日本酒新時代のムーブメント

|SAKE INNOVATION[3]|
キーパーソンに聞く「日本酒ブームって本当ですか?」

日本酒に注目が集まる今、酒質だけではなく、日本酒と世の中の関係性にも新たな局面が訪れています。日本酒がブームになるとはどういうことか?も含めて考察してみました。

日本酒ブームって本当ですか?

「ブーム【boom】」―「①にわかに需要が起こり、価格が暴騰すること。②ある物事がにわかに盛んになること」『広辞苑』。「にわか」をさらに引くと、「急激に変化が現れるさま」とあります。わざわざ重たい辞書を引っ張り出したのは、巷で囁かれる「日本酒ブーム」を検証する前に、何をもってブームと言えるのか気になったため。

 

 

「日本酒って…ブームなんですかね?」
「新政」蔵元佐藤祐輔さん

よく引き合いに出されるのが2003年の焼酎ブーム。「1000石だった蔵が5万石になりましたからね。それに比べたら今の日本酒の状況をブームと言うのは厳しいですね」と言うのは前出の高嶋酒造・高嶋さん。当時は、蔵元の石数が圧倒的に増加したり、50年ぶりに焼酎の出荷量が日本酒の出荷量を超えたりと、数字にブームが現れていました。その観点から言えば、日本酒を巡る数字は、まだまだお寒い状況です。純米酒や純米吟醸酒は少しずつ伸びていますが、国税庁のデータによると、何しろ清酒消費量そのものは、2013年の時点で、2003年度比70・3%、対前年度比98・0%。年々着実に減少しているのですから。近頃の日本酒界隈の賑やかさとは異なる印象。「焼酎ブームの時は焼酎の生産総量が増えたのですが、日本酒は、総量自体は増えていないんですよね」と、冷静に見ているのが、蔵元の思いも一緒にグラスへ注ぐ「GEMbymoto」店長、千葉麻里絵さんです。千葉さんは現在の状況を、ブームになり切れていない、と捉えています。「一家に1本4合瓶が冷蔵庫に置かれるようになったら、ブームと言えるかもしれませんが、現時点では、メディアに取り上げられて、世間の目がやっと日本酒に向いた状態。視線が集まる今は、日本酒の真価を伝えるチャンスの時です」。

 

 

「一家に1本4合瓶が冷蔵庫に置かれる日が来たら、ブームかもしれない」
「GEM by moto」店長千葉麻里絵さん

同様に、「ブームという実感がない」と言うのは、メディアへの露出も多い新政酒造・佐藤さん。「内実を伴わないブームは危険。おいしくなっても、お客さんが日本酒の多様性をしっかり理解した上で楽しまないと、飲み比べに終始し、最後はコストパフォーマンスと、利便性に優れたものだけが残ってしまう。ジャンルとして飽きられるのではないかと危惧しています」。高嶋さんは、「蔵元がアイドル的な扱いになっているのがちょっと気になる」とも。その状況は、千葉さんも同様に感じているよう。

 

 

「蔵元のアイドル化が気になっています」
「白隠正宗」蔵元高嶋一孝さん

一方、はせがわ酒店・長谷川さんは、約2年前からブームを実感。理由は、店頭での売り上げが伸び続けていることや、今後、海外マーケット(特にイタリア)にも期待できる反応が出てきたから。このように、立場によっても、微妙に捉え方が異なるため、「ブーム」がますます得体の知れないものに。

 

 

「日本酒が来ていると思ったのは、約2年前から」
「はせがわ酒店」社長長谷川浩一さん

そんな状況の中、飲み手の動向として見逃せないのが、「SNS」の存在。フェイスブックやツイッターなどで気軽に酒の情報発信が可能になると同時に、イベントが立ち上げやすくなったことも、盛り上がっているように見える一因かもしれません。しかし、見渡してみると、日本酒イベントに参加する顔ぶれはいつも同じということも。松崎さんは、「これまでに起きた地酒ブームや吟醸ブームにしても、あくまでも狭い日本酒の中で起きているブーム。今回は、イメージ先行で、マーケットはまだ付いてきていないのでは」と分析。焼酎のような爆発的な伸びがないまま、でも確実に、このまま現代の食文化のひとつとして定着していくのか。もしくは、今までのように日本酒の年表の中にふと現れて消える打ち上げ花火的な現象なのか。いずれにせよ、進化した日本酒と世間の関係性に、今後も注目です。

 

 

「イメージ先行で、マーケットはまだ未成熟だと思います」
酒類ジャーナリスト松崎晴雄さん

文・浅井直子編集ライター。選酒家。ゆる燗ニスト。雑誌やwebメディアにて、日本酒や食、地域を主なテーマに取材執筆する一方、地域の手仕事×日本酒イベントなども定期的に開催。今の人が造る今の日本酒をポップカルチャーのひとつとして捉え、日本酒を追っている。
Illustration:久野未結

※こちらの記事は2015年10月20日発行『メトロミニッツ』No.155に掲載された情報です。

更新: 2016年10月26日

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