今、全力でおすすめしたい作品集

|“食べる”を見つめる映画|
“食べる”を見つめる映画ガイド③

日々の食べることが楽しくなったり、食べることへの意識が変わったり、誰かと食べる時間が幸せに思えてきたり…。観ればそんなふうに暮らしに良い影響を与えてくれる映画を、食に携わる人、映画に携わる人、それぞれの目線から選んでいただきました。

千と千尋の神隠し(2001年/日本)

c 2001 二馬力・GNDDTM

両親と共に引越し先へ向かう10歳の少女、千尋。やがて千尋たちの乗る車は「不思議の町」へと迷い込んでしまう。奇妙な町の珍しさにつられ、どんどん足を踏み入れていく両親は「不思議の町」の掟を破って豚にされてしまう。ひとり残された千尋は町を支配する強欲な魔女“湯婆婆”に「名前」を奪われ、豚になった両親を助けようと、そこで働き始める。現代日本を舞台に少女の成長と友愛の物語を描く、“自分探し”の冒険ファンタジー。※ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンよりDVD(4,700円)発売中

豚にされた両親は過剰に食べまくる醜い欲望の象徴として表現されている一方で、千尋は働くことの大切さを知っておにぎりひとつで感動する。これを見ると、食事の時に噛む回数が増えるんです。ひと口20回噛んで味わって、自分が欲しい身の丈に合う食べ物で満足しようって。大量消費とか食べ放題とか手当たり次第食べるのは人としてどうなの?ということだと思うんですね。現代社会が、宮崎監督の頭を通して描かれていると思います。

ブレイキング・ニュース(2004年/香港)

香港警察と銀行強盗団による、メディアを巻き込んだ緊迫の攻防を描いたサスペンス・アクション。香港の市街地で、壮絶な銃撃戦が発生。しかし警察は犯人グループを捕り逃し、偶然現場に居合わせたテレビ局のカメラによってその一部始終が報道されてしまう。警察はPTU(機動部隊)にカメラを装備し、犯人逮捕の瞬間をテレビ中継するという戦略に打って出る。一方、犯人グループはアパートの住人を人質にとって篭城を始めるのだが…。

立てこもっている強盗団が人質と一緒に調理場で炒め物を作って食べるところを、カメラの向こうにいる警察にこれ見よがしに見せて挑発するシーンがあるんです。すると警察は普段より豪華な弁当を支給して、喜んで食べているところを見せてお返しするんですね。やっぱり食べることは生きる基本だし、男臭い暴力的な世界で、食で張り合うのが面白い。単に美味しそうと感じるだけでなく、これを見ると必ずご飯を食べたくなりますね。

オススメ人:ドキュメンタリー監督 松江哲明さん

日本映画学校卒業制作で監督した「あんにょんキムチ」が文化庁優秀映画賞など多数の賞を受賞。監督作品は「カレーライスの女たち」「セキ☆ララ」「童貞。をプロデュース」「あんにょん由美香」「トーキョードリフター」など。11月7日より東京現代美術館で開催される「東京アートミーティングⅥ」に参加し、短編作品を発表。

バベットの晩餐会(1987年/デンマーク)

19世紀後半のデンマークの小さな漁村。プロテスタント牧師の父を持った姉妹の下へ、パリ・コミューンで父と息子を亡くしたフランス人女性・バベットが移り住んでくる。彼女は家政婦として長年姉妹に仕えるが、知人にもらったクジによって1万フランを得る。バベットはその金を使って村人たちのために晩餐会を開きたいと申し出る…。20世紀のデンマークを代表する女流作家カレン・ブリクセンの同名小説を映画化した心温まる群像劇。

「バベットの晩餐会」 美味しい料理は、頑な人の心を氷解させる力がある。人々に一時の幸せを与えることができる。そして何より、人々を幸せにするほどの料理を作りたいと思う才能と情熱は、何物にも代えがたいものなのだ、と思わせる素晴らしい映画です。これを見てから、感動するほど美味しい料理を食べた時、料理人の人生を想像するようになりました。また、食事の時の会話を大事にして、食卓を囲む時間を大切にしたいと思うきっかけにもなりました。

★野村友里さんもオススメ!
気難しい人達が美味しい食事を食べたとたん顔がほころび、いがみ合っていた人々の間に会話が生まれる。元シェフだったバベットは美味しい食事を作りたいという一心で全財産をはたいて食材を調達する。そのバベットのただ純粋な料理に対する思いと映画全体に映し出される美しさが心に残る名作です。女性シェフとしてひたむきな情熱、美意識に感銘を受けた作品です。

オススメ人:プロデューサー 天野真弓さん

1992年よりぴあフィルムフェスティバル事務局スタッフとして参加。『渚のシンドバッド』『ひみつの花園』のプロデュースを経て、1999年に手がけた「タイムレスメロディ」で第4回釜山国際映画祭のグランプリを受賞。2014年、SARVH賞( 年間最優秀プロデューサー賞)を受賞。「かもめ食堂」「過ぐる日のやまねこ」など作品多数。

ゴッドファーザー(1972年/アメリカ)

ショコラ(2000年/アメリカ)

あん(2015年/日本・フランス・ドイツ)

家族ゲーム(1983年/日本)

映画の食事シーンは、心に深く残るものが多いです。それは食事そのものより、“食卓”が持つ意味合いが映画によって異なり、登場人物の関係性や心象風景を端的に示すものであるからだと思います。『ゴッドファーザー』の食事シーンでは、血のつながりを超えたファミリーが食卓に顔を揃えているのが特徴的ですし、大人の恋愛を描いた『ショコラ』は、大切な誰かと食卓を共にする時間そのものが幸せだというメッセージを感じられます。邦画で印象的なのは、松田優作が主演を務めた森田芳光監督の『家族ゲーム』。横一列に家族が並んで食事をするシーンは、この映画が示す世界観を体現するようで、強烈に脳裏に焼き付いています。また僕自身が以前和菓子を題材に脚本を書いたこともあり、あんこを題材にした映画の『あん』の描き方には、シンパシーを感じました。

オススメ人:クリエティブカンパニー NAKED代表 村松亮太郎さん

映像、空間、グラフィックなど様々なアートワークを手がけるクリエイティブカンパニーNAKEDの代表。代々木上原にある飲食店『9STORIES』、コールドプレスジュース『NAKED JUICE』のディレクションとプロデュースも務める。

あん(2015年/日本・フランス・ドイツ)

c2015 映画『あん』製作委員会/CDC/TTV/Z-A

どら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)。常連客の中学生、ワカナ(内田伽羅)。ある日、店の求人募集をみて、そこで働くことを懇願する老女、徳江(樹木希林)が現れ、どら焼きの粒あん作りを任せることに。徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。しかし心ない噂が、彼らの運命を大きく変えていく…。たくさんの涙を超えて、生きていく意味を問いかける作品。

樹木希林さん演じる老女は「あんこを作りたい、作れることが嬉しい」という気持ちで真心こめて素晴らしいあんこを作るんですね。その姿を見て千太郎も丁寧に作ることの喜びを知る。あんこひとつでも、真心のこもった食べ物には人ひとりの人生を変える力があると実感しました。私は料理が大好きで、あれこれ工夫したり、美味しいものに出合うと家で再現するのも好きなので、日常で感じている“作る喜び”を再認識した映画でもあります。

海街diary(2015年/日本)

鎌倉に暮らす三姉妹のもとに届いた、父の訃報。15年前、父は家族を捨て、母(大竹しのぶ)も再婚して家を去った。父の葬儀で三姉妹は腹違いの妹すずと出会う。すずの母は既に他界し、頼りない義母を支え、気丈に振る舞う中学生のすずに、長女の幸は思わず声をかける。「鎌倉で一緒に暮らさない?」。海の見える街を舞台に、四姉妹が絆を紡いでいく。深く心に響く、家族の物語。※DVD(4,104円)、blu-ray(5,076円)発売

他の作品でも言えることですが、是枝監督は日常生活の描写をとても丁寧にされる方。食がメインではないのに、中でも食事シーンの丁寧さが際立っているのがこの作品です。生シラス丼やアジフライなど、湘南ならではの美食の数々が登場しますが、“食べ物をうまく撮れる監督は優秀だな”とつくづく感じます。どんな料理が出ているかをきちんと見せたり、実際に人が食べていることが、美味しそうで丁寧な描写につながっていると思います。

映画評論家・渡辺祥子さんの食べるを見つめる視点

食べることを丁寧に描いてきたのは、日本よりも外国映画の方がずっと先。有名なのは『バベットの晩餐会』で、食べ物が様々な形で人の心を満たし、動かすことを描いています。昭和の日本映画は食べ物が印象に残らないのが普通で、小津安二郎さんの作品にちゃぶ台でご飯を食べたり飲み屋のシーンが出てくるのが数少ない例外でしたが、平成に入って食を取り入れた映画がどんどん増えています。食事シーンは、目を引きますし、家族などの人間関係も見せられるので、作り手からするとお手軽な面もある。食べ物を観るのは楽しいのですが、食べることの幸せや考え方を基に作られる作品は稀。「美味しそう!」だけでごまかされず、その先を見つめるようにしています。個人的に「どんな美味しいシーンを見られるかな」と楽しみにして観るのは台湾映画。菜っ葉の炒め物やスープなどが出てきて、どれも美味しそう!って思いますよ。今、世界で一番多くの国の映画を観られるのは日本。ブルガリアや中東など、馴染みのない国の映画で、食のシーンに注目すれば、そのお国柄も見て取れて面白いです。

オススメ人:映画評論家 渡辺祥子さん

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共立女子大学文芸学部芸術学科映画専攻を卒業後、「映画ストーリー」編集部を経て、映画ライターに。キャリア40年のベテラン映画評論家として各メディアで活躍。著書は「映画とたべもの」「食欲的映画生活術」などで、近著の「アカデミー賞記録事典」(キネマ旬報社)では授賞式レポートや受賞記録とその分析などを紹介。

Text:大高志帆、冨手公嘉、松元典子、メトロミニッツ編集部

※こちらの記事は2015年10月20日発行『メトロミニッツ』No.156掲載された情報です

更新: 2016年11月6日

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