#3 この頃の肉料理

“塊焼き”の仕掛け人

Photo:平尾健太郎

“あの有名メニュー”が生まれたのには背景があり、たどってみると、時代、土地、人など様々なものが見えてくることがあります。ここでたどるのは、「塊焼き」の背景。その第一人者、和牛レストラン「格之進」の代表・千葉祐士さんに、「肉」と向き合ってきた日々のことを語っていただきました。

お金は全然なくても、お肉だけはたくさんあった頃

私がラッキーだったことの1つは、〝修業をしていない〞ということでしょうか。よそで修業をしてないため、私には常識がありませんでした。だからこそ、「格之進」の肉は、独自性を色濃く備えていると思います。
私の故郷は、岩手県一関市。2005年に一関市と合併する以前は、川崎村という小さな集落でした。家業は祖父の時代から「馬喰」(牛馬の売買・仲介業)で、今は兄が継いでいます。私は大学を出て、フィルムメーカーの営業職に就きました。しかし、27歳で退職。実家が牛を飼う商売であることを生かし、「肉のユニクロ」(生産から販売まで手掛ける)を目指そうと思ったのです。脱サラし、地元・一関で焼肉屋「格之進」を始めたのは1999年のことでした。
しかし、ただ肉を切って、出すだけだからカンタン…なんて甘い気持ちで始めた素人の焼肉屋に、お客さんなど来るわけがありませんよね。しかも「毎日使う分だけを仕入れる」という常識も知らず、実家からは300㎏とかの肉塊が送られてくるんです。ただ、私にはお金はなくても、肉とキムチとご飯は山ほどあった。食いはぐれることもなく、毎日、肉を「切って、食べて」を繰り返しました。しかし、切り方の基本も知らず、教えてくれる人もいなかったため、自分流でカットして食べ続けていたら、いつしか切り方や焼き方次第で味わいがグッと変わることに気付きました。また、開店から1年後には、仕入れたお肉が「賞味期限間近の時間を経た方が美味しいのでは?」と発見。要するに、その肉は〝熟成〞していたのです。今や世間で人気モノの熟成肉ですが、私は独自で熟成方法を見出し、2002年頃から店で提供していました。実は、そのように「すでにやっていた」ということは、他にもいくつかあります。例えば、2005年頃に「希少部位」がブームになりましたが、私の店ではとっくに出していました。なぜなら、毎日、大した数のお客さんが来るわけではないため、各自に好きなものをオーダーされると満遍なく肉を使い切ることができません(何せ一頭買いなもので)。だからメニューをコースのみにし、いわゆる希少部位も半強制的に召し上がっていただいていたのです。でも、「これは腕肉の〝とうがらし〞と言って、こんな味なんです」などと説明しながら、お客さんと会話が楽しめる利点もありましたよね。振り返ってみれば、「一頭買い」「希少部位」「コース料理」「赤身肉」「熟成肉」「塊焼き」「骨付き肉」など、近年、焼肉業界で次々と起こった 〝ブーム〞のほとんどを、私はたまたま先駆けてやっていました。

昨今の肉ブームのおさらい

・処女牛ブーム (2000年頃)
メスの未経産牛は、もともと広く流通していた美味しい牛肉。にもかかわらず、この頃、多くの焼肉店で「処女」という文字が付けられたメニューになり、人気を博した。
・一頭買い・希少部位ブーム (2005年頃)
これまで焼肉の中心は「ロース」や「カルビ」。しかし、一頭買いする店が現れるようになり、希少部位(一頭からわずかな量しか取れない)を提供する店が登場した。
・お任せコースブーム (2008年頃)
お店で取り扱う部位が増え、メニューが細分化。選ぶのが面倒だというニーズが出てきたため、焼肉店でもコースを採用する店が増えた。
・赤身ブーム (2009年頃)
これまで日本人が愛してきた「とろけるような霜降り肉」は、胃にもたれる、量があまり食べられない…など、健康志向が進んだ頃。そして、脂肪分の少ない赤身が好まれるように。
・熟成肉ブーム (2010年頃)
アメリカの高級ステーキハウスが日本へ上陸し、「熟成肉」という言葉が急激に広まった。しかし、実は日本の肉業界でも、以前から「枯らす」「干す」の工程はよく行われてきたことで、「熟成」というキャッチ―な言葉が人気拡大の原動力に。
・塊焼きブーム (2011年頃)
下の写真、格之進のメニューが〝塊焼きの元祖〞で、ここから人気が拡大したと言われている。塊のまま焼いてからカットして食べた方が、肉汁が充満し、かみしめた時の旨みの広がり方が違う。
・熟成Tボーンステーキブーム (2014年頃)
2014年に上陸したアメリカのステーキハウスがきっかけで、L字型やT字型の骨付きサーロインなどの豪快な熟成肉がブームとなった。世間の「肉ブーム」も相変わらず話題が絶えることなく、街にも肉バルなどの肉専門店が急増していた。

「格之進」の革新的な熟成肉

2010年頃には、「熟成肉ブーム」が沸き起こりました。私は開店当初の2000年頃に「熟成」と出合いましたが、店で提供するに当たって科学的な根拠が欲しかったため、まずは研究機関に調査を依頼。そこで「熟成すると、柔らかくなる。旨みが増す」という確証を得たため、以後、さらに追求を重ねました。今では「格之進」ならではの熟成方法が確立されています。
上質な熟成肉を作るには、まず枝肉の選定が大切です。枝肉を見れば、私には牛が生きていた頃の状態がわかります。実家で牛を飼っていたおかげもありますが、こういう育ち方をした牛はこんな枝肉になり、熟成をかけるとどんな熟成肉になるかまで、私には一気通貫して見えるのです。一次熟成は、枝肉を吊るして約1カ月間。枝肉のままだと皮下脂肪で守られるため、酸化することなく、ゆっくりと内部分解が進んでいきます。内部分解というのは、タンパク質が自己消化酵素により切断され、旨みと柔らかさが増していく過程です。エイジング方法は、ドライエイジングではなく「枯らし熟成」。牛肉独特の「和牛香」という香りを逃さないため、この方法を選んでいます。
その後、店へ運び、ブロックにカットした状態で、約20日間の追加熟成を行います(ウェットエイジング)。お店によっては、カットした肉を店内で一度熟成させただけで熟成肉として提供している場合もあるようですが、格之進ではカット肉を熟成させるのは追加熟成の時だけ。巨大な枝肉をズラリ吊るしておく設備など、本気で熟成肉に取り組もうと思わない限り、なかなか用意できるものではありませんから。

“塊焼き”の焼き方
水風船理論

①筋目に沿ってカットした肉
千葉さんが導き出した、塊肉を上手に焼き上げる方法。まずはじっくりと肉を見れば、真っ直ぐの筋が走っているはず。その中は空洞で、肉汁がたっぷり(ストロー状態)のため、まずはストローの出口を封じるべく、上面、下面から焼く。

②水風船のようにパンパンに
上下2面の次は、残りの4面を焼く。すると中の温度が上昇し、肉汁が膨張。肉がパンパンに膨れ上がる。これでほぼ焼き上がりだが、まだ肉の中では肉汁が動き回っている状態のため、いきなり切ると肉汁が勢いよく出てしまう。少し時間を置いてからカットを。

格之進の塊焼き
「いわて南牛」を中心とした岩手県産黒毛和牛の熟成肉を使用した「塊焼き」は、サーロイン、ヒレなどの定番部位から、シャトーブリアン、サンカクなどの希少部位まで様々用意している。「格之進」各店のメニューの他、公式HPでオンライン販売もあり(120g 2,800円~)

〝塊焼きの元祖〞と呼ばれて

1999年に開業してから18年目、現在「格之進」は熟成肉の他に、〝塊焼きの元祖〞としても名が知られるようになりました。2000年以降に岩手県内の他、東京にも店舗を構えるようになりましたが、メニューに初めて「塊焼き」が登場したのは2009年、六本木の「格之進R」でした。きっかけは、ブリスケット(前股の内側にある肩ばら肉)。ブリスケットには硬い部分があり、それを柔らかく食べるために隠し包丁を入れるという方法を編み出していましたが、隠し包丁のところからどうにも肉汁が出てしまいます。そこで試しに塊のまま焼いてみたら、めちゃくちゃ美味しかった。香りも肉汁の出方も、全然違います。そこから、最上の塊肉を焼き上げる技術を探求し、たどり着いたのが「水風船理論」。塊肉を繊維に沿って焼き、中に肉汁を閉じ込めてパンパンにする。少し時間を置いてからカットする。そんな水風船理論を知っておけば、誰でも美味しく塊肉を焼き上げることができます(P27に掲載あり)。ただし、どんな部位でも塊肉に適するわけではありませんし、まず「熟成肉」であることが大前提です。
そんな「塊焼き」を携え、2014年、「肉フェス」に参加しました。その会場では「1皿1400円で提供すること」というルールの下、肉料理を揃える出店者がズラリと並んでいます。そこで私は採算よりも、「格之進」にしかできない美味を広く紹介することが大事だと考え、黒毛和牛の熟成肉を塊焼きで提供。記録的な大行列を作り出し、4回連続優勝することができました。以来、全国で「塊焼き」という料理が市民権を得るようになり、私たちは〝塊焼きの元祖〞と呼ばれるようになったのです。

PRIFILE
千葉祐士さん MASUO CHIBA
株式会社門崎 代表取締役、通称“肉おじさん”。
1971年、岩手県一関市生まれ。脱サラし、1999年、故郷に焼肉店「格之進」をオープンさせる。やがて地元で人気店になり、東京にも進出。なお、本ページでご紹介している「肉ブーム」のこと、塊焼きの「水風船理論」などをもう少し詳しく知りたい方は、『熟成・希少部位・塊焼き 日本の宝・和牛の真髄を食らい尽くす』(千葉祐士・著、講談社+α新書)にてご確認を。

写真は、岩手県一関市にある「格之進」本社(全店舗の本校)。ここは、地方に埋没する文化、商品、生産物を見つけ出し、都会へ発信する「地方創生の拠点」でもある。

「肉」でつながる、未来の学校

今や「格之進」の代名詞とも言える存在が「熟成肉」や「塊焼き」。また、最近では、7年前に行ったイベントで開発した「うにく」(雲丹の肉巻き軍艦)をはじめ、お肉と海の幸の融合「サーフ&ターフ」(サーフ=海、ターフ=牧草地)を提案しています。
しかし、いずれにしても、これらは私にとってはお肉の表情を引き出す手段の1つでしかありません。これまで味わったことがない、肉の美味しさの領域を新たに拡張させたいと模索している過程で生み出されたものなのです。そして、そんな年月を過ごしてきた中で、もう1つ、私が目指したい「未来」のカタチが見えてきました。それが、「学校」です。
今年、「格之進」の本社は、私の母校・一関市立門崎小学校に引っ越しました。
2013年に廃校になった門崎小学校の建物を利用して、土地の文化、生産者・商品などを都会へ発信する拠点を作ったのです。その受信地は、「格之進」の各店舗。
11月29日にオープンした「格之進肉学校六本木分校」はもちろん、格之進の全ての店舗がいわば「学校」として機能します。
「学校」は、新たな美味しさの発見、肉の知識、食の知恵などを体験、学ぶことができる場でもあり、「肉」を通じたコミュニティの場でもあります。その先には地方、生産者とつながっていますが、この格之進のコミュニティが活性化すると、私たちは「未来」が継続できるはず。食べたお肉に支払う金額は、「未来」への投資とも捉えることができます。
本社(旧・門崎小学校)があるのは、人口1000人程度の過疎まっしぐらなエリア。現在、農業者は200人程度ですが、平均年齢何歳だと思いますか? 昨年は76歳、恐らく今年は77歳です。もう遠い未来の話ではなく、あと5年、10年で、日本の生産者の労働人口は10分の1以下になると言われています。そうしたら、手間暇かかる有機栽培の野菜より、効率重視で育てられた野菜が増えるかもしれません。良質なものが手に入りにくくなる。
だからこそ、私たちは生産者のつながりを大切にしていますし、都会の人々に全力で美味しいものを届け、食べてもらった分だけ生産者を支援したい。少し割高に感じるかもしれませんが、その分、確実に良いものを提供できる仕組みを作っていきたいと考えています。
昔は、私も金持ちになりたいと思っていましたが、幸せな金持ちでなければ意味がありません。その「幸せ」とは、人々に必要とされて生きていくこと。地元に拠点を構えつつ、東京で展開するからには、地方の問題、生産者の価値を伝えていかないと意味がありません。これまで、日々「肉」と向き合いながら、自然と独自の美味を見出してきたように、ひたむきに店を続けてきたら、自然と「学校」にたどり着きました。私が最もラッキーだったことは、岩手県の一関で生まれ、牛肉を生産する家で育ったことなのです。

格之進肉学校
六本木分校

3つの店から「熟成肉」を発信する複合施設

この11月29日にオープンしたばかりの「格之進肉学校 六本木分校」は、1~3Fまで、3つの店舗が同居しています。まずご紹介したいのは、2~3Fの「格之進R+(アールプラス)」。メインは「塊焼き」のコースメニューで、塊肉の醍醐味を味わうことができます。また、ハンバーグから本場フランス仕込みのシャルキュトリーまで、他のメニューも充実。1Fは、精肉販売の他、BBQマスター養成、プロ向け教室などレベルに応じたカリキュラムを提供する「格之進B(ビー)」、熟成肉割烹スタイルで、和牛の熟成肉と海の食材を組み合わせた和製のサーフ&ターフを提案する「格之進82(エイティツー)」。店内には、ユッケ、牛刺なども提供可能な生肉を扱える設備があるため、和牛海鮮寿司の提供も実現しています。これら3つの店舗を体験すると、和牛のいろは、調理メソッド、新潮流、王道の食し方など、楽しみながら新しい何かをきっと知ることができます。

格之進肉学校 六本木分校
東京都港区六本木7・14・16 六本木リバースビル
☎03・6804・2904(2F/格之進R+)、03・6804・1629(1F/格之進B)、03・6804・1629(1F/格之進82)
18:00~23:00(格之進B 16:00~/22:30LO) 日定休

【1F/格之進82】

牛肉の部位数は全82。その数字を店名に添えた「格之進82」では、和牛82部位が日替わりで楽しめる業界初の「焼きしゃぶしゃぶ」を用意。右の写真「うにく」(肉巻きウニ軍艦)など和牛海鮮寿司も看板メニューで、熟成肉から生成された格之進オリジナル牛肉発酵調味料「牛醤」でいただける。

【2F/格之進R+】

2Fのテーブル席は、欧風焼き肉スタイルの店。何と言ってもイチオシは「門崎熟成肉塊焼き」。塊焼きコースでは、スタッフが目の前で塊肉を焼き、最高の焼き上がり状態でカットするライブパフォーマンスが必見。また、個人でイベントを行うこともでき、解体ショーなども予約できる。

※こちらの記事は
2018年12月20日発行『メトロミニッツ』No.182に掲載された情報です。

更新: 2018年4月21日

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