#4 東京の名店

「AMOUR」エグゼクティブシェフ 後藤祐輔さん
「le sputnik」オーナーシェフ 髙橋雄二郎さん

2皿でたどるシェフの履歴書

Photo:今井広一 Illustration:山﨑真理子 Text:馬田草織

東京に数ある名店のシェフたちに、あるお願いをしました。彼らの基礎をつくった「当時の1皿」と、現在の考えを表現した「最近の1皿」を作っていただくこと。まずはこの2皿をたどることで見えてくる、シェフたちの物語を追いかけます。

日本の素晴らしい食材と出会い、料理の国境を越える

YUSUKE GOTO
1979年東京都生まれ。フランス料理人の父の影響で、自然と料理人の道へ。アルザス「オ・クロコディル」、銀座「レカン」で基礎を学び、25歳で再渡仏。星付きレストランやシャルキュトリ店などで修業、帰国後「カンテサンス」「オトワレストラン」を経て2009年「エキュレ」シェフ。2012年より「アムール」エグゼクティブシェフ。

当時の1皿
和洋折衷~フォアグラ、セップ、とかちマッシュ

フォアグラをカダイフで包み揚げし、すだちのジュレを忍ばせて酸味のアクセントに。上にはオゼイユなどのハーブ。下にはセップの濃厚なソースと、とかちマッシュのソテー。とかちマッシュとの出会いはここから。

悩みに悩んで、何を作っていいのか分からなくなってしまう……8年前、シェフになったばかりの後藤さんはそんな経験をしました。「お客様が求める要望に応えたい、学んできたトラディショナルな部分も大事にしたい。でも、僕自身が作りたい料理もある。フランス料理らしさを大切にしつつオリジナリティを追求していたつもりが、その全てが噛み合わなくなり、正解が分からなくなったんです」例えばお客様からフォアグラのリクエストが多いと、コースには欠かせない素材だと思い込んでしまったり。
「今ならそんなこと全然ないって自分に言えますけど、当時30歳だった僕は、フレンチはこうあるべきと、知らぬ間に自分を固定観念にはめ込んでいた」そして次第に、自分の料理には本当にフォアグラがないとダメなのか、キャビアやトリュフが必要なのか、自分はどんな料理を作りたいのかを深く考えるようになっていきました。悩む中、後藤さんは固定観念で作られた壁を、力任せに壊すでもなく、血のにじむ手でよじ登るでもなく、壁より高く飛び超えていきます。自分の料理の世界を俯瞰できるようになる、、そのきっかけは、日本の食材でした。
「フォアグラ料理に添えた、北海道十勝産のマッシュルームとの出会いです。セップのソースと組み合わせましたが、香りの強さ、味わいの素晴らしさが衝撃的で、こんなにすごい食材が日本にあるのかと驚いたんです」

最近の1皿
純白~うに、新玉ねぎ、昆布

自分には日本の食材という強い味方がある。この驚きは、やがて「フォアグラやトリュフを超えるおいしさが、日本にはたくさんある」という確信に変わります。日本の食材という羽があれば、料理の国境を軽く飛び越えて、本当に自分が作りたい料理を自由に表現できる。その楽しさが、現在の後藤さんの料理に繋がっています。
今、後藤さんの店の調理場では、昆布や蛤のだしが毎日ひかれ、調味料には大分産の鮎の魚醤が欠かせません。「大切にしているのは、素材のピュアで透明感のある味わいを、しっかり感じてもらえる料理。日本人の僕達が、何を美味しいと感じるかを、自分の感性で料理にしたいんです」
自分に素直になって出会ったとびきりの食材が日本各地から集まり、それらの生産者を直に訪ねることで信頼関係が生まれ、彼らの想いを知る。そして料理への想いも深まります。
そして2年前、西麻布から今の一軒家スタイルの恵比寿に移転した時、心境はさらに大きく変化します。
自分に素直になって出会ったとびきりの食材が日本各地から集まり、それらの生産者を直に訪ねることで信頼関係が生まれ、彼らの想いを知る。そして料理への想いも深まります。
そして2年前、西麻布から今の一軒家スタイルの恵比寿に移転した時、心境はさらに大きく変化します。
日本の食材の魅力を、カトラリーで多面的に味わう料理。今の後藤さんの1皿は、そんな風にも言えます。

 

アムール

渋谷区広尾1・6・13
ランチ12:00~15:30(13:00LO)、ディナー18:00~23:00(20:30LO)メトロミニッツWEBより予約可能です。

薔薇の花に秘められた仏料理の技術と情熱

YUJIRO TAKAHASHI

福岡県出身。都内のフランス料理店で修業後、04年渡仏。三ツ星のグランメゾン「ルドワイヤン」、人気ビストロ「ラミジャン」、ブーランジェリー「メゾンカイザー」、パティスリー「パンドシュクルで修業し、07年帰国。同年丸の内「ヌーベルエール」、09年代官山「ルジュードゥラシエット」を経て、15年独立。オーナーシェフに。

当時の1皿
薔薇ビーツとフォアグラ

コニャックとポルト酒と塩で一晩マリネしたフォアグラを、中心温度が38℃になるまで火入れしテリーヌに。ローズティーを加えたアガーでフォアグラを包み、ビーツのチュイルを薔薇に見立てて組み立てた1皿。あまりに手間暇がかかるため1日7皿限定。

料理を通じていっしょに刺激的な旅を―。そう誘うのは、フランス料理店「ル・スプートニク」。旅のコンダクターは、もちろん、オーナーシェフの髙橋雄二郎さんです。開店半年でミシュランの星を獲得。斬新な料理のビジュアルはSNSで注目の的。しかし、味にうるさいフーディーズたちが常連になる本当の理由は、髙橋さんの1皿に、フランス料理の伝統的な技術と、料理することへの並々ならぬ熱量を見出すからです。例えば、オープン当初の約3年前、髙橋さんの名刺代わりとなった「薔薇ビーツとフォアグラ」。オーソドックスなフォアグラのテリーヌに、ビーツのチュイルを美しくあしらった一品は、「ゲストを楽しませたい」という一心の賜物。フランス料理を象徴するフォアグラを素材に、修業時代からずっと火口を務め、現地でデセールも学んだ髙橋さんのキャリアを色濃く反映しています。「前店の6年間は、同じお客さんに同じ料理を出さないと決めていました。だから、得意のフォアグラも、100通りは作れますよ」と笑います。こうして、一期一会の真剣勝負で鍛えられた料理の筋力は、独立後の現在も増強中。そんな中から誕生した新たな料理が「フォアグラのエスプレッソ」です。エスプレッソを泡状にしたり、スープ仕立てにしたりといった試行錯誤を経て、ソテーしたフォアグラにシート状に固めたエスプレッソをオン。ヒントは、髙橋さんが大好きなケーキでした。「特に好きなのが、“イデミスギノ”のお菓子。モダンもクラシックも関係なく普遍的なスタンスで、自分の世界を構築しているパティシエの杉野英実さんは尊敬する職人です。杉野さんのお菓子がすごいのは、様々な要素を重ねたケーキにフォークを下まで入れて、一緒に食べることを前提に、味やテクスチャーを計算している点。自分の料理も一体感を意識しています」。その狙い通り、フォアグラのねっとりした食感に、香ばしいエスプレッソが滑らかに溶け合う味わいは、めくるめく食の未体験ゾーン。やはりここは、新しい発見に溢れた旅の場所なのです。

最近の1皿
フォアグラのエスプレッソ

フォアグラのソテーに、ピュレにしたオレンジと果肉を合わせた爽やかな酸味のオレンジソースをかけ、エスプレッソのシートで包む。その上に散らした、シナモン、スターアニスなど、複雑な風味を醸し出すスパイスパウダーがアクセントに。

ル・スプートニク

港区六本木7・9・9リッモーネ六本木1Fx12:00~15:30(13:00LO)、18:00~23:00(20:30LO)
休みHP参照メトロミニッツWEBより予約可能です。
※昼夜共におまかせコースのみ。掲載の料理を希望する場合は予約時に確認を。

※こちらの記事は
2018年4月20日発行『メトロミニッツ』No.185に掲載された情報です。

更新: 2018年6月12日

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