美味しい組み合わせの方程式
|和食とワイン[7]|
和食とワインは合うの? そもそも「合う」ってどういうこと?

「和食とワイン」というタイトルを大上段に構えてみたもの の、実際のところ両者は相容れるのでしょうか? 実践する飲 食店や、消費者に提案するワインショップは増えていますが、 ここはお墨付きをいただきたいところ。ワインに関する数々 の著書を持つ山本博さんにお話をうかがいました。

|INTERVIEW|山本博さん

ワインと和食の合わせ方について山本さんに尋ねてみると、返ってきたのが「和食とは何か、というのが意外と問題です」というお言葉。一汁三菜の伝統的な和食を想定していたのですが…。山本さんは「今の家庭料理は伝統的な和食でないハンバーグや餃子など、肉や油脂を含む料理が多くなっています。これにはワインが合うので、今の若い人はワインが好きだというのは、そういう食事で育ったからでしょう。油脂をあまり使わない、味噌汁とごはんの時代の嗜好に辛口ワインは難しかったから、甘口の『赤玉』ワインが売れたわけです」と言います。日本人の食生活は戦後から大きく変化して、日本人の食事はかつての和食からずいぶん遠ざかっています。確かに、日常的に食べるのは外国料理ばかり。

では、和食はあまりワインに合わないということでしょうか?「もうひとつ大事なことが、私が『合う』というのは、『相手を引き立てる』ということです。料理だけで食べるより、一緒にワインを飲んだほうが料理を美味しく食べられる、そしてワインが一方的に勝ってしまわないことが肝心。例えば肉を食べると口の中が脂っぽくなる。

そこでワインを飲むと口がさっぱりして、ワインも肉も美味しくなる。これが相乗効果というものですよ」。
山本さんは弁護士らしく順序を踏んで話を進め、和食を「きちんとした割烹料理のようなもの」と定義し、それを引き立てるワインについて語ってくれました。酢の物、焼き物、煮物から甘いものまで、多彩な料理には本来ならひとつひとつの料理に別々のワインを合わせていくべきですが、全体的に見ると「総じておとなしい料理に、フルボディなワインはあまり合わないですね。強烈なタイプではなくて、さっぱりした、軽い、あまり構成が強くないものがいいでしょう」とのこと。日本ワインは総じて「吉永小百合のようなおとなしいイメージ」で、外国のワインと比べて和食に合わせやすいという。

例えば、赤ワインだと何を選べばいいのでしょう?「これは私見ですが、基本的に和食に合う赤ワインはあまり無いように思います。ボルドーやブルゴーニュの高級赤ワインに合う日本料理などほとんどないですよ」。高級和食に高級赤ワインという組み合わせは順当に思えますが、実は避けた方がいい組み合わせでした。赤ワインは一般に高級なものほど凝縮度が高く、渋味や苦味も増していきます。そんな力強いワインに、繊細な和食は影が薄くなってしまうということなのです。和食に合わせやすい赤ワインのカテゴリーは「軽やかなもの。ボルドーよりはブルゴーニュ(特にボージョレー)、そしてロワール。色々と軽めの赤ワインがありますから、これならおとなしい和食と一緒でも抵抗ない」とのこと。

繊細な料理に軽やかなワインがいいということなら、むしろ白ワインの方が合うということ?「そうです。白ワインに合う和食はたくさんありますね。いい白ワインがいっぱいあるのに、日本人が白ワインを飲まなさすぎるくらいです。白といえば高級ブルゴーニュを選びがちですが、かえって安いものの方が軽やかでいい。ほかにもミュスカデ、サンセールやプイイ・フュメとか、ボルドー、ニュージーランドの軽い辛口白、品種で言うとソーヴィニヨン・ブランが、ほとんどの和食に驚くほどよく合います。それから今は辛口流行りですが、ドイツワインでモーゼルなどの薄甘口の白が非常にいい。あと、シャンパンは汎用性があって、何にでも合いますよ」と、和食向きの白はバラエティ豊かなのです。

ここでさらに、具体的なおすすめワインと和食の組み合わせを挙げてもらいました。天ぷらやおでんなら、ロゼや薄い白。大トロなら赤と考えがちですが、むしろしっかりした白ワイン。醤油が入った煮物に合わせるなら、あまり高級でない軽めの赤。ウナギの蒲焼きやすき焼きに非常に合うのは、さっぱりした赤(これは濃厚な赤よりも料理の風味が生きるそう)。豚肉料理は基本的に白。料理を引き立てるために、ワインはあっさり目が基本ということ。最後に、特に山本さんが好きな和食とワインの組み合わせを聞いてみると、意外なことに上等なカマボコやチクワ、例えば仙台の『笹かまぼこ』など(醤油をつけないほうがベター)、白身の焼き魚や一夜干しの干物が白ワインと非常によく合うと言います。ちなみにさつま揚げは赤ワインに合うそう。どれも「上等な」というのがポイントで、旨味がたっぷり含まれているわりに臭みがなく、白ワインの風味を邪魔しないのです。これらの食材は、フルボディの白でも問題なく楽しめるとのこと。練り物や干物は簡単に食べられるので、ワインのお供として重宝しそう。「和食とワイン」なかなか掘り下げがいのあるテーマでした。

山本博さんが会長を務める「日本ワインを愛する会」とは?

かつて日本のワインは「輸入ワイン」に対して「国産ワイン」と呼んでいただけで、海外から輸入したブドウ、ブドウ濃縮果汁、ワイン原料で造られたワインも「国産ワイン」と呼ばれていました。そのような状況の中でも、ワイン造りに真摯に取り組む国内ワイン生産者を応援するため、「日本ワインを愛する会」が設立されたのです。「日本ワイン」の定義は日本産のブドウのみを使用、国内で醸造、瓶詰めされたもの。山本さんが著書である『日本のワイン』出版パーティ時に上記の定義を提案、発表。以後「日本ワイン」という言葉が使われるようになり、その品質向上と消費拡大のための取り組み「日本ワインを愛する会」が担っているのです。

『新・日本のワイン』
早川書房 2,205円
2013年7月に上梓された山本さんの近著。世界レベルに近づきつつある日本ワインの生産者たちを丁寧に取材しながら、その魅力について書かれています。日本ワインの現状と課題、全国各地の主要ワイナリーと銘柄について、詳しく丁寧に解説されており、これを読めば日本のワイン事情の全景を把握できるということで、ワインのプロ、アマ問わず読まれているとか。ワイナリー巡りのお供にもどうぞ。

山本博

弁護士 山本博

1931年横浜生まれ。その著書は国内外のワインを問わず多数。
弁護士を本業としながらも、ワインに対する知識、経験、そして愛情から日本におけるワインの大御所として知られる人物。フランス食品振興会主催の世界ソムリエコンクールの日本代表審査委員。日本ワインを愛する会会長、日本輸入ワイン協会会長を務める。

Text:橋本信彦
Photo:柳大輔

※こちらの記事は2014年3月20日発行『メトロミニッツ』No.137掲載された情報です。

更新: 2016年9月23日

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