Mamma mia! Che buono!!!
|美味しい南イタリア[2]|
北と南、同じ国とは思えないほど違うのはなぜ?
イタリアの風土とフードの関係値

風土、気候、歴史…と、南北に長いイタリアの「南」と「北」の間に横たわる違いを意識することから、イタリア料理の理解が始まります。イタリア食文化のスペシャリストであり、情報の発信地としてリストランテも経営する長本和子さんにお話を伺いました。

文化の境目をもたらすのは、山、川などの地形

トマトにレモン、オリーブオイル、モッツァレラチーズ…。「イタリアン」と聞いて真っ先に思い浮かぶ食材は、実は南イタリア発祥。近頃イタリア各地の郷土料理の店が増えてきたとはいえ、まだまだ「南も北もひっくるめてイタリアン」的な認識は否めません。そんな私たちの「イタリアンリテラシー」を、インストールし直すような気持ちで、イタリア食文化の伝道師・長本和子さんに話をお聞きしました。

「北から見ていくとまずアルプス山脈があります。そこで中央ヨーロッパと途切れて、北からの寒気が遮られると同時に、文化もここで途切れます。また『イタリアの背骨』と呼ばれる、国土の南北ど真ん中にタテ一直線に走っているアペニン山脈の存在が大きく影響します」。南北の違いを知るために、まずはイタリア半島の地形を見ることから始まりました。

「山にしろ川にしろ、なぜ地形で文化が切れるのかと言えば、もちろん今のように鉄道や道路が発達していれば別ですが、よほど必要がない限り、昔の人は危険を冒してまで地形的な境界線を乗り越えようとはしません。地形が描く線はそのまま文化の境界線。それは文化の独自性、郷土性が守られるという意味でもあります」

南北の違いは「牛or羊」や「バターorオリーブオイル」

「イタリアの北と南をどこで分けるか?については、例えば家畜の分布で見ていくと、北イタリア、つまりアペニン山脈の北側にあるエミリアーロマーニャ州までは山岳地帯で牛を、山脈を挟んで温暖な気候に恵まれた南イタリアでは羊をそれぞれ飼っています」

そして、北では牛乳から作るバターやチーズ、生クリームをベースにした濃厚な料理が、南では羊乳で作ったチーズや豆を中心とした素朴な料理が発展していったのだと言います。「あと、油分の違いでも南北の違いを見ることができるんですよ。イタリア料理の基本は、よく油に香味野菜などの香りを移すソッフリットを作ることから始めますが、南はオリーブがよく採れるのでオリーブオイルを使います。北はオリーブがあまり採れず、バターを使います」。"牛とバター文化圏〟や"羊とオリーブオイル文化圏〟の構図を、イタリア半島の地形の特徴と共に把握することが、郷土料理の集合体であるイタリア料理を理解する第一歩なのです。

「ちなみに、昔、庶民は牛肉を口に出来ませんでした。羊と違い、牛は農耕用と牛乳を採るため。そのため、イタリア料理には牛肉料理はほとんどありません。牛肉を食べるのは貴族のみで、庶民に回ってくるのは、肉以外の内臓やすね、尾といった部位。しかし、それを長時間煮込むなど工夫を凝らして、実に美味しい料理を作ります。イタリアの文化が高い証拠とも言えますね」

狙われる土地の歴史とマンマの味との繋がり

さて、次は南部に注目してみることになりました。南部は、ティレニア海、イオニア海、アドリア海に囲まれ、青い海と太陽が美しいコントラストを描く風光明媚な土地。イタリアで2番目に大きい平野が広がるプーリア州に至っては硬質小麦の大産地で、ギリシア人がもたらしたオリーブがたわわに実をつける豊饒な大地が広がっています。その余りある魅力から憧れの土地であり、ゆえに外国に侵入される歴史が繰り返されます。紀元前8~6世紀にはギリシア人が南部に植民市を建設。その後、ローマ帝国やゲルマン人、9世紀のシチリアではアラブ人が覇権を握るなど次々に歴史の荒波が押し寄せます。ただし、「侵入しても土地を略奪するのではなく、そのまま住み、文化を残しては次の侵略者に席を明け渡して去っていく」そうで、長本さんは南イタリア食文化の多様性の要因に挙げます。

「ゴマやドルチェのカッターナ“カッサータ」はアラブ人がもたらしたもの。シチリアにある"トラパニ風クスクス〟も占領したアラブ人が持ち込んだクスクスを、現地の食材に置き換えてその後定着したものなんですよ」ピッツァで知られるナポリも15世紀半ばにナポリ王国がスペインによって支配されたため、トマトや唐辛子など新大陸からの食材が入ってくるという利点もあったそうです。

もともとイタリアは独立した都市国家の集まりで、国として統一されたのはわずか約150年前のこと。北部の近代化が進む間に、外敵に翻弄され続けた南部は「田舎」と言われがちです。しかし長本さんは、だからこそ「イタリアの中でも、南は家族の結束がとても固いのでは」と言います。

「よく現地の料理人たちが自分のマンマの味を自慢するんですが、それは歴史上何度も敵がやってきたことで、時の為政者に頼るのではなく、自分たち家族が生きることが大切。日々、美味しいものを食べることに人生の楽しみを見出したのかもしれません。イタリア料理がなぜこれほど人の心をつかむのか考えてみると、豊かな郷土料理=お母さんが心を込めて作った味なんです。現地のお母さんたちは使っている調理器具も少なければ、使う材料の数もそれほど多くない。お金もかけられないから、手の届く範囲の材料で作る、まさに地産地消の家庭料理を作るんです。シンプルだけれど、手間ひまかけて家族のために作る。そして、食事は必ず家族みんなで食べる。それが日々喜びなのではないでしょうか」

庶民の知恵が詰まった、内臓料理も逸品

最近、日本でもすっかり馴染みのある料理「トリッパの煮込み」(トリッパ=牛の第2胃)も、伝統的なローマ料理。ローマで内臓料理が多く食べられているのも、貴族が多く住んでいたためで、ヒレやロースなどは貴族へ、すねや内臓などの部位が庶民の手に。でも、トリッパもどの内臓料理も美味しいのがイタリア人の文化の高さ。

季節とともにある暮らしイタリアのお母さんの味

イタリアの郷土料理は土地の恵みがあればこそ、調理方法も味付けも至ってシンプルなマンマの味。旬の素材の持ち味を生かすというのが、少し和食的でもある。

長本和子

カシーナ カナミッラ[オーナー] 長本和子

仕事で訪れたイタリアに魅了され、イタリア料理を学ぶために国立ホテル学校に留学し、1997年、イタリアの食文化を発信する「i.c.t食文化企画」を設立。中目黒のリストランテ「カシーナ カナミッラ」のオーナーでもある。著書に『シチリア 海と大地の味』(文化出版局)、『いちばんやさしいイタリア料理』(成美堂出版)、写真の『イタリア野菜のABC』(小学館)は、現地で撮り貯めたイタリア野菜を紹介。その歴史や料理法も書いてある。

Ristorante Cascina Canamillaリストランテ 「カシーナ カナミッラ」

「現地のリストランテ」を正しく味わえる長本和子さんのイタリア料理店 イタリア貴族のように、日常を離れ、ゆったりと過ごすための場所で、窓の外には目黒川沿いの景観が美しいリストランテ「カシーナ カナミッラ」です。店内のイメージは南イタリアの貴族の農場、シャンデリアは1950年代にローマで作られたものなど、インテリアや店内の物にはそれぞれイタリアに由来する物語があります。シェフはピエモンテのトリノにある「リストランテ ラ バリック ディ トリノ」でセコンドシェフまで務めた、岡野健介さん。長本さんが認めたその実力はまず味わっていただくに越したことはなく、本物の本場の料理にどうぞご期待ください。

Ristorante Cascina Canamilla

住所:
東京都目黒区青葉台1・23・3
青葉台東和ビル2F
TEL:
03・3715・4040
営業時間:
11:30~14:00LO、18:00~21:30LO火・第3水昼定休
URL:
http://www.canamilla.jp/

Text:浅井直子
Photo:宇壽山貴久子

※こちらの記事は2014年4月20日発行『メトロミニッツ』No.138に掲載された情報です。

更新: 2016年10月14日

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