#7 東京の名店

「Lyla」オーナーシェフ 成清 毅 さん
「La Paix」シェフ 松本一平さん

2皿でたどるシェフの履歴書

Photo:柳 大輔
Illustration:山崎真理子 
Text:石井 良、松本典子

東京に数ある名店のシェフたちに、あるお願いをしました。彼らの基礎をつくった「当時の1皿」と、現在の考えを表現した「最近の1皿」を作っていただくこと。まずはこの2皿をたどることで見えてくる、シェフたちの物語を追いかけます。

進化し続ける
感性の実験室

TSUYOSHI NARUKIYO
1978年、大分県生まれ。実家の割烹を経てフレンチに転向。「オテル・ドゥ・ミクニ」で4年半の修業を積み、その後渡仏。5年間のパリ修業ではパリ8区の名店「タイユヴァン」、パリ17区の「アガペビス」などを渡り歩き、三ツ星レストランからビストロまで幅広く経験。帰国後、2013年に「Lyla」をオープンさせる。

当時の1皿
イワシのプラチナ仕立て

プラチナ箔を貼り付けたイワシ、フレッシュな大根と甘酢に漬けた大根などを、プラチナを使った和皿に盛り付けた、店のオープン当初のスペシャリテ。当時、東京フレンチの中では異彩を放つ1皿だった。全体を白い食材でまとめたモードな雰囲気は、思わず見惚れる美しさ。

今年で5年目を迎える赤坂の「ライラ」ですが、「オープン当初のことは、昨日のことのように覚えている」と、成清シェフ。「Menucarteblanche(白紙のメニュー)」を掲げ、日替わりで届く食材をもとにコースを組み立ていくという店のスタンスだけに、毎日が試行錯誤。怒涛の勢いで日々が過ぎ去り、あっという間の5年間だったと言います。それゆえ、オープン当初から出し続けている料理は、ほとんどないのだそう。そんな中でも当時の1皿「イワシのプラチナ仕立て」は、2013年のオープン当初に考案し、今でも稀にコースに組み込まれるという評判の1皿。「当時は、あの頃の東京フレンチにはなかったパリのモードな感覚を表現したいという思いが強くあって。見た目にもインパクトのある、店の目玉となる料理として作り上げたスペシャリテです。どちらかと言えば外側のビジュアルからのアプローチで、さらに食べてもしっかりおいしい。そんなところを目指しましたね」。白い食材だけでまとめたり、当時は珍しかった和皿に盛り付けるなど、意外性のある見た目と味は、今もゲストを惹きつけています。対して最近の1皿「藁の灰を纏ったカツオとフォアグラのソース」は、味からアプローチした1皿。カツオのタタキをガストロノミーの視点から現代的にアレンジした力作です。「昔はどちらかと言えば、外側から料理を作っていた部分がありました。でもこの料理は、求める味を実現するにはどうしたらいいか、という、内側からのアプローチで生まれた料理です」。リクエストされない限りリピーターのゲストには、同じ料理は出さない――。そんな姿勢で5年間、膨大な数の料理と技術を蓄積してきた成清シェフだからこそ生み出せた1皿だと言えます。「やりたいこと、食べていただきたいものが沢山ありすぎて、最近は品数がどんどん増えていますが、さらにブラッシュアップを続けていくためにも、常に勉強の日々です。昔はフランスしか見ていませんでしたが、今では世界中に目がいくようになったのも大きな変化ですね。ジャンル問わず、色々なものを取り入れて、5年後も10年後も、進化し続けていたいです」

最近の1皿
藁の灰を纏ったカツオと
フォアグラのソース

カツオのタタキをガストロノミーの視点から表現。藁と香味野菜の灰と塩昆布などの日本的な旨みをカツオに纏わせた。ポン酢などを効かせたフォアグラのソースと共に口に運べば、日本人にとってはどこか懐かしくも感じる旨みの波が押し寄せる

ライラ

港区赤坂7・5・34 インペリアル赤坂フォーラ ム1F
12:00~13:30、18:30~20:30 火定休 メトロミニッツWEBより予約可能です。

意外性の足し算で
素材の魅力を引き出す

IPPEI MATSUMOTO
1974年、和歌山県生まれ。六本木「ヴァンサン」でギャルソンからパティシエ、ソーシエまで 基本を学ぶ。その後渡欧しベルギーのナミュールにある一ツ星「レッソンシェル」で修業。帰 国後、麹町「オーグードゥ ジュール」でスーシェフ、日本橋「オーグードゥ ジュール メルヴェ イユ」でシェフとして活躍し、2014年に「ラペ」をオープンする。

当時の1皿
アスパラベーコン

日本橋室町のとあるビルの地下。そこには、凛としながらも、どこか親しみやすい空間が広がっています。見渡せば、壁には書が飾られ、テーブルには和皿がセットされているなど、和の要素が程良く取り入れられているのが理由だと気付くはず。「修業時代、フランス人に『なぜ日本人なのにフレンチを学ぶんだ』と問われたことがきっかけで、日本の文化や食材と向き合い、取り入れるようになったんです」。松本シェフがこの地に「ラペ」を開いたのは3年前のこと。それ以前も現在も、料理へ対する姿勢は一貫しています。「フランス料理の堅苦しさを払拭して、肩肘張らず純粋に楽しんでいただきたい」。その思いは、この2皿の前菜によく表れています。「『アスパラベーコン』は、ベーコンの香りを移したブランマンジェとアスパラを合わせることで、日本の家庭でも慣れ親しんだアスパラベーコンの味を表現しています。麹町の『オーグードゥジュール』でスーシェフをやっていた時に、シェフに提案して採用された、初めてのスペシャリテです」。食べてみると想像以上にベーコンの香りが広がることに驚かされます。「フォアグラのゴーフレット」は、「ラペ」のオープンにあたって考え出した、今のスペシャリテです。「サービスマンとの連携で、日本橋三越の風呂敷に包んだ缶にゴーフレットを入れてご提供します。そのサプライズ感と、さらにフォアグラを手で食べられるという意外性を足し算しました。こうしたものが前菜にあることで、笑顔になっていただければ嬉しいですね」。根底にあるのは、フレンチを気軽に楽しんでもらいたい、という気持ち。さらにそこには、食材の生産者への感謝も表れていました。「料理は食材あってのものです。ですから、サステナビリティを重視する生産者の取り組みにも貢献していきたいと思っています。日本には北海道から沖縄まで、豊富な食材があります。それを生かした料理を実直に提供していくことで、生産者と食べ手を繋ぐお手伝いができればと願っています。さらには、そうした日本ならではのフランス料理の形を、世界にも発信していきたいですね」

最近の1皿
フォアグラのゴーフレット

フォアグラのテリーヌと、季節のフルーツのコンフィチュールをサンドしたゴーフレットは、食感のアクセントにいぶりがっこを使っていることも意外性を演出。添えられたブルーチーズのムースと交互に食べるのがおすすめです。デザート的な見た目に反してしっかり食事として成立している

ラペ

中央区日本橋室町1・9・4 B1F
11:00~15:00、18:00~23:00 水定休
メトロミニッツWEBより予約可能です

※こちらの記事は
2018年4月20日発行『メトロミニッツ』No.185に掲載された情報です。

更新: 2018年6月12日

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