#8 東京の名店

「l’Odorante par Minoru Nakijin」オーナーシェフ 今帰仁 実 さん
「Les Ailes des K」シェフ 渋谷恭平さん

2皿でたどるシェフの履歴書

Photo:柳 大輔 
Illustration:山崎真理子 
Text:石井 良、松本典子

東京に数ある名店のシェフたちに、あるお願いをしました。彼らの基礎をつくった「当時の1皿」と、現在の考えを表現した「最近の1皿」を作っていただくこと。まずはこの2皿をたどることで見えてくる、シェフたちの物語を追いかけます。

古典性と現代性を併せ持つ
素材の味を越えるフレンチ

MINORU NAKIJIN
1970年、大阪府出身。中学卒業後、岐阜県「ラーモニー・ドゥ・ラ・ルミエール」などを経て上京。銀座「レカン」などで約10年の修業後、渡仏。二ツ星「オテル・デ・ピレネー」、二ツ星「ラ・バスティード・サンタントワーヌ」などで約2年半の研鑽を積み、帰国。都内のレストランで5年間シェフを務め、2008年「ロドラント ミノルナキジン」をオープン。

当時の1皿
広田牡蠣/酒粕/柚子

柚子の果汁に牡蠣の殻を空けた時の汁を加えたジュレ、ホウレン草で包んだ広田湾の生牡蠣、生クリームと牡蠣も入った酒粕のフォンダンの3層。生牡蠣とクリーミーなフォンダンに、柚子の風味と香りが清涼感を添える。ディナーコース10,800円~(サ別)で予約時に申告すると組み込み可能。

こちらの料理名は、「お客様にイメージしていただけるように」と主原料のみ。想像の後には、きっと驚きが待っています。「当時の1皿」は10年以上前、今帰仁シェフがフランスから帰国後にシェフを務めたレストランで生まれたもの。柚子が香るジュレとホウレン草のベールに包まれた生牡蠣の下にしのばせた、クリーミーなフォンダンには酒粕が入っています。「以前から日本酒に興味があって、日本人のルーツでもあるアイテムをフレンチに引用したいと思っていたんですね。陸前高田・広田湾の上質な牡蠣を使うのでシンプルもいいですが、素材を超える味わいに仕上げるのが私の役目。フレンチは構築していく複雑性が魅力だと思います」とシェフ。毎年これを楽しみに訪れる方も多く、牡蠣のシーズンに登場する定番です。以前は日本の文化を取り入れることを意識していたそうですが、日本人としてのアイデンティティーは何だろうと考えた時、「フランス料理の源流に敬意を払いながら、自分が学んだことの中でいいと思うものを使おう」と考え方に変化が。「フランス・日本という線引きをせず、純粋にいいと思ったものを使うことで発想がグローバルになりました。フランス人が日本の食材を使う感覚に近いですね(笑)。古典的なフレンチの良さも伝えたいし、現代性も加味したい。ソースも大事だし、素材に頼りすぎず素材を超える味にする。余韻もフレンチの良さなので、余韻によってワインとのマリアージュをさらに楽しめます」とシェフ。「最近の1皿」は、フォアグラやキノコのふわふわムース、なめこなど日本の様々なキノコ、海老で構成した一品。これぞフレンチという複雑性と余韻を持つ美味しさでありながら、古典すぎず軽く食べられるように表現されています。ディナーコースが7,560円~19,440円(サ別)と幅広く設定されているのは、「敷居を低くして出会いの場を広げ、予算に合わせた最大限のおもてなしをしたい」という思いから。何よりお客様の満足を目指す今帰仁シェフの真摯な人柄も、この店が愛され続ける所以なのです。

最近の1皿
フォアグラ/海老/キノコ

ディナーコース10,800円~(サ別)より。生やマリネなど様々に調理したキノコと海老のミキュイの下には、低温のコンソメで火入れしたテリーヌのような食感のフォアグラと、エスプーマを使ってふわっと仕上げたキノコのムースが。ここにヘーゼルナッツのクランブルでカリッとした食感をプラス。

ロドラントミノルナキジン

中央区銀座7・7・19 ニューセンタービルB1F
12:00~13:30LO、18:30~20:30LO 不定休
メトロミニッツWEBより予約可能です

食材へのアプローチはよりシンプルに進化中

KYOHEI SHIBUYA
1986年、埼玉県生まれ。調理師学校を卒業後、「アピシウス」を経て2009年に渡仏。ミシュラン三ツ星「レジス・マルコン」や「メゾン・デコレ」を経て帰国。オーナーの小林氏から誘われて「レゼールデカー」のシェフに就任。出身地埼玉県を始めとする野菜農家など、生産者とも密に繋がり、時間があれば生産地に出かけ、食材探しにも取り組む。

当時の1皿
茗荷谷

初夏から夏にかけてだけ登場するお店のスペシャリテ。ピンクのグラニテが表すのは桜の名所として名高い近くの播磨坂だという。創業当時から少しずつ変化して、今はこの形に。野菜は訪問したことのある生産者の物が中心。

老舗フレンチ「アピシウス」で総料理長を務めた小林定さんがオーナーの「レゼールデカー」。ここで、キッチンを任されているのが、小林さんと「アピシウス」で共に働いた渋谷恭平シェフです。店名は“Kの翼”という意味で、2人のKが描く料理の世界が翼を持って天高く舞い上がるという意味が込められています。オープン当初にスペシャリテとして登場したのが、こちらの『茗荷谷』という1皿。茗荷谷という場所で根を張っていきたいという想いから生まれた料理ですが、フレンチでみょうがを使うのはなかなか革新的。みょうが独特の香りやシャリっとした食感を生かしてイカやトマトがバランス良く寄り添い、酢漬けにしたみょうがのグラニテをはらりと掛けて爽やかに仕上げています。「最初にアピシウスで王道のフランス料理を学びましたが、その後、日本の食材使いが上手いキハチ出身のシェフやお菓子の世界も経験したので、様々な食材を抵抗なく使い分けられるようになりました」と渋谷シェフ。実はフランスから帰国したばかりの頃は、フレンチという枠に捉われていたが、徐々に国内の野菜や魚などの生産者とも繋がりができて、淡い味の和の食材を生かそうという気持ちが強くなったとか。食材を大事にしたいという根底は変わらないものの食材へのアプローチはよりシンプルに変化したと言います。そしてもう1つの皿は、この日仕上げたばかりというピカピカの新メニュー。岡山から取り寄せた牡蠣を使った遊び心のある料理。貝殻に載るのは牡蠣の出汁、牛乳、生のりなどをラップに閉じ込めた球体で、口の中でそっと圧力をかけると、チュルンと飛び出す仕掛け。鼻に抜ける濃厚な潮の香りはまさに丸ごと海を齧ったかのよう。これはフランスで食べて感銘を受けた料理がヒントになったもので、自分だったらどうするか?から出発しています。「もっと海を感じる料理にしたかったので、牡蠣はより濃厚に、磯の香りの生のりも加えました」。ゲストの驚きや感動が交差するカウンターが好きという渋谷シェフ。今後はイベントなどで料理に対する思いも発信していければと言います。

最近の1皿

右は牡蠣と野菜のサラダを載せたゴマのビスコット。爽やかなライムのジュレ、西洋ワサビの泡ソース、西洋ワサビのクリームソース、イカ墨のソースなどが散りばめられている。ともにディナーコース8,640円(サ別)より

東京都文京区小石川5・4・9 B1F
11:30~15:00(14:00LO)、18:00~21:00LO 月定休
メトロミニッツWEBより予約可能です

※こちらの記事は
2018年4月20日発行『メトロミニッツ』No.185に掲載された情報です

更新: 2018年6月12日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop