# 8|赤ワインと風土料理

各地を旅するように味わおう

赤ワインと風土料理 東京の店めぐり④

これより登場する東京の各店には、こんなお願いをしました。「季節が寒くなってきたため、ワインは『赤』を。合わせる料理は、そのワイン産地と同じまたは近郊の『風土料理』をご提案下さい」と。改めてお伝えすれば、「風土料理」とは“どこか特定の土地のことを伝えてくれる料理”のこと。伝統的な郷土料理も含みつつ、食材、歴史や文化など、その土地のことを知っているシェフが「風土」を表現したものであれば創作料理でも構いません。そして、今秋は「赤ワインと風土料理」をめぐり、遠い土地へ思いを馳せ、旅するように味わってみませんか? 各店の旅先(「風土料理」がテーマにする土地)のミニ情報も添えながら、フランス、イタリア、スペインの旅へご案内します。

SPAIN・バレンシア州

©スペイン政府観光局

バレンシアはスペイン東海岸における経済、文化の中心地。左の写真は「芸術科学都市」と呼ばれる地域で、近未来的で斬新な建築物が点在する「芸術、科学、自然」をテーマとしたレジャースポット。そんな都会である一方、日照時間が長く、雨量が少ない温暖な土地を生かし、昔から農業が盛んに行われてきた。最も有名なオレンジをはじめ、中世のイスラム教徒支配の時代に灌漑施設が敷かれ、昔ながらの米どころでもある。15~16世紀にはこの地方でパエリアが発祥した。

EL TRAGON [虎ノ門]

ウサギと鶏の旨みにスパイス香る一杯を

「本場、バレンシアで『パエリア』と言えばウサギと鶏の肉で作るもの。日本で見かける魚介を使ったパエリアは『パエリア』とは呼びませんね」と言うのは、オーナーシェフの栗原靖武さん。栗原さんはバレンシアの米料理に魅了され、現地の米料理店=アロセリアで修業。その味を伝えるため、まず、2014年に日本パエリア協会を立ち上げ、本場の味の普及に努めています。そして、今年4月には日本初の薪の火で作るパエリア専門店「エル・トラゴン」をオープン。「パエリアは元々、農作業の傍ら、薪火とフライパンで作る屋外の料理でした。そのため水田の近くで獲れたウサギなどの肉が定番の具材なんです。調理法は基本的に変わりません」(栗原さん)。伝統的な作り方は骨付きのウサギと鶏の肉をカリカリの半焦げになるまでパエリアパンで炒めて肉の旨みを引き出し、さらにモロッコインゲンやピューレのトマトなどの野菜を炒め、水を入れてスープ状にします。そこに生のお米を入れれば、あとは炊き上げるのみ。薪火のため程良いスモーク感もプラス。米は本場と同じジャバニカ米で、プチプチとした芯の食感が心地良く、程良くお焦げを作るのも本場の鉄則。バレンシアの風土が詰まったこの1皿にベストな1本と選んでくれたのが、スペイン中南部でよく栽培されているモナストレル種の、果実の濃縮感がある赤ワイン。このタリマは樽由来の柔らかなスパイスのニュアンスがあり、香ばしいパエリアの米の風味と響き合います。

<WINE>
タリマ・DO アリカンテ[バレンシア]
バレンシア州南部のアリカンテで造られるワイン。ビロードのような優しい口当たりで親しみやすい味。これからの肌寒い季節にぴったり。ボトル4,104円

<DISH>
パエージャ・バレンシアーナ[バレンシア]
塩とサフラン、ローズマリーのみで風味付けした本場そのままの味。ウサギと鶏は腕やモモ、胸など様々な部位を骨付きで使うから味が深い。1人前2,052円

オーナーシェフの栗原靖武さんは、バレンシアの老舗米料理店「レバンテ」で学ぶ。日本パエリア協会会長で「豊洲パエリア」や代々木公園「パエリア祭り」などイベントも開催している

エル・トラゴン
☎03・6268・8636
東京都港区西新橋2・13・8広瀬ビル1F
営11:00~14:00LO、17:30~22:00LO、土11:00~22:00LO
日定休

SPAIN・バスク地方

ピレネー山脈を挟み、スペインとフランスにまたがる「バスク地方」。人々はバスク語を話し、独特の文化を有する。中でもサン・セバスチャンは、ミシュランの星付きレストランも多く集まる美食の街。また“ピンチョス”の発祥地でもあり、お酒1杯にピンチョスを1~2個つまみ、また次の店へと移るというこの地方独特なホッピング飲み「ピンチョ・ポテ」と呼ばれる文化もある。バスクのワインと言えば、辛口で酸味が強い、微発泡の白ワイン「チャコリ」が有名。

LANBRoA[用賀]

心も温まる煮込みはチャーミングな赤と

スペイン語学留学中、アンダルシアのバルに下宿したことからスペイン料理に魅せられたシェフの磯部美木子さん。フラメンコからスペインワインへ、好きな道を突き進みソムリエとなった北澤信子さん。そして、恵比寿の名店「ティオ・ダンジョウ」で出会った2人は意気投合、バスク料理の店を開いたのは去年のこと。評判は瞬く間にスペイン好きの間を駆け巡り人気店となりました。スペイン北部のバスクは、ミシュランの星付きレストランがいくつもある美食の王国。「山と海に囲まれているので食材が豊富です。バスクの人たちは味覚が優れていて、食材の味を上手に引き出す調理法を知っています」と言うのは、スペインで料理をやるならバスクしかない、そんな思いで現地の名門料理学校へ飛び込んだ情熱家の磯部シェフ。バスク料理は種類豊富なピーマン類をよく使うことが特徴で、乾燥ピーマンのペーストで料理にコクをプラスしたり、ほろ苦さをアクセントにしたり。今回の「骨付き鶏もも肉の煮込み バスク風」にもピーマンの香りや甘みが効いています。この皿に合わせて北澤さんが選んだのは重過ぎない赤。「鶏肉は白身の肉なので、赤を合わせるならタンニンがこなれている方が良いと思いました。ほんのりスパイシーな感じがピーマンや玉ねぎの風味と合います」と北澤さん。バスクは微発砲の白ワイン、チャコリが有名ですが、赤ワインはバスクにもまたがる赤の銘醸地リオハの出番。しなやかなワインと野菜の香りの煮込みが豊かなバスクの食文化へと誘います。

<WINE>
ソムリエ クリアンサ[リオハ]
スペイン屈指の銘醸地リオハ・アラベサのテンプラニーリョ100%。クリアンサなので熟成感もあるが、滑らかな口当たりで鶏肉にもよく合う。グラス900円

<DISH>
骨付き鶏もも肉の煮込み バスク風[バスク]
塩だけで味付けした鶏肉を、炒めた生ハムやピーマン、玉ねぎ、トマトなどと一緒に骨からほろりとはずれるまで3時間ほど煮込む。1,800円

シェフの磯部さん(左)はバスク地方サン・セバスティアンにある名門料理学校出身。「小笠原伯爵邸」などで腕を磨いた。ワインはソムリエの北澤さん(右)が厳選している

ランブロア
☎03・6432・7017
東京都世田谷区用賀3・11・15・102
営18:00~23:00(22:00LO)、土日~22:30(21:30LO)
月定休

SPAIN・バスク地方

オーナーシェフのエネコ・アチャ・アスルメンディさんは35歳だった5年前、スペイン最年少でミシュラン星をつかんだ実力の持ち主

ENEKO Tokyo [六本木]

ガストロノミーな伝統料理でバスクの魅力を伝える

この9月に開店した「ENEKO Tokyo」は、バスクの3ツ星レストラン「アスルメンディ」のオーナーシェフ、エネコ・アチャ・アスルメンディさんによるお店。ガストロノミーのエッセンスを取り入れた料理を、東京では日本の食材を使いながら、本国と同じクオリティで表現します。「私の料理は革新的と言われますが、背景にあるのは、バスク地方の豊かな食文化と伝統的な料理を誇りに思う気持ちです」と、生まれ育ったバスクへの愛を口にするエネコさん。その言葉通り、今回、エネコさんが"風土料理"として挙げたのは「仔豚のフリット バジルのエマルション」です。バスク料理ではおなじみの山の恵み、イベリコ豚を使用しますが、中でもより柔らかな仔豚をフリットにしています。ワインは、テロワールを大切にするリオハのワイナリー「ボデガス・ファウスティーノ」のものを用意。エレガントな酸味を持つ赤ワインは、仔豚の旨みと相性が良く、バスクの魅力を、料理を通じて伝えたいと意気込むエネコさんらしいセレクトです。バスクと日本は共通点も多いため、バスクへの理解にそれ程時間はかからないのではと期待するエネコさん。「日本人はバスク人と同じように、食卓を囲むことを楽しめる人たちですし、日本に鮨や天ぷらなどの伝統的な料理が今もあるように、バスクにもピンチョスなどの昔から伝わる料理を大切にしています。日本人とバスク人はきっと良い友人になれますよ」

<WINE>
ファウスティーノ1世・グランレセルバ2005(ボデガス・ファウスティーノ)[リオハ]
ボデガス・ファウスティーノは、スペインを代表するワインメーカー。テンプラニーリョの他、2種類のぶどうをブレンドしている。ボトル10,000円(税別)

<DISH>
仔豚のフリット バジルのエマルション[バスク]
日本の天ぷらにヒントを得た仔豚のフリット。バジルとオリーブオイルを乳化させたソース、エマルションがエネコシェフの料理の特徴でもある。13,000円(税・サ別)のコースの中の1皿

敷地の中央には緑溢れるパティオがある

エネコ東京
☎03・3475・4122
東京都港区西麻布3・16・28 TOKI-ON 西麻布
営12:00~15:00(14:00LO)、18:00~22:30(20:00LO)

※こちらの記事は2017年10月20日発行『メトロミニッツ』No.180に掲載された情報です。

更新: 2018年4月20日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop