|尊敬できる鮨[3]|
鮨を完成させるための「技術」

仕入れた魚をそのままシャリに載せるのが鮨にあらずひとつひとつの鮨ダネに丁寧に仕込みをしてもちろんシャリにも店ごとの味を追究して…そんな鮨の醍醐味である職人の技をご紹介します。

「整える」

「鮨ダネにシャリを合わせるのではなく、シャリに合わせて鮨ダネを手当てする」。今回取材したお店の多くは口を揃えて言っていました。鮨屋の味のベースになるのは鮨ダネよりもシャリ。酢の調合や炊き方、温度、米の選定などで個性が表れています。自然な甘さを出すため、合わせ酢には酢と塩のみ。その合わせ酢をご飯が温かいうちに回しかけ、「切る」ように手早く混ぜる。人肌くらいに冷めればシャリの完成です。

〈江戸前の伝統は赤酢〉
江戸前寿司の原型を作ったとされる華屋与兵衛をはじめ当時のシャリには、酸味が強く、酒粕で造られた赤酢が使われていました。今も伝統を守る鮨店の多くは赤酢にこだわり、米酢を使った白いシャリと2種類用意しているところもあります。

「握る」

カウンターでは親方の前が特等席であり、予約時に席指定があるほど(一見は案内されない限り特等席を避けるのがマナー、いわんや席指定予約を)。基本の「本手返し」、現代の主流「小手返し」といった型はありますが、多くの職人は「見よう見まね」で親方の握り方を見て盗み、自らの握りを確立していくのだそう。柔らかい赤身は固めに、身がしっかりした白身は柔らかめにと鮨ダネによってバランスを整え、さらには「お客さんが手で食べるか、箸で食べるか、最初の1貫を見てから柔らかさを変える」という店も。

〈理想的な握りとは?〉口に入れた瞬間にシャリがほどけ、タネと溶け合っていく…。これがよく言われる理想の握り。米粒の1粒1粒が立っていて、その間に空気を含み、柔らかく握られた鮨は、置いた瞬間沈むとも言われています。

「巻く」

実は海苔にも裏表があり、艶があってツルツルした方が表、ザラザラした方が裏。裏側を火であぶり、海苔の表が下になるようにして巻くのが一般的。角型に成型し、海苔の継ぎ目も綺麗に…、見た目にも美しく巻くのにも熟練の技が必要

関西では「巻きずし」、関東では「海苔巻き」と呼ばれ、細巻きが考案されたのは江戸時代。たいていお決まりの場合は最後に出され、お好みで頼んだお客も最後に頼むことが多い。いわば〆の合図なだけに、その店の印象を左右する侮れない存在。まず下準備として海苔は軽くあぶって、磯の香りを立たせる。破れやすい海苔には簾を使います。米粒がつぶれないように、しっかりと成型されるように、シャリとその日のタネの具合を見ながら絶妙な力加減で巻かなければならないのです。

「締める」

シメサバ、ヒラメのコブ締め、スズキなどなど、塩で締めて、酢で締めて旨みを引き出す技法ですが、なんと言ってもコハダ。実はそのまま食べてもあまり美味しくない魚なのですが、締めることで江戸前の代表的な鮨ダネに昇華されるのです。その日に仕入れた素材の具合によって分単位で締める時間が管理されます。

「煮る」

かんぴょう、タコ、しゃこ、穴子、蛤、あわびと煮て鮨にするタネはいろいろありますが、火の入れ具合はそれぞれ。例えば、穴子なら弱火でじっくり煮ることでふんわりした食感を目指しますし、蛤ならさっと通してぷりぷりの食感に。煮汁を閉じ込め、旨みをさらに広げる、江戸前ならではの仕事です。

「焼く」

スフレのよう、プリンのよう、鮨屋の卵焼きはその食感と美味しさからそう評されます。海老や白身魚のすり身、山芋、砂糖に味醂を加えるのが一般的。焼き時間は30分とも、1時間とも、しかも付きっ切りでお世話しなければならない。魚が主役の鮨ですが、脇役にもこれだけの時間と手間をかけているのです。砂糖、味醂の分量によって、焼き加減も変えなければならず、卵焼きを一人前に作れるのに何年もの修業を要するとも言われています。

「切る・おろす」

良い魚を仕入れても、活かすも殺すも包丁さばき次第。見た目だけではなく、食べた時の舌触りにも影響するのです。身を傷つけないよう、余計な切れ目を入れないよう、魚の繊維の向きを考えながら包丁を入れます。また煮きりをしみこませたり、食感を良くするため、ネタとより一体化させるために隠し包丁を入れるという技も。

「寝かせる」

新鮮な魚が最高に美味しいとは限りません。アデノシン三リン酸という魚のエネルギー源が死後、旨み成分のイノシン酸に変化し、さばいてから時間を置いた方が美味しくなると言われています。塩をふって水分を飛ばす、鮪のヅケのように醤油につけねっとりした食感を出す。タネによって適した寝かし方があるのです。

Text:メトロミニッツ編集部
Illustration:村林タカノブ

※こちらの記事は2015年2月20日発行『メトロミニッツ』No.148に掲載された情報です。

更新: 2016年10月27日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop