#6 東京の名店

「L’appartamento di NAOKI」オーナーシェフ 横江直紀さん
「gri-gri」 オーナーシェフ 伊藤憲 さん

2皿でたどるシェフの履歴書

Photo:奥山智明 
Illustration:山崎真理子 
Text:松本典子、石井 良

東京に数ある名店のシェフたちに、あるお願いをしました。彼らの基礎をつくった「当時の1皿」と、現在の考えを表現した「最近の1皿」を作っていただくこと。まずはこの2皿をたどることで見えてくる、シェフたちの物語を追いかけます。

記憶に残り続ける色気のあるイタリアン

NAOKI YOKOE
1972年、愛知県出身。学生時代に手に取った料理本に感銘を受け、地元のフランス料理店に入店。その後イタリアンに惹かれて転向し、渡伊。ミラノ「サドレル」、ヴェネツィア「リストランテ リーボ」「ロカンダ・サン・ロレンツィオ」などで2年半修業を重ねて帰国。都内のイタリアンレストラン数軒を経て、2010年「ラパルタメント ディ ナオキ」をオープン。

当時の1皿
桜海老とブロッコリーのリゾット

ディナーコース8,640円より。赤と緑の美しい色合いも美しい、オープン当初から出している海老とブロッコリーの組み合わせ。今回は春らしく桜海老を使用。素材から出る旨みを最大限に引き出し、最後に使う軽い味わいのバターはリゾットの仕上げに使うためだけに愛知県から取り寄せている。

16年前、イタリアの「ヴェネツィア新聞」で発表される読者投票のレストランランキングで、ある料理が半年以上も1位に君臨するという極めて異例の事態が起こりました。その料理とは、横江シェフがイタリア修業2年目に作ったリゾット。「確信犯的に名物を作ろうと思って、ヴェネツィア近郊で取れる手長海老とグリーンアスパラを使って考えました。料理を作る毎日が本当に楽しくて、休みの日もずっと店の厨房にいていろんな料理を作ってましたね」。そして件のリゾットを原型に、店のオープン当初から提供しているのが「当時の1皿」。当時ハマっていた海老とブロッコリーの組み合わせがリゾットに最適だったそうで、海老の旨みと野菜の甘みが米に染み渡り、仕上げにチーズと軽いバターで繋いだ優しい味わいです。「最近の1皿」は、歯応えのある太いパスタ・ビーゴリに、ベネトの郷土料理に欠かせないイカスミを練り込んだもの。イカの旨みを凝縮させたソースがパスタと相性抜群で、ヤリイカを丸ごと使っています。「当時イタリアではワタを使う考えが無かったので、後になってワタも旨みがあることに気付いて生まれた料理です。リゾットもそうですが、僕は何を食べているのか明確な料理が好き。食材を際立てつつ、初めて食べる美味しさや食感に仕上げてオンリーワンを目指したい。理想は“東京で1番エロいイタリアン”。次の日に“昨日ナオキで食べたあれ美味しかったな…”とジワジワ効いてくるような記憶に残る料理を作りたいし、後で思い出して恍惚となるような時間を過ごせる店でありたいですね」。根本にあるのは、イタリア時代の大好きな師匠「ロカンダ・サン・ロレンツィオ」のシェフに教わった「自分が作りたいものを楽しみながら作れば、おのずとお客様も楽しんでくれる」という考え方。カウンターで食べるお寿司屋さんの楽しさをイタリアンで再現したくて作ったカウンターメインの店内は、根っから料理が好きで楽しみながら作る横江シェフと、楽しさを共有する場所でもあるのです。

最近の1皿<>
イカ墨を練り込んだビーゴリ、
ヤリイカとチーマディラーパのソース

ディナーコース8,640円より。チーマディラーパとはイタリアの菜の花。新鮮なヤリイカを1匹丸ごと使い、ワタやイカスミ、ゲソ、エンペラは細かく切ってソースに、身はサッとソテーしてパスタの上にトッピング。仕上げにあしらったレモンの皮から爽やかな香りが漂い、食欲をそそる。

ラパルタメント ディ ナオキ

港区麻布十番3・3・9 4F
18:00~23:00LO、 土18:00~21:00LO、日12:00~13:00LO、18:00~ 21:00LO 月定休・月1回不定休 メトロミニッツWEBより予約可能です。

余分な装飾は削ぎ落とし全体のバランスを重視

KEN ITO
1976年、愛知県出身。都内のフランス料理店を経て、2003年渡仏。ローヌ「ジャン・マルク・レイノー」、三ツ星「メゾンピック」で研鑽を積む。2006年にはスペイン・バスクに渡り、三ツ星「マルティン・ベラサテギ」で修業。帰国後、2008年に名古屋で「グリグリ」をオープン、2012年に現在の麻布十番へ移転。ソムリエールのマダムと共に店を切り盛りする。

当時の1皿
スズキのローストホワイトチョコレートのソース

冬期のみのメニュー。写真はスズキで、本来は身が真っ白で脂が乗ったヒラスズキを使い、低温で火を入れ、外側はパリッと、中はしっとりと焼く。ソースに入っているホワイトチョコレートをお皿にも雪のように削って仕上げ、11~12月は白トリュフを削る。昔からのファンも多い一品

フランスのローヌ地方、スペインのバスク地方という2つの美食の都で伊藤シェフが研鑽を積んだのは、どちらも三ツ星店。そんな華々しい経歴を伊藤シェフは「昔の話ですよ」と笑います。「日本のフランス料理店は常に新しい発想を求められるので、その時は新しくても数年後にはありきたりの手法、料理となってしまう。同じ形で5年10年はありえないし、自分の中で1回消化した経験やテクニックをベースに、海外の新鮮な情報を取り入れながら自分の個性を出すことを考えています」。当時の1皿と最近の1皿を比べると、見た目の印象はかなり違いますが、「メインは魚でもソースでもなく、一体になる全体のバランス」という根本は同じ。当時は白いシンプルなお皿ですが、現在は焼き物や柄など様々な食器を表現の1つとして使います。「1人で作っているので、余計な飾りは削ぎ落とす傾向にありますね。結果、何を食べてほしいか、何と組み合わせたいのか、そのお皿の意義が伝わりやすいという部分もあります」と伊藤シェフ。オープンした頃から出している「当時の1皿」は、脂が乗ったヒラスズキが手に入る冬期のみの料理。白ワインやバターなどで作る基本的なブールブランソースに、カカオを35%含むヴァローナの「イヴォワール」というホワイトチョコレートが入っています。白ワインの酸味とミルクのコクやカカオ感が一体になったソースがスズキを引き立てる、繊細な味わいです。対して「最近の1皿」は、4月頃までが旬のサワラを使った新メニュー。青魚は香りが強い酒と好相性のため、ブルーチーズとコニャックのクリーム系ソースを合わせます。カリカリに乾燥させたブリオッシュが上にかかって香ばしさと食感もプラスされ、一体感のあるバランスが際立った1皿です。各料理の完成度はもちろん、おまかせコース全体を通して、この1皿は必要か?と組み込む意味を考えて出しているそう。当初から通う多くの常連の中には転勤になっても地方から訪れる人もおり、ゲストを飽きさせないこの店の魅力を静かに証明しています。

最近の1皿
サワラのロースト
フルムダンベールとコニャックのソース

ディナーコース8,640円~(サ別)より。フルムダンベールとはフランス中部オーヴェルニュ地方のブルーチーズ。コクがあって重たくないソースが秀逸で、茶色い粒は黒ニンニクやヨーグルト、メープルシロップが入ったブリオッシュをカリカリの食感になるまで乾燥させたもの。

グリグリ

港区元麻布3・10・2 2F
18:30~23:30 (21:00LO)、金・土・日12:00~15:00 (13:00LO)、18:30~23:30(21:00LO)月定休 メトロミニッツWEBより予約可能です。

※こちらの記事は
2018年4月20日発行『メトロミニッツ』No.185に掲載された情報です。

更新: 2018年6月12日

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