|“食べる”を見つめる映画[2]|
感性が豊かになる“食べる”を見つめる映画Part2

世界に広がる“食べる”を見つめる映画通信 その他の国の映画祭

スペイン「サン・セバスチャン国際映画祭」

スペイン最古の映画祭が発信するのは、
バスク地方ならではの“ガストロノミー”


スペインのバスク自治州に位置するサン・セバスチャンは世界有数の美食の街としても知られていますが、スペインで最も歴史のある映画祭も有名です。その「サン・セバスチャン国際映画祭」に食映画の「キュリナリー・シネマ部門」が生まれたのは2011年のこと。で、その仕掛け人のホセ・ルイス・レボルディノスさんに話をお聞きしました。私たちが食の映画部門「キュリナリー・シネマ部門」を始めることにした理由は、もちろんドイツ「ベルリン国際映画祭」の「キュリナリー部門」の成功を目の当たりにしていたこともありますが、私たちの拠点であるバスク地方の文化を世界へ伝える上で、最も重要な要素の1つに「ガストロノミー」があると考えたからです。ガストロノミーは、人々の生活にとって重要なパートを担っています。正しい食生活は私たちの健康を守ってくれますし、もっと言えば、ガストロノミーは私たちの感性を刺激し、そして圧倒的な人生の愉しみを与えてくれるものなのです。サン・セバスチャン国際映画祭のキュリナリー・シネマ部門の作品は、「食、ガストロノミーに関する“興味深い考察”を描いている作品」を中心に選考しています。また、映画祭ですので、同時に映画的表現のクオリティも重視しています。反対に、小さな生産者の不正を非難するような映画や、人々に“悪い食習慣”を植え付けるような作品は選考しません。映画祭は2015年には9月18日~26日に開催されましたが、日本の『リトル・フォレスト秋・冬編』は大変評判でしたよ。また『NOMA,MYPERFECTSTORM』(TOKYOGOHANAWARD受賞作品)は、世界中に賞賛されたシェフ、レネ・レゼピの人物像を知ることができるのが一番の魅力。1人の普通の人間が、世界中の食のシーンでカリスマ性を発揮していく過程をスクリーンで追っていくことはとてもユニークな映画体験です。サン・セバスチャン映画祭では、キュリナリー・シネマ部門のコンペ作品を上映した直後に、その映画にインスパイアされたコースディナーを楽しむことができますが、各作品&ディナーのチケットは、毎年、発売開始から20分くらいで売り切れてしまうほどの人気ぶりです。やはり今の時代、世界中のどこでも食に関する意識が高まっているのだと思います。特に“健康の観点”と食を通じて得られる“愉しみ”についての関心が高まっているのではないでしょうか?その点で「食にまつわる映画」の果たす役割は年々大きくなってきていると思うのです。

ホセ・ルイス・レボルディノスさん

2011年、サン・セバスチャン国際映画祭のディレクターに就任。キュリナリー・シネマ部門とサベージ部門(アドベンチャーやスポーツ映画)を新設し、いずれも広く支持を集める。また、フリオ・メデムらバスク地方の映画監督や塚本晋也など日本の映画監督についての著書もある

ドイツ「ベルリン国際映画祭『ベルリナーレ』キュリナリー・シネマ部門」

社会派でクオリティ重視
“食”を見つめる映画祭のパイオニア


1951年よりベルリンで毎年2月に開催。本国では「ベルリナーレ」と呼ばれるこちらの映画祭は、カンヌ、ヴェネツィアと並び世界三大映画祭の1つに数えられます。そして、味・嗜好について調べるという文化的な問いのために2007年、国際映画祭で初めて食に関する「キュリナリー・シネマ部門」が創設。「食を中心とした地域の伝統的な文化を尊重しながら、生活の質を向上させよう」という「SlowFoodInternational」との提携によりスタートしました。この部門への招待作品は、“食と愉しみ、環境”をテーマに、ドラマ、ドキュメンタリー、ショートフィルムなど映画としてのジャンルは問わず、毎年世界中から作品としての質を重視された約12作品が選出。美しいものだけではなく、エコロジーや飢餓、その他の社会的視点に則って選ばれ、作品について具体的にディスカッションされます。また、前のページでも紹介した、「サンセバスチャン国際映画祭」のキュリナリー・シネマ部門創設にも影響を与えたと言われ、今ではコラボレーション企画も開催。

食部門は今年で9回目の開催を迎えた。また今年は日本映画「リトル・フォレスト」(森淳一監督)が選出。女優の橋本愛さんが舞台挨拶に登壇し、上映後は観客と共に、映画にインスパイアされた特別メニューを味わうディナー会にも参加

イタリア「cinecibo」(チネチーボ)『食の映画』フェスティバル

時にはコメディで、イタリアの地方食を考える

カンパーニャ州サレルノ県チレント地方で、2011年より開催されているこちらの映画祭は名俳優ミケーレ・プラーチドの呼びかけでスタート。また、チレントは『地中海ダイエット』を提唱したアメリカの生理学者アンセル・キーズ博士が拠点とした場所で、2010年に地中海料理が世界無形文化遺産になったことも、この映画祭が誕生したきっかけの一つ。さらに2010年に『BenvenutialSud南イタリアへようこそ』という南部田舎町を取り上げたコメディ映画が爆発的にヒットした背景もあり、選出作品もコメディタッチの色が濃いのも特徴。しかしその裏には、映画を通して地中海料理やチレント地方の食文化の継承、地域を活性化させたいというしっかりしたテーマも。

★2015年受賞作品(ショートフィルム)
「Il gusto tra le mani」(手から産み出される食べ物)

パスティウム村の水牛の牛舎、モッツァレラチーズを作る人々の手、ピッツァを作る作業など、地元の食がどうやってできていくかを記録した作品。基本的に3~10分程の作品を募集している。長編作品は一般公開されている作品から選ばれるが、コメディタッチのものが多い。

映画祭期間中のイベントには、シェフによる真面目なクッキングショーもあれば、コメディ俳優が料理をするお笑いショーも。

イタリア「Il festival “Tutti nello stesso piatto”」『同じ皿の食事を皆で』フェスティバル

見る人に、フェアトレードへの意識を

毎年11月、北イタリアのトレンティーノ・アルト・アディジェ州のトレント市にて約1カ月間開催される映画祭。主催はフェアトレードを推進する「Mandacaru協同組合」。映画を通してフェアトレードの大切さ、児童労働を含む劣悪な労働環境の改善、貧困の撲滅、乱開発による環境破壊を防ぐことの重要性を知ってもらい、消費者の行動が自発的に変わってほしいという狙いがあります。各国から200以上の作品が応募され、映画祭では30~40作品を上映。その後ツアーが行われ、イタリア全国にある支部を回ります。その他にも、『料理のなかの映画』という映画に出てきたものを試食できるブランチや軽食を地元レストランとスローフード協会が協力して行うイベントなども。2015年は11月3~29日開催。

★2015年度フィクション大賞
「LOVE AND LEMONS」(2011)

スウェーデンで制作されたTeresa Fabik監督による作品。職場を辞めさせられた女性シェフが、地産の食べ物を使って新しいレストランを立ち上げるラブロマンスであり、食を通して夢に向かって行動する勇気が与えられる作品。

2009年に始まり、今年で7回目の開催。映画祭期間中は小・中・高校への出張イベントも。アジアやアフリカからの応募者も多いそう

オランダ「フード フィルム フェスティバル」

議論好きのオランダ人に贈る映画祭、5都市でツアー開催中!

オランダでは、ドキュメンタリー映画の制作が盛んだと言います。もともと議論好きな国民性なので、ドキュメンタリーというジャンルの人気は高く、政治色の濃いものも好まれる傾向に。そんな中、2011年から開催されている本映画祭は、食に関する映画を上映すると共に、実際に食を楽しみ、さまざまなワークショップも行います。同時に、食というキーワードが波及する先にある、芸術、環境、産業、政治、健康、哲学など多岐に渡る分野を考察する機会となるレクチャー、ディスカッションなども企画。「食」を通して世界を見つめるきっかけをつくるイベントなのです。また、毎年アムステルダムで3日間開催されていましたが、5周年のアニバーサリーイヤーとなる今年は、「オン・ツアー」と銘打ち、6月から11月にかけてオランダ全国5都市を巡回(右の表参照)。それぞれの都市で1つのテーマを設けてこの1~2年で話題を集めた映画の上映、レクチャーなどを行っています。

【2015年開催スケジュール】
6/5 都市:フローニンゲン/テーマ:ミルク
6/27 都市:ユトレヒト/テーマ:土(土壌)
9/16 都市:ワーヘニンゲン/テーマ:種子
10/31 都市:デンハーグ/テーマ:魚
11/28 都市:アムステルダム/テーマ:肉

★2015年フローニンゲン市上映作品(6/5開催分)テーマ:ミルク
「The Moo Man」(2013)

乳牛農家のステファン・ホーク氏が自ら経営する農家を蘇生させるために、大手スーパーの言いなりになって低コストで牛乳を生産するのをやめて、家畜に寄り添い有機牛乳の生産をはじめる。彼が生産する「生乳」は、地元の人たちには人気が高いが、顧客であるスーパーとの間には様々な摩擦が生じる。そんな中でも信念を貫き、55頭の牛たちと暮らすホーク氏の日常を4年間に渡って納めたドキュメンタリー映画。時にコミカルで心温まるタッチと、イングランド南東部のイースト・サセックスの美しい風景が印象的。

★2015年ユトレヒト市上映作品(6/27開催分)テーマ:土壌
「Good Things Await」(2014)

バイオダイナミック農法を貫くニルス・ストックホルム氏と夫人リタが主人公のデンマーク映画。彼らの農場で生産されるプロダクトは、世界的に著名なレストランにも卸され、シェフたちからも愛されている。しかし、現代の農法や規制から外れる手法をとる彼らの農場には、行政とビューロクラシーから圧力がかかることに。それでも、自然と調和し、ひいては宇宙と一体となって農業を行うことを貫き、その理解者は次第に増えていく。美しい音楽を背景に、この農法を後世に伝えていきたいというストックホルム氏の願いを描いた作品。

韓国 「Food TVフード・フィルム・フェスティバル」

食に興味津々の韓国では、2015年映画祭ラッシュ!

韓国の食に関するプログラムを放送しているケーブルテレビ局「フードTV」が今年より本映画祭を主催・開催。9月14日、ソウルの大学路(テハンロ…ソウルで古くから映画館や劇場が集まり、芸術の町としても知られている)で行われ、受賞作品の授賞式、上映、及びトークセッションが開かれた他、料理のデモンストレーションなどもあり、大盛況のうちに幕を閉じました。ここ数年、韓国でも年代を問わず「食」と「健康」への関心が高まっており、その背景には、内向きだった食の意識が外にも向いてきたことがあると言えます。10年前と比較しても、街にはおしゃれなカフェや日本食をはじめエスニック、イタリアンやフレンチなど外国料理の店が急激に増加。「様々なジャンルの料理を楽しみたい、知りたい」という欲求が国民の中に芽生えているようです。

★2015年度大賞作品
「パパの味」

キム・インソン監督による、家庭の崩壊から再生を家族それぞれの視点で淡々と描いた作品で、「食」が家族再生の鍵を握っている物語。その他にも「家族」をテーマとし、「食」を通したつながりを描いた作品に人気や評価が集まる傾向に。

韓国では地上波チャンネルの他に、ケーブルテレビチャンネルが充実していて、この映画祭を主催した「フードTV」もその1つ。また、今年7月9日~12日には「ソウル国際料理映画祭」も開催されるなど、近年の「食」や「健康」に対する関心の高まりがうかがえる。

※こちらの記事は2015年10月20日発行『メトロミニッツ』No.156掲載された情報です

更新: 2016年9月1日

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