#10 東京の名店

「GINZA chez tomo」オーナーシェフ 市川知志さん
「VACCA ROSSA」シェフ 渡邊雅之さん
「Ysm」シェフ 原田隼太郎さん

生産者との繋がりから生まれた1皿

じっちゃんとの出会いに始まり
長い時間をかけて生まれた絆の1皿

TOMOJI ICHIKAWA
1960年、東京都生まれ。85年に渡仏し「トロワグロ」などで修業を積み、帰国後グランメゾンのシェフを歴任。2002年に独立し「白金シェトモ」(現「アトリエ・ド・アイ」)、05年「ラ・ピッチョリー・ド・ルル」、09年「銀座シェトモ」をオープン。

生産者との繋がりから 生まれた1皿
山梨県産 無農薬野菜達 28〜30種の盛合せ

ランチ、ディナーともに、前菜の後に必ず出される「シェトモ」のスペシャリテ。山梨から直接届けられる30種前後の野菜を1つひとつ異なる方法で調理している。十数年変わらず出し続ける中で、常に改良を重ね進化させている1皿

「シェトモ」に足を運べば必ず出合うこの1皿、「山梨県産無農薬野菜達28~30種の盛合せ」。小さな野菜の1つひとつに力強い風合いがあり、その鮮やかな彩りに誰もが目を奪われます。この料理は、「シェトモ」のオーナーシェフ・市川知志さんと、市川さんが「じっちゃん」と呼ぶ、農家の原田さんとの物語から生まれたもの。その絆の下、今も変わらず作られ続けている「シェトモ」のスペシャリテです。2人が出合ったのは約14年前。市川さんが、三ツ星レストラン「トロワグロ」などで腕を磨いた波乱万丈のフランス修業の後、日本の「ル・マエストロポール・ボキューズトウキョウ」などのシェフを経て、六本木のレストランの総料理長をしていたときのこと。地鶏生産者として山梨県から店を訪れた原田さんの、木綿のつなぎの作業服を着たいかにも農家という風貌に惹かれ、野菜を作っていないかと訊いたのだそうです。後日、原田さんが軽トラックに山ほど積んで山梨から運んできたのは、泥まみれで決してきれいとは言えない野菜たち。聞けばそれらは周辺の12軒ほどの農家の方たちが、農薬を全く使わずに先祖代々守ってきた土地で、自分たちで食べるためだけに育ててきた野菜。見た目は悪いけれど、味も香りも力強くしっかりとした個性を持つ山梨の野菜に、市川さんは強く惹かれたと言います。「例えば、カブなどはスーパーで買ったものなら2分も煮れば溶けてしまうけれど、山梨のものは1時間煮ても崩れないんですよ。どれもフランス料理の調理に負けない力を持っているんです」。そんな山梨の野菜の魅力をお客様にも味わってほしいと、店で仕入れることに。原田さんが自ら軽トラックで週に1、2回、さまざまな野菜を店に運んできてくれたそうです。そして市川さんが独立し「シェトモ」をオープンしても、休まず届けられ続けた“じっちゃんの野菜”。最初はフランス料理の定石として肉や魚の付け合わせに使い、残りは賄いで食べていたのですが、やがてどうにも食べきれずに頭を悩ませることになったと言います。「それでも量を減らしてくれとか、仕入れを休みたいとは言いたくなかったんです。じっちゃんも農家の皆さんもこのやりとりが生活の糧の一部になっていますからね。それで、フランス料理の枠を取っ払って、全ての野菜を使ったこの1皿をお客様に食べてもらおうと決めたんです。これは覚悟のいる決断だったんですよ」。運ばれてくる“じっちゃんの野菜”は、常に30種前後。熱々のグリルやボイル、冷たいマリネなど、それぞれおいしく食べられる調理法が全て異なります。それらを1つの皿に集めて出すのは大きなチャレンジだったそう。「キッチンの体制も変えなければならなかったし、1つの皿に熱いものと冷たいものを一緒に載せるということもフランス料理にはないスタイルです。それに長芋や山菜など本来フランス料理で使わない野菜は、それぞれ一から試行錯誤を重ねました。これは長い時間をかけて生まれた1皿で、そして今も進化し続けている料理なんですよ」。じっちゃんの野菜を使った「山梨県産無農薬野菜達28~30種の盛合せ」は、瞬く間に人気メニューに。「もともと『シェトモ』をオープンした時、一人でも多くのお客様においしさを体感していただける店を目指していたんです。日本でフランス料理というと、よく分からなくて高い料理というイメージがあるでしょう?高いからおいしいんだろう、というような。そのイメージから解放されて、自然体でフランス料理を楽しんでほしい。その思いに通じるのがこの1皿だったんです。日本の親しみある野菜の料理に、お客様は皆、顔を輝かせる。フランス料理にないスタイルだ、なんて悩んでいた自分はなんだったんだろう、って思いましたね。お客様はそんなこと気にせずに喜んでくださっているんですから」。そしてじっちゃんが亡くなった今もその友人の手で変わらず山梨の野菜が届けられ、この1皿は「シェトモ」のスペシャリテとして親しまれ続けています。「今年の2月からは『山梨県産無農薬野菜達28~30種の盛合せ』の他、山梨の野菜を前菜からメインまで使った『有機野菜づくしコース』を新たにスタートしました。他のコースと同じように親しんでいただきやすい価格にしています。多くのお客様に、この料理で元気や勇気を感じていただきたいですね」

ギンザ シェトモ

銀座・中央通りに面したビルの最上階2フロアに位置するレストラン。フロアごと、エリアや個室ごとに雰囲気の異なる空間で、ランチ3,456円、ディナー5,273円(サ別)とリーズナブルな価格で料理を提供している。

東京都中央区銀座1・7・7 ポーラ銀座ビル
11・12F 11:30~15:00(13:30LO)、
18:00~22:30(21:00LO) 月定休(月曜
祝日の場合は営業。翌火曜休み)

シンプルにおいしい、日本のビステッカを

MASAYUKI WATANABE
1969年、千葉県生まれ。20歳の時にイタリアでビステッカを食べ衝撃を受ける。レストランで働きながら2カ月ほど芝浦の食肉市場で研修。トスカーナ州「ラ・キウーザ」で約2年半研鑽を積み、2013年赤坂「ヴァッカ ロッサ」のシェフに就任。

生産者との繋がりから生まれた1皿
十勝若牛のビステッカ

渡邊さんが惚れ込んだ北海道産のホルスタイン種の十勝若牛。その骨付きロースを、本場トスカーナの暖炉を使い薪火で丁寧に焼き上げた1皿(1人前350g/厳選国産赤身のビステッカコース12,960円サ別より※写真は2人前)

20歳の時、イタリアでビステッカ(ビーフステーキ)を食べたことがきっかけで、牛肉の魅力に取り憑かれたという渡邊雅之さん。「初めて食べた時の、シンプルに『おいしい!』という感動が鮮烈で。深みのあるシビエも魅力的ですが、私はビステッカのシンプルなおいしさが好きなんです。サシの多い和牛とも違って、イタリアの牛を使ったビステッカは、サクサクとした食感が心地良く、ジューシーで、軽い。この1皿から全てが始まりました」。食べるとシンプルなおいしさがありながら、その味わいを引き出すには細やかな技術が必要なビステッカ。渡邊さんはその本質を知りたいと、ビステッカの発祥の地であるイタリア・トスカーナ州の中でも肉食の文化が深く息づくとされるキアーナ渓谷のモンテプルチャーノで約2年半かけて修業を積みました。そして、本場の“ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ”のおいしさを東京で表現するために2013年赤坂に「ヴァッカロッサ」をオープンしたのです。日本でビステッカに合う牛を探し求める中、出合ったのが「土佐あかうし」と「十勝若牛」。「ビステッカに合うのは、筋繊維が細く、キメが細かくて密度が高い赤身肉。十勝若牛はその全てを備えていて、食べ心地も良く肉汁がたっぷりと溢れてきて、噛んでいるのが楽しくなるような肉なんです。脂が多くても、育ちすぎて筋繊維の質が粗くなってもダメ。十勝若牛はまさにビステッカ専用と言ってもいいくらいぴったりの肉なんですよ。しかも高タンパクで低カロリーですしね」。北海道・十勝清水町にある十勝若牛の牧場に足を運んだ際、牛が健康に育つように配慮された餌や飼育環境に驚いたという渡邊さん。餌が良いため全く臭みがないという十勝若牛の糞は堆肥として、十勝の無農薬野菜を育てる際に使われているそうです。約20年かけて苦労を重ねながら生まれたというこの十勝若牛の魅力をより多くの人に知ってほしいと、「ヴァッカロッサ」では十勝若牛のビステッカをコースのメインとして提供。肉ごとの状態に合わせてカットや熟成期間を調整し、“トスカーナ暖炉”でナラの木の薪を使い20分以上かけて焼き上げます。薪の燠火で薄い焼き色を重ねるように何度も返しながら焼いた表面はサクッと香ばしいのに柔らかく、噛めばすっきりとした肉汁が口いっぱいに溢れて、あっという間に食べ進んでしまうおいしさです。

ヴァッカ ロッサ

トスカーナ地方を中心としたイタリア料理の店。「厳選国産赤身のビステッカコース」の他、十勝若牛のもも肉のビステッカが選べる「暖炉薪火焼きコース」(7,020円 サ別)や「スペシャルランチコース」(3,132円 サ別)なども。

東京都港区赤坂6・4・11 ドミエメロード1F 営 火~金11:30〜13:00LO、 土12:00〜13:30LO、 18:00〜21:00LO 日祝、月ランチ定休
メトロミニッツWEBより 予約可能です

生産者と一緒に働いて得た想いを料理に込めたい

SHUNTARO HARADA
1995年、東京都生まれ。調理師学校を卒業して「ドミニク・ブシェ・トーキョー」で働いた後、「Ysm」へ。2018年、前任のシェフから引き継ぐ形でシェフに就任。取り扱う食材の生産者にできる限り会いに行きたいと言う。

生産者との繋がりから生まれた1皿
牛すね肉の煮込み

ソースはトリュフを効かせてペリグーソースをイメージしたもの。スネ肉は赤ワインでじっくりと煮込まれ、優しい味わいに。クリーミーなじゃがいものピュレとの相性もいい。ディナーコース10,260円、12,960円(各サ別)より。

昨年、オープンしたこちらのレストランで扱うメインの食材「アンティ・ムッファ牛」は、オーナーであり、30年間牧場に携わっている内藤善夫さんが手掛けている牛肉。内藤さんが独自に発見した、腸内を健康に保つ働きがあるという乳酸菌アンティ・ムッファ株を与えて育てています。乳酸菌の働きにより腸内環境が健やかになるため、抗生物質や成長ホルモンを必要としない健康体の牛が育つそう。さらにアンティ・ムッファ牛の堆肥は、まるで養分豊かな土のようで肥料としても良質。野菜や牛の食べる牧草をその肥料で育てて還元する循環農業をその先に見据え、ゆくゆくはレストランの食材も賄うことも考えているそう。アンティ・ムッファ牛の肉質は脂よりも赤身が強く、柔らかで弾力があり、冷めても固くなりにくいのが特徴。オレイン酸が豊富な脂は体内で分解されやすく、もたれない軽やかさ。この肉を使った原田シェフの1皿が『牛すね肉の煮込み』です。「シンプルな料理こそ、手間を惜しまない仕事をすることで、素晴らしい料理になります。尊敬する先輩シェフ達からそのことをしっかり学びました」という原田シェフ。その言葉通り、骨から外したスネ肉をひもで縛り、煮込んでは冷ましてを繰り返すことなんと4日間。その間は丁寧にアクをひき、絶対に沸かさないように目を光らせます。できあがった肉はゼラチン状の澄んだ旨味に包まれ、本来はとても素朴な料理でありながら、手間をかけて研ぎ澄まされたレストランのメニューに昇華されるのです。また、原田シェフはこの店に来て生産者に会いに行く機会が増えたと言います。牧場では朝4時から夜8時ぐらいまで毎日延々と同じような作業を繰り返す。そんな酪農家たちに交じって共に働き、彼らの姿を目の当たりにすることで料理人としての振り幅が変わってきたそう。「牛を育てることにどれだけの苦労があるのか、どんな想いがあるのかを体で感じ取ることにすごく意味があります。そこから得たものを料理の上で形にして、いろんな人に知ってもらえたら」。何よりもまず正直に素材と向き合おうとする原田シェフは、肉に関してもこれまでの見方ががらりと変わったとか。「どういう肉が正しいのか、それをどう調理すれば正しいのか。今もまだ試行錯誤の途中ですが、ずっと突き詰めていきたい」。レストランの中にいるだけではわからなかった、料理への新しいアプローチがここから生まれようとしています。

イズム

キラー通りから一本入った静かな路地に昨年オープン。地下だが窓があり、開放感溢れる落ち着いた空間。ゆったりした配置のテーブル席とキッチンを眺めるカウンターがあって使い勝手もいい。ランチは5,980円(サ込)

東京都渋谷区神宮前3・39・9ヒルズ青山B1F
18:00~23:00(20:00LO)、土12:00~15:00(13:00LO)、
18:00~23:00(20:00LO)日・月定休
メトロミニッツWEBより4月中旬予約開始予定

※こちらの記事は
2018年4月20日発行『メトロミニッツ』No.185に掲載された情報です。

更新: 2018年6月12日

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