# 7|赤ワインと風土料理

各地を旅するように味わおう

赤ワインと風土料理 東京の店めぐり③

これより登場する東京の各店には、こんなお願いをしました。「季節が寒くなってきたため、ワインは『赤』を。合わせる料理は、そのワイン産地と同じまたは近郊の『風土料理』をご提案下さい」と。改めてお伝えすれば、「風土料理」とは“どこか特定の土地のことを伝えてくれる料理”のこと。伝統的な郷土料理も含みつつ、食材、歴史や文化など、その土地のことを知っているシェフが「風土」を表現したものであれば創作料理でも構いません。そして、今秋は「赤ワインと風土料理」をめぐり、遠い土地へ思いを馳せ、旅するように味わってみませんか? 各店の旅先(「風土料理」がテーマにする土地)のミニ情報も添えながら、フランス、イタリア、スペインの旅へご案内します。

ITALY・トスカーナ州

イタリア・トスカーナの州都と言えば、中世にルネッサンスが興ったフィレンツェ。他にもシエナ(右の写真)など、古都が多く残る州です。ワインは、キャンティ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノなど、特に赤を中心とした世界屈指の銘醸地。また、南東部に広がるキアーナ渓谷に名が由来するキアニーナ牛も有名な食材です。それを炭火で焼いた豪快な肉料理、豆を煮込むミネストローネといった素朴な料理もこの土地ならでは。多くの伝統料理が今も愛され続けています。

toscaneria [恵比寿]

素材も、調理法も、すべて直球で勝負。 実直に、今日も現地の美味しさを披露

修業時代を振り返り、「出逢ったすべての人々のウェルカムな雰囲気と優しさに触れて、離れられなくなりました」とトスカーナを語る田中祐介シェフ。"風土料理"と聞いて、すぐ思い浮かべたのは「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」だったそうです。直訳すれば、フィレンツェ風ビーフステーキ。現地では、熱源に炭火、部位はTボーン、調味は塩と胡椒、オリーブオイルのみという頑固な定義があり、田中さんもまたそのルールに則って調理しています。この日は、たまたま「入ってきた」というキアニーナ牛で、これも現地と同じ仕様。すべての点で正統を貫いています。「イタリアはどこでもそうでしょうが、フィレンツェも、郷土の文化、料理を皆が心から愛していますね」。中世の頃から醸造されてきたワインも有名なトスカーナ。今回、合わせた「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」も地元が誇る銘柄の1つです。「日本でもよく飲まれるトスカーナワインですが、実は家族経営の小さなワイナリーがたくさんあって、どこも美味しいんです。けれど、そうしたワインはこれまで日本に紹介されていませんでした」。ならば、と田中さん、自前で輸入すべく先頃、クラウドファンディングを敢行。現在、3ワイナリーで約20銘柄が揃うのは、その成果です。「弾力があって赤身のうま味も濃厚な雄のキアニーナ牛には、果実のボリューム感がガツンとあって骨格もしっかりしている『ファニャーニ』のモンタルチーノが抜群」。シンプルな料理に味の明快な赤ワイン。素朴なマリアージュに、トスカーナを体感します。

<WINE>
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ[トスカーナ]
自前で仕入れるワイナリーの1つ「ファニャーニ(Fagnani)」が醸す。スロベニアンオークとフレンチオークで3年熟成。芳醇な味。グラス1,728円、ボトル10,800円

<DISH>
牛肉の炭火焼き ビステッカ仕立て トスカーナ産キアニーナ牛 Tボーン[トスカーナ]
フィレンツェの伝統料理を現地と同じキアニーナ牛で。備長炭で焼き、味付けもシンプル。徹底して現地流を貫いたシェフの自信作。1kg 27,000円

フィレンツェやシエナなど、トスカーナ州各地で研鑽を積んだオーナーシェフの田中祐介さん/素朴な印象の店内もトスカーナ風 

トスカネリア
☎03・6452・2960
東京都渋谷区恵比寿南1・17・6 コートモデリアサウス恵比寿101
営12:00~14:00LO、18:00~22:00LO
水・木ランチ定休

ITALY・ヴェネト州

©イタリア政府観光局

州都は、中世から貿易で栄えた水の都・ヴェネツィア。“イタリアワインの首都”と呼ばれているのは、毎年、世界最大級の「国際ワイン見本市」が開催されているヴェローナ。平野、丘陵地帯が70%ほどを占め、イタリア国内で常にトップクラスの生産量を誇るヴェネト州では、ソアヴェ(白)、ヴァルポリチェッラ(赤)、プロセッコ(泡)、そして最高級の赤ワイン「アマローネ」などを生産している。また「食」の面でも、貿易によって運ばれてきた食材、海産物、平野部が育む農作物など非常に豊か。

stesso e Magari CHIC [八丁堀]

ヴェローナの伝統料理を、現代的なアレンジで

「修業していたメストレという街は、ヴェネツィアからバスで10分ほどですが、ヴェネツィアのような観光地ではなく新興の住宅も立ち並ぶ工業都市。海に近いため魚介類が主流かと思いましたが、地元の人は肉を食べることの方が多かったです」と石濱シェフ。中でも、彼が特に印象深かったのはパドヴァ、ヴィチェンツァ、ヴェローナなどの地域で食されている煮込み料理でした。馬肉を野菜や香辛料とともに赤ワインで煮込んだシンプルな料理ですが、使用するのはヴェネトを代表する銘酒「ヴァルポリチェッラ」。ぶどうを陰干ししてから圧搾する甘美で濃厚なワインは、王族や貴族しか味わうことができなかった時代もあるほど。そのワインをたっぷりと使うのも特徴ですが、味の決め手はスパイス。ローリエやクローブ、ナツメグを加えて2~3時間煮込むだけで、どこかエキゾチックな風味の逸品となります。付け合わせにはできたてのポレンタを。現地ではポピュラーな味ですが、煮込みの食感をさらに引き立てる名脇役となります。「スパイスの香りや味わいが懐かしい」とシェフが言う味は、北イタリアの料理をモダンなアレンジで提供するこの店の原点とも言える存在。メニューがなく、その日入荷の食材やシェフのインスピレーションで誕生するという、日替わりのおまかせコースには、煮込み以外にもバッカラ(干鱈)など、ヴェネトの庶民に愛されてきた伝統の味が散りばめられています。

<WINE>
モンテ デイ ラー二 ヴァルポリチェッラ クラシコ スペリオーレ リパッソ 2011[ヴェネト]
仕上げる前に陰干しぶどうから造られるアマローネの搾りかすを入れて風味を移して仕上げられたワイン。果実味や甘いアロマのバランスも良い。ボトル15,120円

<DISH>
パスティッサーダ デ カヴァル[ヴェネト]
現地の方言で馬肉の長時間煮込みの意。ヴェネトの銘ワインを使って煮込む。東ローマ帝国の頃、戦下で死馬を料理したことがルーツ。コース8,640円の中の1皿

星壽仁オーナーソムリエ(右)と石濱一則シェフ(左)。石濱シェフは「リストランテ ラヴィータ エ ベッラ」副料理長を経て渡伊。ヴェネトにて郷土料理を学び2012年に帰国/温もりに満ちた店内 

ステッソ エ マガーリ シック
☎03・5542・0884
東京都中央区八丁堀3・6・3  高野サンパレスビル1F
営12:00~13:00LO (火~土)、18:00~21:00LO(月〜土)
日祝・月ランチ定休

ITALY・ピエモンテ州

国内屈指の工業地帯で、州の人口の約半数は州都トリノに集中。一方、スイスとフランスと国境を接し、州名も“山の麓”を意味する「ピエモンテ」はその名の通り山が多く、風光明媚な風景にも恵まれている。バローロ、バルバレスコ、カーヴィなどの良質なワインの産地である南部ランゲ・ロエロ・モンフェッラートは、ぶどう畑の中に古城が点在する丘陵地帯。2014年、「ピエモンテの葡萄畑の景観:ランゲ・ロエロ・モンフェッラート」は世界遺産にも登録されている。

Ristrante La ciau [田町]

「バローロ」に代表される銘醸地の美味

ピエモンテは、北はスイス、西はフランスと接するぶどうの栽培に適した丘陵の街。中でも南部は、最高格付けDOCGワインを数多く産出する地として知られています。「白トリュフをはじめ、ジビエ、乳製品など食材の宝庫でもあります。イタリア全土から美食を求めて人が集まる街でしたが、私が渡った1999年頃は、日本人はまだほとんどいませんでした」と当時を振り返るのは、馬渡剛シェフ。約4年半、ピエモンテの1つ星レストラン「ラ・チャウ・デル・トルナヴェント」で修業しました。そして、現在、シェフが手がける料理は、肉の藁包み焼きから鶏のトサカや砂肝をマルサラ酒で煮込んだ郷土料理など、ピエモンテの神髄をしっかり伝えてくれるものばかり。右の写真「牛頬肉と赤ワインの煮込み」もしかりです。「本来は牛の肩やもも肉を使うんですが、ややパサパサしています。でもワインを口に含み、潤すと抜群に美味しくなるんですね。日本では頬肉を使って、しっとりと仕上げています」。ビロードのように艶やかで、ずっしりと重たいソースをまとった頬肉は、口の中に含むとワインのタンニンと一体化。ワイン「バローロ」の重厚な味わいが、コクのある煮込みの奥深さをさらに際立ててくれます。「新潟の越の地鶏や鹿児島の霧島豚など、食材は日本各地の良質なものにこだわり、日本だからできるピエモンテ料理を追求していきたい」と語る馬渡シェフ。ピエモンテの修業の中で培った技と心が昇華した、見事な1皿でした。

<WINE>
オデーロ バローロ 2012[ピエモンテ]
老舗のワイナリー「オデーロ」のバローロ。バローロらしい重厚な味わい。土臭さのある熟成香の中にフレッシュな果実味が感じられる。15,000円

<DISH>
牛頬肉と赤ワインの煮込み[ピエモンテ]
しっかりとした味わいの赤ワインで牛頬肉を煮込んだとろりと濃厚な美味しさ。カシスのほのかな甘みが味わいを柔らかく仕上げている。2,800円

ピエモンテ修業時、素晴らしいワイン生産者たちと交流を重ねた、馬渡シェフ。店内の壁には来日した彼らの自筆サインがたくさん描かれている

リストランテ ラ・チャウ
☎03・3451・3725
東京都港区芝浦2・16・7 中野第3ビル B1F
営11:30~15:00(14:30LO)、18:00~23:00(22:00LO)
火定休

※こちらの記事は2017年10月20日発行『メトロミニッツ』No.180に掲載された情報です。

更新: 2018年4月20日

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