#2 この頃の肉料理

日本が誇る名品

帝国ホテル ローストビーフ ものがたり

Text:松本典子
Photo:大谷次郎

今も昔も変わらず帝国ホテルにおいて、メインディッシュとして親しまれているローストビーフ。ここでは、明治、大正、昭和、平成と時代を跨いで120余年愛される、帝国ホテルのローストビーフの歴史を辿ります。

日本初のローストビーフワゴンは帝国ホテル生まれ

写真/約6㎏のアメリカ産リブロース(約40人前)。約1㎝幅に切り分けて提供される。

帝国ホテルのローストビーフは、肉の仕入れを専門に行うブッチャーシェフによる素材の吟味から始まります。使用するのは、ホテルの基準を満たした上質な赤身肉。エイジングルームで状態を毎日確認しながら1週間から10日間熟成させます。一番良い状態で各レストランに届けられ、いよいよ火入れ。まず表面に焼き色を付けて肉汁を閉じ込め、オーブンで約2時間半じっくり火を通して30分寝かせると、中は美しいロゼ色に。そんな伝統の調理法で作られるローストビーフはまさに日本が誇る名品です。

写真/現在ローストビーフは2店舗で提供。写真はフランス料理「ラブラスリー」のもので、1枚カット4,300円(コースでもいただける)。ブフェレストラン「インペリアルバイキング サール」ではディナーバイキング8,200円(土日祝8,700円)で提供。※料金は全てサ別

帝国ホテルのローストビーフについての最古の記録は、1893(明治26)年。ホテルの開業から3年目の明治天皇の誕生日に午餐会で出されていたそう。当時は、目の前で肉をカットするスタイルではなく、あらかじめ切り分けて提供していたと言われています。それから時は経ち、1923(大正12)年。日本に初めて「ローストビーフワゴン」が登場します。金属製の蓋が付いた専用のワゴンに塊肉をのせ、お客様の前でカットする華やかな演出をスタートしたのが帝国ホテルでした。当時はカレーライスやトンカツといった日本的洋食が普及していましたが、調理器具はまだ発達しておらず、お客様の前で肉を切り分け、温かいままサーブできるスタイルは当初から話題を呼びました。ワゴンに着目したのは、以前にロンドンやニューヨークでホテルマンや料理人として修業を積んでいた当時の支配人・犬丸徹三氏。ローストビーフの本場・ロンドンのレストランで見たローストビーフワゴンの導入に着手しますが、当時の日本にはワゴンを作れる職人もノウハウもなく、苦難の連続。頼みの綱は、ロンドンから持ち帰った、金属製のワゴンを写した1枚の写真だけ。日本のメーカーに写真を見せると、1000円あれば東京で土地付きの家を1軒買えた当時、鋳型を製造するだけで約200円もの費用がかかると判明したそう。

写真/インペリアルバイキング開業当時のメニュー。当時の社長・犬丸徹三氏が北欧旅行で見つけた「スモーガスボード」と言われる北欧スタイルの料理で、パリで修業中だった料理人・村上信夫さんが社長の指示でコペンハーゲンへ飛び、学んで持ち帰ったメニュー。後にローストビーフも加わって一躍人気となる。

しかし、スタッフたちは諦めませんでした。試行錯誤の末、最も技術的に難しく費用もかかる金属製の台座を、日本の優れた木工技術を駆使した〝木製の台座〟で代用したのです。ようやく完成したこの和製ワゴンは日本での第1号となり、その後、日本で作られるローストビーフワゴンのモデルとなりました。また、ローストビーフと言えば、今や全国のホテルやレストランで実施されているバイキングの目玉。実は、好きなものを好きなだけ食べる「バイキング」というスタイルも帝国ホテルが発祥。1958(昭和33)年、日本初のブフェレストラン「インペリアルバイキング」が誕生し、来年60周年を迎えます。開業後に加わったローストビーフは、現在も続く看板メニューに。今では当たり前となったローストビーフのワゴンサービスやバイキングでのカットサービスにはこのような歴史があったのです。伝統の味を変えずに守り続ける帝国ホテルのローストビーフ。変わらぬ味を求めて繰り返し訪れる方が多いという事実が、名品たる所以を証明しています。

当時の帝国ホテル

左:ローストビーフのワゴンサービス導入時。右:インペリアルバイキング開業当時の新館料理長・村上信夫さん(左)、本館料理長・一柳一雄さん。当時のディナーバイキング1,800円は帝国ホテルに1泊できるほど高額だったが、行列ができる繁盛ぶりだった。

1890(明治23)年、海外からの賓客を迎える日本初の本格的な西洋式ホテルとして誕生。開業期からフランス料理の基礎を築き、日本で西洋料理を広める窓口となった。明治末期から大正にかけて正統フランス料理をメインダイニングに定着させ、外国人から高く評価される。昭和初期には、料理人をフランスへ派遣するという画期的方針を打ち出し、石渡文治郎、田中徳三郎、常原久弥、村上信夫など後世に名を残す料理人たちが、パリの名門「ホテル・リッツ」などで腕を磨いた。彼らの技術は、現在も多くのメニューに活かされている

帝国ホテル
東京都千代田区内幸町1・1・1
[タワー館B1F]フランス料理 ラ ブラスリー
☎03・3539・8073 11:30~14:30LO、17:30~21:30LO
[本館17F]ブフェレストラン インペリアルバイキング サール
☎03・3539・8187 朝食7:00~9:30LO、ランチ11:30~14:30LO、ディナー17:30~21:30LO(※ローストビーフ提供はディナーのみ)

※こちらの記事は
2018年12月20日発行『メトロミニッツ』No.182に掲載された情報です。

更新: 2018年4月21日

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