#2 東京の名店

Test Kitchen H
リストランテ アクアパッツァ

名店の料理人たちのいま・ここにあるニュース

Text :永浜敬子、神吉弘邦、佐藤太志

これよりお届けするのは、あの名店の料理人の皆さまに、「今、考えていること」や「今、取り組んでいること」など、最近の話題を語っていただくニュースページ「東京“名店”ジャーナル」。それぞれのテーマで、自由に語っていただきます。

「Test Kitchen H」(準備中)山田宏巳さんの話題

もうすぐオープンする新店舗は、料理人たちのたまり場にしたい。
楽しく料理したり、真剣に学んだり…

料理への情熱を常に持ち続け、同世代のシェフや若手からの信頼も厚い山田宏巳シェフ。まもなく料理人生50年の節目を迎える今、銀座のリストランテを昨年末に休止し、南青山に100席という大型新店舗をオープンさせると言います。

HIROMI YAMADA
1953年生まれ。1982年に渡伊、2年後に帰国。1985年「バスタ・パスタ」開店と同時に総料理長に就任。1995年「リストランテ・ヒロ」オープン。著書は、『天国と地獄のレシピ』(2015年、商業界・刊)など。

修業を始めた50年前、日本にイタリア料理の食材は全然流通していなくて、街にもどこか権威的で「食べ方を教えてやる」といった店ばかり。開放的で明るい感じの店はなかったですね。だから、1985年に杉本尉二さんというパートナーと開いた「バスタ・パスタ」では、100席のどこからでもキッチンが見えるようにした。このスタイルがテレビディレクターの目に止まり、『料理の鉄人』という番組のヒントにもなりました。この頃からイタリア本土のように、ワクワクする大型店舗が東京にも増えてきましたね。一転して、僕は4年後に「ヴィノッキオ」という24席の小さな店を始めました。最近、またプライベートっぽいお店が段々と増えてきて、「友人の家にお邪魔した気分になるお店」が流行っていますよね。もちろん、それはそれで間違いではないと思いますけど、そろそろお客さんが小さなお店に飽きてくるのでは?と感じています。本来レストランって、価格帯に関係なくお洒落して行くところだと思うのです。それに、今はいい店ほど予約が取れなくて、当日電話してパッと行けない。だったら、自分はすぐ行けるような店を作ろうと思ったのです。
今度の店は小さな空間と大きな空間、どちらも実現しようとしています。オープンキッチンで調理の過程全てを見ていただく。ただし、キッチンにかぶりつきのアリーナ席は馴染みのお客様用で、従来通りの特別なコース料理を用意します。それを取り囲むカジュアルな席では、気軽な価格帯のコースも提供しようと考えています。遅い時間はアラカルトでワインを楽しむような気軽さも備えて。コンセプトは「キッチンでのつまみ食い」。もはや、店中がキッチンだと思ってもらえれば良いなと考えています。今の時代、皆の〝たまり場〞がないのですよ。つながるのはSNS上だけで。「これからヒロのところ行こうぜ」って、いろんなジャンルの料理人が仕事終わりに立ち寄ってくれる場になれば面白いと思っていて、皆で1品ずつ試作し、試食などしてみたり。だから、店名も「テストキッチン」。料理人が集まる場所からは色々な情報が発信されますし、きっとお客さんもワクワクするんじゃないかな。遊びに来る人もいれば、真剣に調理を学びに来る人もいて。それで「料理って良いよね!」と盛り上がれば最高だなぁ〜と思っています。
メニューは、50年料理人やってきた中で、懐かしいけど新しい料理の〝ヒットパレード〞を揃えようというプランもあります。今の400℃で1分焼くモッツァレラのピッツァではなく、200℃で10分焼くゴーダーチーズのピザパイとか。オニオンとピーマンのスライス、缶詰のマッシュルームを載っけたもの。もちろん、それらを今の食材、技術、感性で昇華させるとどうなるかといった探求心もあります。
この歳になると、1つひとつの料理を掘り下げたいのですね。若い頃はいろんなことを覚えて1日に3ⅿも成長していた実感があったけど、今は1年で3mmしか成長していないかもしれない。シェフになると、他人が料理を教えてくれませんから(笑)。その代わり、1つを螺旋のように深く掘り下げられる。5年前よりも今の自分は、美味しいボンゴレを作れるようになったな、という実感が本当に嬉しいのです。

Test Kitchen H(テストキッチンエイチ)

4月下旬オープン予定
柱のないワンフロアの中心にオープンキッチンを据え、約100席がぐるりと取り囲んだスタジアム型レストラン。オープン当初は夜のみの営業予定。新店情報はFacebook(http://www.facebook.com/Hirosofi/)で発信中。
東京都港区南青山5・12・13

「リストランテ アクアパッツァ」日髙良実さんの話題

イタリアの地方料理が私に教えてくれたこと。
新しい「アクアパッツァ」では、その原点に立ち返りたいと思います。

西麻布で10年間、広尾で18年間愛されてきた「リストランテ アクアパッツァ」のオーナーシェフ・日髙良実さんは、60歳になった昨年、移転を決意しました。この4月より新しい「アクアパッツァ」、スタートします。

YOSHIMI HIDAKA
1957年生まれ。1986年に渡伊、帰国後は「リストランテ山﨑」の料理長に就任。1990年、南イタリアで最も感銘を受けた魚料理を店名に配した店「ACQUAPAZZA」(アクアパッツァ)をオープンさせ、独自スタイルのイタリア料理を確立している。

まもなくオープンする新しい「アクアパッツァ」は、「マンジャペッシェ」のスタイルにしたいと思っています。「マンジャペッシェ」とは、イタリア語で「魚を食べて」という意味。1996年に私が手がけたお店の名前でもあります。
日本人は魚好きで、東京は築地市場を中心に、全国から旬の魚介が集まってきますよね。鮮度も良く、質の高い魚が手に入るため、マンジャペッシェで提供したのは本来の味を生かし、生のまま、焼く、ゆでるなど、シンプルな調理で作った魚料理でした。野菜も同様に、何よりも素材が主役。今度の新店舗でも、改めて〝素材〞に立ち返るつもりです。
素材を生かすのは、イタリア料理の基本。私は1986年にイタリアへ渡り、3年間で北から南まで全8州、14店で修業しました。特に、私が強く影響を受けたのは、南イタリアの地方料理。大抵、洗練された一流リストランテは北イタリアの都市にあり、私も三ツ星レストランなどで修業しましたが、まるでフランス料理のように美しく、何となく物足りなく感じていました。そこで、修業していた店のシェフに「日本からイタリアへ来て、私は何を学んで帰ったら良いか」と相談したら、「地方へ行け」と言うのです。そして、向かった南イタリアには、地中海や温暖な気候から得た豊かな食材をそのまま生かした、地元の人のための料理がありました。シチリアの店では、イカ墨のリゾットの作り方など、もはやワイルドと言えるほど単純。港から届いたばかりのイカをすぐにさばき、背ワタと目玉を取った後は叩いてミンチにし、イカ墨ソースを作る。これだけで感動するほど美味しかった。
私の原点は、「地元の人に愛される、地元の素材をシンプルに生かした地方料理」。その考えの下、東京で店を始めてからは「日本の素材を使った、日本のイタリア料理」を追求してきました。輸入食材で本場と同じ料理を作るより、ゴボウや大根、海苔やワカメなど、日本で獲れた新鮮な素材を使った方が余程イタリア料理らしいですし、野菜をふんだんに使った「ナポリタン」も作っていますよ。ナポリタンは、日本人が最も愛する「日本のイタリア料理」ですから(ナポリタンは横浜発祥とされている)。
また、素材重視のスタイルは、我々スタッフにも良いことがあります。旬の食材は日々変わるため、食材や調理法について常に勉強しないとなりません。しかしその分、自信と熱意を持ってお客様にメニューを提案することができるのです。また、サービスマンも交代で朝の仕込みを手伝い、試食を一緒にしたり、皆で生産者を訪ねたりもしたいと思っています。働く全員が料理、食材、調理法など、仕事に対してより深い関心を抱き、毎日楽しく働ける環境を作りたいのです。料理人になって30年以上が経ち、今、私が最もやりたいことと、次の世代へ私が残せるものを考えて、導き出した答えが新しい「アクアパッツァ」では味わっていただけると思います。

リストランテ アクアパッツァ

4月20日(金)オープン
広尾の「リストランテ アクアパッツァ」が完全移転。外苑前駅近くの複合施設内にオープンします。アラカルトとコースでテーブルを分け、全80席を予定(他に個室も用意)。食のイベントなども開催予定。
☎03・6434・7506(4月2日開通予定。4月1日までは☎03・ 5447・5501へ)
東京都港区南青山2・27・18 青山エム ズタワー パサージュ青山2F

※こちらの記事は
2018年4月20日発行『メトロミニッツ』No.185に掲載された情報です。

更新: 2018年6月12日

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