#5 東京の名店

「Ristorante Senso」店主 近藤正之さん
「à nu, retrouvez-vous」エグゼクティブシェフ 下野昌平さん

2皿でたどるシェフの履歴書

Photo:今井広一、花村謙太朗
Illustration:山﨑真理子 
Text:石井良、松本典子

東京に数ある名店のシェフたちに、あるお願いをしました。彼らの基礎をつくった「当時の1皿」と、現在の考えを表現した「最近の1皿」を作っていただくこと。まずはこの2皿をたどることで見えてくる、シェフたちの物語を追いかけます。

凱旋帰国したシェフを 悩ませ、辿り着いたパスタ

MASAYUKI KONDO
1975年生まれ。西麻布「ベンジーナ」、広尾「ラ・ビスボッチャ」などで修業後、渡伊。北部にある全て星付きの「グイド」「サント・ウヴェルテュス」「ヴィッラ・クレスピ」「アル・エノテカ」「ズルローズ」で6年間研鑽を積んだ後、「ロカンダ・デル・ピローネ」のシェフを務めて6年間一ツ星を維持。帰国した翌年の2016年、「リストランテセンソ」の店主に就任。

当時の1皿
ヘーゼルナッツのタリオリーニとウサギ

コンフィにしたウサギのもも肉の上にヘーゼルナッツを練り込んだパスタとウサギのラグーを。焦がしバターのソースとヘーゼルナッツでコクを、さっぱりしたカステルマーニョチーズで酸味をプラス。地産地消の意識が高いイタリア料理の理念の下、ピエモンテの美味を凝縮させた一品。

2016年のオープンから就任した近藤シェフは、その前年まで12年間イタリアで星付き店のみを渡り歩いた経歴を持つ奇才。「当時の1皿」は、責任あるシェフの地位で6年間一ツ星を維持したピエモンテ州・アルバの「ロカンダ・デル・ピローネ」で考案した1品です。ヘーゼルナッツ、ウサギ、カステルマーニョチーズといったピエモンテの名産品に、卵黄を使って打つ伝統的なパスタ・タリオリーニを合わせた人気料理ですが、日本で提供すると想定外の反応が…。「卵黄が入ったパスタは、粉の香りと卵黄の甘みを楽しめて味が食材とマッチするのですが、アルデンテにならないので“麺が伸びてる”とか“カップラーメンみたい”と言われたんです(笑)。“ウサギを食べるのは嫌”という方も約2割いました。日本のお客様に喜んでいただくためには、現地そのままではいけないと思いましたね」。そこで近藤シェフは、味や香りはそのままで弾力のあるパスタを作ろうと一念発起。試行錯誤の末、冬は常温、夏はオーブンか乾燥機を使い、時間をかけて低温半乾燥させることに。そして完成したシコシコ・モチモチのパスタに合わせる具材はウサギから仔牛のサルシッチャに替え、焦がしバターソースからトマトの効いたミートソースに一新。するとゲストの反応は…大好評!「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)を大切に、バランスが良く、1皿食べても飽きない料理」を心がける近藤シェフならではの完成された一品です。「盛り付けや食感、温度、香り、音も含めて、五感で楽しんでいただけたらと思います。イタリアンは“カジュアル”や“郷土料理”のイメージが強いと思いますが、イタリア本土の7~8割の店は現代的で、シェフの個性の下に考案される料理なんです。和食やフレンチのように、コース1本で楽しむ価値がある最先端のイタリアンが日本にも沢山あることを広めたいですね」。信念を貫きながら柔軟な姿勢でゲストを笑顔にする近藤シェフが、先頭を切って今後のイタリア料理界を格上げしていくことは間違いありません。

最近の1皿
低温乾燥したタヤリンELE ZO産仔牛のサルシッチャのラグー

ディナーコース8皿11,000円~より。弾力のあるパスタに合わせたミートソースに入れる仔牛のサルシッチャは、塊肉やスパイスを入れるなどレシピを指定して、北海道の食肉料理人集団・ELEZO社に特注するオリジナル。チーズはカステルマーニョの他に旨みの強。パルメザンも使用。

リストランテ センソ

港区白金台5・17・10 B1F 
18:00~24:00(21:30LO)、土12:00~15:00(14:00LO)、18:00~24:00(21:30LO) 日・第2月定休
メトロミニッツWEBより予約可能です。

料理人もゲストもより「ありのまま」に

SHOHEI SHIMONO
1973年、山口県生まれ。六本木「ヴァンサン」で4年半、西麻布「ル・ブルギニオン」で3年半修業した後、2003年に渡仏。ロアンヌ「トロワグロ」、パリ「タイユヴァン」、ワインショップ「アンティックワイン」を経て帰国。2007年から代官山「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」でシェフを務めた後、2009年に「ア・ニュ・ルトゥルヴェ・ヴー」をオープン。

当時の1皿
フォアグラ ラパン

シェフになって初めてお店で提供したこのスペシャリテは、10年以上前、まだ下野シェフがフランスにいる頃に考案したメニュー。フォアグラのテリーヌをウサギの背肉で巻き、柚子でマリネすることで、さっぱりと食べられる、爽やかな味わいに仕立てている。

フルコースのフレンチといえば、一般的には非日常の食事ですから、そこにはある種の緊張感が漂うもの。ですが、同店では「ありのまま」に楽しんでほしいと下野シェフ。コースを食べ進めることで緊張がほぐれ、いつのまにか、いつもの笑顔になっている。そんな温かな空気感が「ア・ニュ・ルトゥルヴェ・ヴー」には流れています。料理に対しても「ありのまま」に向き合う姿が印象的。例えば、料理のレシピを書き留めることはしないのだとか。「レシピがあると料理が作業になってしまうんです。再現することに意識が行ってしまって、思考が止まってしまう。自分の舌も食べ手の舌も日々変化していますから、そこに合わせてマイナーチェンジを繰り返して進化していきたいんです」。そんな自然体の下野シェフにとって当時の料理「フォアグララパン」は、シェフとしてはじめてのスペシャリテ。フランスでの修業時代、友人の結婚式のために考案した思い入れのある1皿です。「当時は自分の技術を出していきたい、という気持ちが強かったと思います。『こんなこともできる』とか『この組み合わせ面白いでしょ』というような。でもそれって自己満足の世界なんですよね」。今では、より素材重視の料理に変化しているのだそう。その中でフレンチとして、そして下野シェフとしてのオリジナリティをどう表現していくか、というのが目下のテーマです。最近の1皿「筍と桜えび」では、タケノコに豆乳から作ったチーズを合わせたり、火の入れ方にもフレンチらしさを取り入れているそう。春の訪れを告げる華やかな盛り付けも、食べ手をワクワクさせてくれます。「細部にこだわることは決して悪いことではないですが、ではそのこだわりがゲストに伝わっているのか、本当に自分がおいしいと思って提供しているのか、ということは常に自分に問いかけています。その中でだんだんと、自分の気持ちも変化してきたのかもしれませんね」。より少ない要素で味と見た目、オリジナリティをバランスさせるのは、料理人としての腕が試されるところ。よりハードルの高い料理へと昇華した、下野シェフの真骨頂をご堪能あれ。

最近の1皿
筍と桜えび

「良い素材には手を加えすぎない」という言葉の通り、丸揚げにしたタケノコに桜えびをふりかけた シンプルな一皿。絶妙な火入れにより、タケノコの純粋な味わいと、桜えびの香ばしさが楽しめる。 タケノコに豆乳チーズがさり気なくかけられているのも、フレンチらしいアプローチ。

ア・ニュ・ルトゥルヴェ・ヴー

渋谷区広尾5・19・4 SR広尾ビル1F
11:30~13:30、18:00~21:00 火定休
メトロミニッツWEBより予約可能です。

※こちらの記事は
2018年4月20日発行『メトロミニッツ』No.185に掲載された情報です。

更新: 2018年6月12日

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