでも、大体「野菜」「チキン」「マトン」って分け方になってますよね。
S:値段は、特別高いこともなく1キロ1000円くらいかな。マクドナルドのビックマックもマトンだし。
N:でも、世界的にラムは仔羊、マトンは成羊のことだと思うけど、実はインドで「マトン」と言えばヤギだったりもして。
S:インドでは、ヒツジも「マトン」って呼ぶけど、ヤギも「マトン」。でも、マトンはヤギだと思っている人の方が多いかな、と。
N:ヒツジは群れじゃないと飼育できないから、1匹でも飼えるヤギの方が一般家庭に普及したってことなんじゃないかなと思う。そう言えば、郊外へ向かうハイウェイを走っているとヒツジの群れと出くわしたりして、一見、野良のように見える。一応、放牧しているということらしいけど。
S:インドでは解体してまもなく食べるせいか、新鮮で、何回食べてもマトンが臭いと思ったことは一度もなかったね。
N:インド人はスパイスの使い方も熟知してるから、臭みを消す食べ方をよく分かっていることもあるのかと。一番使うのは、カルダモン、ローリエ、クローブ、シナモンで、これだけあれば十分。
S:あとはナッツ類や乳製品と煮込むのも、マトンを簡単に美味しくするコツみたいで、インドで食べたマトンコルマ(カレー)は絶品だった。煮込みすぎるとトロトロになるけど、食感を残したままガッつくように食べるのがオススメだな。
N:ラムは柔らかくて食べやすいけど、身が引き締まって食べ応えがあるマトンってクセになるよ。マトンビリヤニ(炊き込みご飯)は日本でも流行ってきてるし、スパイスで焼いて赤ワインを合わせるのも最高に美味い。
S:インドは、塊肉を焼くだけ・煮るだけのシンプルな料理が多いよね?ナイル:まぁ、肉は豪快に食べる方がテンション上がるじゃん。
S:でも、ジンギスカンみたいに薄切りにする文化もないでしょ?あ、豚じゃなくてマトンの生姜焼きとかも美味しそうじゃない?
N:確かに。インドはもともとベジタリアンの国で、肉食文化は北インドを支配した16世紀ペルシャ人が持ち込んだ。だから、調理するノウハウを持っていなくて、初めはペルシャやアラブからシェフを呼んで調理法を教えてもらったって話もあるらしい。いまだに南の方ではあまり肉を食べないしね。昔から、羊毛のためにヒツジを飼う文化はあったけど、食べるようになってからは、多分、歴史が浅いんじゃないかな。
S:つまり、まだ新しい可能性が見つかりそうだし、研究する楽しみもある。
N:スパイスで辛みを付けてもいいし、ローズマリーとかのハーブを使って爽やかにしても良い。マトンのクセにはいろんな味付けを試せて、それを考えるだけでも楽しいのかも。

オーストラリア編 by オージーラム

青空の下、ラムとワインが至福の”ごちそう”

オーストラリアは”移民の国”。アジア、ヨーロッパ諸国から移り住んできた人たちが多く暮らし、ゆえに食文化も多国籍です。街を歩いても中華、イタリアンなど世界各国料理の店が並びますが、その中に「オーストラリア料理」というものは見当たりません。国の代表料理と言えば、バーベキュー(BBQ)でしょうか。そして、そこにはいつもラム肉の姿が…。

オーストラリアでは「一家に一台BBQコンロ」というくらい、バーベキューは1つの食事のスタイルとして定着している。週末の度に、自宅の庭で、海岸や公園で(公共のBBQ設備があり、ほとんどが無料)、楽しんでいる

そんなイメージはないかもしれませんが、実は、オーストラリアは美食大国です。大自然から得た豊かな食材を用い、さらに多国籍である利点を生かした、各国の良いとこ取りの創作力豊かなフュージョン料理というものも多く、他国には類を見ない、個性的な食文化が育まれてきました」さてインドに続き、今度はオーストラリアの羊肉事情について。お話を伺ったのは、オージー・ラムの三橋一法さんです。

のっけから「オーストラリアの料理は伝統ではない分、モダンでファッショナブルと言えるかもしれません」なんてお話でしたが、では、羊肉についてはいかがでしょうか?「オーストラリアでは、ラム肉は日常的な食べ物ではなく、少し特別な肉という位置付けです。結婚式のメインディッシュに出されることもありますが、一番多い食べ方は、間違いなくBBQでしょう。家族や親しい人たちが集まって、毎週のように週末はBBQをしたりしますが、その日の一番のメインイベントとしてラムの塊肉を焼くことがあります。また、BBQのスターターの肉、つまり乾杯時のごちそうとして骨付きのラムチョップを焼くこともありますね。例えば日本の焼肉であれば、薄くスライスされた肉を箸などで焼くことになりますが、ラムチョップの場合は骨をそのまま手で持って、手軽に焼くことができる。肉が小さいので、ワインやシャンパン片手に焼きながらでも食べられます(そんな姿がカッコ良かったりも)。お肉には赤みが残っている方が美味しいので、表面を軽くローストするだけで十分。味付けは塩コショウだけでも美味しいですし、ローズマリーなどハーブを加えても、ジンギスカンのような醤油ベースのタレで炙っても、はたまたニンニクとレモン汁が効いたヨーグルトソースみたいなものをつけても、いかようにしてもワインとの相性の良さは絶対的。脂の多い肉であれば一口が胸に重くのしかかり、口直しに白飯が食べたくなることもありますが、赤身のラムは軽いので量を食べられますし、あの独特な香りはお酒のおつまみとして、実に優れています」

近年、都内のカジュアルなワインバーやバルでラム肉料理を提供している店を見かけるようになりましたが、それは嬉しい傾向だと三橋さんは言います。牛肉のようにいつでもどこでも美味しい万能肉ではなく、お酒の傍らで、特別なシーンを演出するのに長けているのが羊肉なのだ、と。また、昔は香りが好きではないと言っていたのに、最近、改めて食べて、羊肉の美味しさに目覚めた人も増えているそうです。それは、今、日本国内に流通している羊肉の60~70%がオーストラリア産という中で、現地の生産者たちの品質向上への意識がとても高まっていること、輸送技術の進化、そして知識を身に付けた日本の飲食店が正しい取り扱い方をしてくれるようになった相乗効果らしく。こうして、今、東京では味と香りと鮮度の良いオージー・ラムが広がりつつあるそうです。

オージー・ラム

オーストラリア産羊肉に関する知識と情報を日本の食肉業界に伝える、MLA豪州食肉家畜生産者事業団。現地の生産者と日本の業者をつなぐ。なお、オーストラリアは人口の約3.3倍の羊が暮らす国。国内の食肉の消費量は、牛、鶏に次ぐ、3位が羊(豚が4位) http://aussielamb.jp/

オージー・ビーフ&ラムで、きれいになる!伊達式赤身肉レシピ

「ラム肉の塩麹焼き」から「ラムの土鍋ご飯」まで、ラム料理が充実している、赤身肉のレシピ本。管理栄養士・ダイエットカウンセラーの伊達友美さんによる監修で、ぜひおすすめしたい1冊です。伊達友美・著マガジンハウス刊1,296円

Text:田島太陽、メトロミニッツ編集部
Photo:米山典子

※こちらの記事は2015年2月20日発行『メトロミニッツ』No.147掲載された情報です。

更新: 2016年10月29日

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