さしつさされつ、 今宵はエレガントに
|嗜む日本酒[1]|

諸説ありますが、日本酒が誕生したのは今からおよそ3,000年も前の縄文時代。日本人は長い歴史を日本酒とともに歩み、様々な文化を作り上げてきたのです。例えば、昔から神事には欠かせない存在でしたし、江戸時代には庶民の交流の場として居酒屋が登場。「赤ちょうちんで一杯」なんこともひとつの文化と言えるでしょう。そして今、気軽に楽しめる和酒バルがトレンドかもしれません。ワイワイと賑やかに、といった楽しみもありますが、大切な人としっとり、お酒を注ぎ、注がれ、飲み交わしながら〝嗜む程度?にいただく日本酒もまた一興。今月、編集部がご提案したいのは、そんな「さしつさされつ」という日本独自の素敵な文化です。古来から神と人、人と人との交流を深める媒介としての役割を果たしてきた日本酒。さしつさされつ、じっくり相手と向き合う時間は、きっと新しい日本酒の魅力を再認識させてくれると思うのです。

「1杯、どうですか?」。日本人はこのセリフが好きだと言います。そして、お酒を酌み交わせば、たとえ初めての人同士でも距離を縮めることができてしまう。海外ではお酒を互いに注ぎ合うことはあまりなく、お酒を媒介にして連帯意識を増す体質はどうやら日本人独特のもの。そもそも、人はお酒を飲むと心が明るくなったりしますが、古代の日本ではこの現象を、酒を通じて神が人の中に入ってきたと考えたそうです。「神がかり」の一種だと。それでお酒を神様に備え(お神酒)、自分らも飲むようになった。神がかった人たちが心浮かれ、心を通わせる場、それが酒の席。時代は変わっても、今も日本人は酒の席を拠り所にしています。そして、あの酒の席があったから歴史が動き、あの酒の席が時代を創った。日本人は、素敵な「酒の席」を作れるDNAをきっと持っているのです。

日本人が受け継いできた文化「今も昔も“酒の席”名場面集」

まずお届けするのは、目で見る「さしつさされつ、酌み交わす」の時間。それぞれ形は違いますが、お酒があれば心を通わせることができるのはいつの時代も同じ。お酒があったからこそ生まれた、酒の席の名場面集です。

LEGEND01:テレビ朝日 ドラマ『相棒』

いつもの時間が流れる、あの店。
右京の行きつけ「花の里」


2000年の放送開始から 14 年、この秋、テレビ朝日の 超人気ドラマ『相棒 season13』が始動しました! 中心 となる登場人物は、警視庁のキャリアでありながら窓際 部署「特命係」に在籍する、天才的な頭脳の持ち主・杉下 右京(水谷豊さん)と、右京から異例のスカウトを受けて 相棒となった、「カイトくん」こと、甲斐享(成宮寛貴さ ん)。物語は毎回、息の合った2人が次々と起こる難事件 を解決していきます。このドラマで、毎回のように出て くる定番の場所があります。小料理屋の「花の里」です。 女将は、月本幸子(鈴木杏樹さん)。幸子は過去の放送では 〝ついてない女?として何度か登場し、事件に巻き込まれ て刑務所に。しかし2012年1月の放送で、さらに大 きな事件が起こります。それは殺人事件などではなく、 右京が出所後の幸子を「花の里」の女将に抜擢したので す(かつて「花の里」は右京の元妻が営んでいた)。時に、 この「花の里」では事件が起き、また時にはここで事件解 決への糸口が見つかることもありますが、常に変わらな いことは、事件で疲れた右京の心をほぐしてくれる場所 であること。「花の里」はドラマの味付けに大切な存在 で、穏やかに熱燗を嗜む、右京の姿がとても印象的です。

LEGEND02:仮名垣魯文・著 『安愚楽鍋』

激動の時代を支えた、牛鍋と酒


明治の初め、日本に西洋の文明がどんどん入ってきて、制度や習慣が大きく変化しました。その現象が、そう、「文明開化」です。文明開化を象徴する出来事と言えば、牛鍋の大流行。当時の様子を伝えてくれるものとしては、1871?72(明治4?5)年に刊行された仮名垣魯文による戯作『安愚楽鍋』が有名です。牛鍋屋の店内を覗き見しつつ、開化フィーバーに湧く世の中の様子を滑稽に描いています。1877(明治10)年、東京には牛鍋屋が550軒を超えるほどになり、牛鍋を食べながら酒を酌み交わし、文明開化の話をするのが当時のトレンドでした。

LEGEND03:日中国交正常化

c朝日新聞社

酒は世界共通言語、友好の証


1972(昭和47)年9月29日、当時の田中角栄首相と周恩来首相の2人により、日本と中華人民共和国は国交が結ばれました(中華人民共和国は1949年の国家誕生以来、日本との国交が一度もなかったため、「国交回復」ではなく「国交正常化」と称されます)。そのお祝いに、田中首相は、自身がこよなく愛していたという新潟の清酒「吉乃川」150本を中国側へ贈り、お返しに周首相からは「茅台酒」150本が贈られたそう。この茅台酒とは中国の国酒とも言える存在で、アルコール度数はウォッカ並みの50度超。国交正常化された夜、北京の人民大会堂では祝宴が催され、乾杯の席で供されたのが「茅台酒」でした。中国の風習に倣い、これを一気に飲み干すことができたのも名うての酒豪・田中角栄首相なればこそかもしれません。

LEGEND04:小津安二郎監督 『秋刀魚の味』

『秋刀魚の味』監督/小津安二郎(1962年)写真提供/松竹

昭和の「さしつさされつ文化」の真骨頂


写真の2人は、主演の俳優・笠智衆さんと女優・岩下志麻さん。監督は、映画界の巨匠・小津安二郎さん。この『秋刀魚の味』は1962(昭和37)年公開、小津監督の遺作です。ところで小津監督の映画には、酒を飲む場面が頻繁に登場しますが、多くの場合、「お酒は会話の潤滑油」と捉え、静かに酌み交わす場面を中心に描いていたと言います(『秋刀魚の味』では泥酔シーンもありますが)。小津監督ご自身ももちろんお酒好きで、「ま、1杯いこうや」が口癖だったそうです。日本酒は熱燗を好まれ、温度の好みは55℃。昨年の12月、生誕110周年、没後50年を迎え、カラーデジタル修復したDVDも数々再販になっていますので(発売・販売元:松竹)、お酒を酌み交わしながら、じっくりと小津映画を観てみませんか?

Text:メトロミニッツ編集部

※こちらの記事は2014年11月20日発行『メトロミニッツ』No.144掲載された情報です。

更新: 2016年10月15日

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