今、全力でおすすめしたい作品集

|“食べる”を見つめる映画|
“食べる”を見つめる映画ガイド②

日々の食べることが楽しくなったり、食べることへの意識が変わったり、誰かと食べる時間が幸せに思えてきたり…。観ればそんなふうに暮らしに良い影響を与えてくれる映画を、食に携わる人、映画に携わる人、それぞれの目線から選んでいただきました。

パリのレストラン(1995年/フランス)

パリの小さなレストランの閉店前夜。35年間にわたりお店を切り盛りしてきたシェフのイポリットは妻のジョセフィーヌと共に最後の晩餐会を用意する。閉店前夜の様子とレストランに関係する人たちのそれぞれの人生を、作家であるオーナー夫婦の息子の視点から描く。厨房のなかの描写や料理もリアルで観ていてお腹が空く。

『レストランという商売は、人を幸せにするものだ』とシンプルに肯定したくなる映画です。厳しいけれど人間味溢れるシェフ。それを支えるマダム。常連のおじいさん。子どもとその仲間たち。お店の従業員たち。街の小さなお店を切り取ってもそれぞれにいろんな人生を抱えている。レストランという小さな劇場のなかの、そんなドラマを映し出してくれています。観終わって、すぐさまレストランに足を運びたくなりました。

ある精肉店のはなし(2013年/日本)

大阪府貝塚市で7代にわたり、家族経営で精肉店を営んできた一家の姿を捉えたドキュメンタリー映画。被差別部落出身者として理不尽な差別を受けながらも、牛の命と正面から向き合ってきた家族の姿が描かれている。

精肉店であり、屠畜もされていた家族の営みを静かに描いた本作。生き物の命をいただいて、食べて、生きている。それは当たり前のことのようですが、忘れがちです。そんな時代に、社会から見えにくくなっている大切な「食」の現場をスクリーンに映し出してくれた意義は大きいと感じます。本作を観て、ひたすら命をいただくことの「ありがたい」という気持ちを感じることができました。また、劇場で同じ回を見ていた若い観客が「お肉を食べに行きたくなったね」と語っていた様子を目の当たりにして、とても共感できました。手塩にかけて育てた生き物を丁寧に解体し、大切にいただく、という映画の世界観に共感したのだと思います。きっと彼らがあの夜に食べたであろうお肉料理は、いつにもまして美味しかったのではないか、と想像します。

メゾン・ド・ヒミコ(2005年/日本)

c2005「メゾン・ド・ヒミコ」製作委員会

オダギリジョーと柴咲コウ主演の日本映画。ゲイのための老人ホームを舞台に、ゲイの父を毛嫌いしていた女性、余命いくばくもないゲイとその恋人、そして年老いたゲイ達による悲喜交々の人間模様が描かれている。 ※DVD(2,381円)発売中。発売元/アスミックエース/KADOKAWA

これは食事を主軸に描いている映画ではありません。しかし「メゾン・ド・ヒミコ」というゲイのための老人ホームでの食卓のシーンがあまりに印象的だったため選出しました。共有できる過去をもち、心を通わす者同士が共に食事をする場面である食卓の持つ力、食事という行為の美しさを再認識させられた映画です。セクシャルマイノリティーである老いたゲイたちの手料理の見事さ、美しさ。そして賑やかな食卓の風景に心を揺さぶられました。それは食事そのものを大切にするという姿勢が、ひいては自分らしさを大切にし、自分の生き方に誇りを持つことにつながっていくのでは、と感じさせられたからです。人が老いていくなかで、自分らしさを支えるために「食」があるのだ、と再認識しました。

過去のない男(2002年/フィンランド)

2002年に公開されたフィンランド人監督、アキ・カウリスマキの敗者3部作の2作目。列車に揺られ、ヘルシンキに流れ着いた1人の中年は、明け方暴漢に襲われ、瀕死となる。生死をさまよったものの意識を取り戻すが、過去の記憶を全て失っていた。彼は幸運にもコンテナで暮らす一家に手を差し伸べられ、共に穏やかな生活を送りはじめる。救世軍からスープが振る舞われる金曜日、支給場所で、ある女性と運命的な出会いを果たして…。

この映画に限らず、監督であるアキ・カウリスマキの作品に登場する中年の男女は、たいていはうだつのあがらない、ぱっとしない人々です。本作の食卓のシーンも質素で決して豊かとは言えません。しかしそれでも心ひかれあう中年の男女が共に食べることの豊かさが、人が生きていることを肯定してくれる。ちょっと大袈裟ですが、そこまで感じさせる力を持った映画です。食卓を豪華に飾り立てなくても、最低限の生活の食事風景からある種の幸福感を感じることができる。不思議とこの監督のどの作品でも、同じような感動が生まれる。すべての作品の食事シーンにも、さりげなく飲食が映画のシーンや情景にきちんと寄り添っているところがまた憎いです。

オススメ人:辻調理師専門学校 メディア・プロデューサー 小山伸二 さん

「食」の総合教育機関の広報担当として出版企画、テレビ・映画での制作協力、イベントプロデュースなどを手がける。食生活ジャーナリストの会・幹事、日本コーヒー文化学会・常任理事。専門はカフェ・コミュニケーション論。詩人として「cloudnine」などで活動。著作に詩集『きみの砦から世界は』(思潮社)など

エグザイル 絆(2006年/香港)

マフィアのボスの命を狙ったために“追われる身”になった男・ウー。ウーを殺すために送られてきた2人の男。さらに、ウーを守るために乗り込んできた2人の男。“追う側”と“追われる側”に分かれて再会した男たちは、ともに育った幼なじみだった……。返還目前のマカオを舞台に、裏社会に生きる男たちの友情やロマンを描く香港ノワール。ケレン味たっぷりの銃撃シーンは、ジョニー・トー監督ファンならずともしびれるカッコよさだ。

敵味方に分かれ殺し合いをする直前の男たちが、一時休戦し料理を始めるシーンが印象的。闘いと料理、という一見結びつかないようなふたつの行為が、実は「欲望/欲求」という点でつながっているのでは、と思える映画。

ジュリー&ジュリア(2009年/アメリカ)

アメリカの一般家庭にフランス料理の大ブームを巻き起こした伝説の料理本の著者ジュリアと、彼女の料理本に登場する524レシピを1年で制覇するという無謀なブログをはじめた現代女性ジュリー。実話にもとづき、異なる時代に生きる悩める女性の人生が、おいしい料理を通して重なり合う様を描く。『ユー・ガット・メール』などの恋愛映画で多くの女性に支持されたノーラ・エフロン監督の遺作。 ※ソニーピクチャーズエンタテインメントからDVD(1,410円)、blu-ray(2,381円)発売中

料理をつくることで、ふたりの女性がそれぞれに自分への自信を得ていく過程が楽しい。何か自分だけにできることをしたい。その目標がなぜ料理なのかは明言されないが、とにかく彼女たちが時間をかけて自分を確立するために必要不可欠なものだった、と映画は教えてくれる。料理とはつまり未来を想像することなのかもしれない。

オススメ人:映画酒場編集室 月永理絵さん

映画をめぐる個人冊子『映画酒場』の発行人、映画と酒の小雑誌『映画横丁』(株式会社Sunborn)の編集人。映画パンフレットの編集や書籍の執筆なども手掛ける。「人間の欲望にシンプルに立ち返ろうとしたとき、食というテーマが必然的に浮かびあがってくるのかもしれない」、と昨今の食映画の潮流を考察

ありあまるごちそう(2005年/オーストラリア)

cAllegrofilm 2005

十分な食糧が生産されながら、なぜ世界から飢餓はなくならないのか。その答えを探すため、ヨーロッパを中心に食糧の流通を追ったドキュメンタリー。ウィーンで毎日捨てられる大量のパン、フランスの大型船が獲る鮮度の落ちた魚などなど。当たり前に食べている食品のセンセーショナルな映像も多く、改めて“食”や“世界の均衡”について考えさせられる。 ※紀伊国屋書店よりDVD(3,800円)発売中!

この作品が描くのは、大量に廃棄されるパンの原料を作る労働者は飢えているという不均衡と飢餓の問題です。食糧問題についての映画というと食の安全や生産の背景を問うようなものが多いですが、この作品は流通システムを取り上げていて、その切り口が面白いと思いました。食の問題をこれまでとは別の視点から見ることで、自分が食べることと世界とがつながっているということを考えさせられました。

ファーストフード・ネイション(2006年/アメリカ)

ファーストフード業界の内幕を描いたルポルタージュ『ファーストフードが世界を食いつくす』の映画化。大手ハンバーガーチェーンの本社幹部社員、店舗で働く気楽な学生アルバイト、下請けの生肉工場で酷使される不法移民という3者の日常が、牛肉パテへの大腸菌混入事件をきっかけに交わっていく。食の安全だけでなく、格差や移民、環境破壊など、現代アメリカが抱える問題点をあぶり出す。ショッキングな事実もてんこ盛りだ。

ドラマとしても面白くわかりやすくできています。社会が「ファーストフード化する」ということについての映画だと思うのですが、それは他者への理解を放棄することなのだと思いました。そんな社会になってしまっているのだからしかたがないのですが、そのことを考え続けることだけはやらないといけないと感じました。

オススメ人:ライター/映画観察者 石村研二さん

ライターとして「greenz.jp」のウェブサイトなどで活躍。映画観察者として、作品のレビューを書き綴った「ヒビコレエイガ(」http://cinema-today.net/)を14年間続けており、“エイガを日常に”すべく活動している。上記のに作品のほか、『肉』(1976年、アメリカ)、『ソウル・キッチン』(2009年、ドイツ)もおすすめだそう。

Text:大高志帆、冨手公嘉、松元典子、メトロミニッツ編集部

※こちらの記事は2015年10月20日発行『メトロミニッツ』No.156掲載された情報です

更新: 2016年10月30日

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