”コク”って何?#5

『コク語辞典』を引いたら。
様々な人たちの用語解釈集⑤

堀口智一さん
斗内暢明さん
南雲主于三さんの場合

Photo 小林秀銀、加藤純平、牧田健太郎 Text 立石郁、本城さつき、浅井直子

少し肌寒くなり、いよいよ本格的な“コク”の季節が到来しました。あの「ミルクのコク」なんて言う時の“コク”です。皆さんは、その言葉の意味を説明できますか?「コクがあってマズい」とは言いませんので、必ず「おいしい」につながることまではわかりますが、頭の中のイメージをまとめるのはなかなか難しく、これまで私たちもぼんやりしていたのです。誰でも知っている言葉なのに、調べてみる限り、どうやらきちんとした定義も確立されていないようで、解釈もきっと人それぞれ。そこで今月の特集は、“コク”に迫ってみたいと思います。様々な方に“コク観”をお聞きして、アーカイブ化。それを『コク語辞典』というカタチで展開したいと思います。

様々な人たちの用語解釈集

『コク語辞典』を引いたら。
コクとは何か?を探るためにまずは、東京で活躍される料理人・作り手の方々のコク語辞典を引いてみました。ここに登場するのは、各店のメニューの中で最もコクのある料理や飲み物です。どうぞ、コクをイメージしながら、ご覧ください。

こく【堀口智一さんの場合】

お餅とお茶のコクは、単純に味が濃いということではなく、手間や技から生まれる繊細な味わい。雑味が少なく、甘み・苦味のコントラストと余韻が強いこと。
―――「月光」店主(三ノ輪/餅・日本茶専門店)

「ひと手間」かけるこだわりが特別なコクを作る

きなこもち
きなこもち(580円)は丹念に杵で手づきされて非常になめらか。米自体に甘みがあり、砂糖は控えめ。香ばしいきな粉の香りが一杯に広がる

餅と日本茶……そんな多くの人が親しんだことのある食べ合わせだからこそ、忘れられない味に仕上げるのは至難の業。三ノ輪にある「月光」は、お餅とお茶のポテンシャルを最大限まで引き出す店主・堀口さんのきめ細やかなこだわりの詰まった人気店です。

青森でしか作られないという甘みのあるもち米「あかりもち」を使い、2升以上のもち米を毎朝400回以上も手づきして、機械では出せないなめらかなコクのある食感を実現しています。そのなめらかさは、箸で持ち上げるとたちまち伸びて、まるでビロードのよう。

特上煎茶
煎茶本来のまるい甘みと苦味が絶妙な特上煎茶(650円)は、1煎目に特に甘みが濃縮されていてグッと旨味が来る。

また、煎茶は最上級の茶葉を選別し、甘みが最大限に引き出されるという68~70℃で淹れて2分蒸らします。そして、まず一煎注がれてから提供。どちらも温かいうちがもっとも甘みが強く食感もいいので、テーブルに届いたらすぐにいただきましょう。コクを出す「ひと手間」を惜しまない、いい仕事っぷりが伝わるお餅とお茶を町の喫茶でいただけるなんともありがたいお店です。

堀口智一さん
「ほっと落ち着けるような和の空間を作りたくて」と、全国的にも希少な杵で手づきした餅が食べられる店「月光」をオープン。商店街「ジョイフル三ノ輪」内に店を構える。

お餅と日本茶専門喫茶店月光
☎03・3891・3105
東京都荒川区南千住1-22-7
営 平日12:00~19:30(LO19:00)、土日祝12:00~19:00(LO18:30)水定休

こく【斗内暢明さんの場合】

鍋を火にかけているとき、各素材がほどよいバランスに達する到達点。「塩を入れるのは今!」という瞬間がふとやってくる。その時の味の重なりこそが、コク。
―――「スパイスボックス」オーナーシェフ(神田/カレー)

野菜が醸し出す、南インドならではのコク

「北インド料理のコクが乳製品由来ならば、南インド料理のそれは、素材の味の重なり」と、オーナーシェフの斗内暢明さん。今年1月にカレー激戦区・神田に構えたレストランは、修行先だった南インドの味を生かしながらも「そのまま」過ぎないバランス感覚で、日本人から南インド人まで幅広い人気を獲得しています。

野菜とダルのカレー/チキンカレー(辛口)
季節によって入る野菜の種類が変わる「野菜とダルのカレーダル(サンバール)」980円。秋はキノコ(マッシュルーム、しいたけ、エリンギ、舞茸)がさらに旨味を添える。「チキンカレー(辛口)」980円は、ランチ人気No.1。ケララ州特有のマサラミックスを効かせた辛さがクセになる。

斗内さんが「本場が味噌汁なら、うちは豚汁」と話す「野菜とダルのカレー」は、約15種類もの野菜とキノコに豆が入った具だくさんな一品。煮込んだ根菜に豆、スパイス、調味料を合わせ、さらに素揚げした野菜を加えることで、複雑な味の多重奏=コクを生み出しています。「チキンカレー」も「実は、コクは9割がた野菜から」と斗内さん。ココナッツ、トマト、玉ねぎのベースに、たっぷりの香味野菜がゆたかな味わいをもたらします。どちらのカレーもあっさりとした口当たりながら、余韻が印象的。コクの力を実感すること間違いなしです。

斗内暢明さん
フレンチレストランと洋菓子メーカーを経て渡印後、南部ケララ州で料理学校に通いながらホテルで修行。今年1月に店舗をオープン

SPICEBOX
☎03・5577・3909
東京都千代田区内神田1・15・12第二斉木ビル1F
営11:30~14:00(13:45LO)、17:30~21:30LO日・祝定休

こく【南雲主于三さんの場合】

複雑な味わいの中で、絶妙な調和が取れていること。そこに、「うま味」の成分を加えると、さらに味わい深さ(=コク)が増す。
―――「ミクソロジーラボラトリー」ミクソロジスト(東京/ミクソロジーバー)

しなやかな発想から生まれる斬新なカクテルのコク

開口一番、「コクのあるカクテルを、というオーダーは今まで聞いたことがないですね」と切り出した、「MIXOLOGYLaboratory」オーナーで、ミクソロジストの南雲主于三さん。「液体という枠で見ると、煮込んだシチューやカレーのコクは、共通のイメージが湧きますが、カクテルでコクという表現はあまり使うことがありません。でも改めて言葉にしてみると、カクテルにおけるコクとは、“味わい深さ”ではないかと思います」。南雲さんが言う「味わい深さ」とは、甘みの中にも、ほのかに苦みが見え隠れするような複雑味があり、長い余韻を感じること。

「クリームを使ったクラシックなカクテル、アレキサンダーは、コクを感じる人もいるかもしれませんが、それでもやはり一般的なカクテルでそれを表現するのは限界がありますね」。そこで、国内屈指のミクソロジストである南雲さんが、今回、コクを感じるカクテルとして作ってくれたのが、「ガストロショコラマティーニ」です。「ミクソロジーとは、自由な発想で今までにないカクテルを作るスタイルや、カクテルそのものを指します。料理を作る感覚に近くて、今回のカクテルもチョコレートで何か新しいものをと思った時、チョコレートとフォアグラの相性の良さを思い出しました。さらにそのどちらとも合う燻製香を仕上げに付けようと。そうしてパズルのピースをピタリと当てはめるように、味の相性を組み合わせるのが、ミクソロジーなんです」。

ガストロショコラマティーニ
フォアグラの風味をつけたウォッカ、カカオ分56%の自家製ガナッシュ、クリームをシェイクし、削ったナツメグをのせ、仕上げにウイスキーの樽のチップでスモーク。フォアグラが持つ油分やうま味とチョコレートの濃厚さを、クリームがバランス良く繋ぎ、燻製香が全体を優しく包み込む。とろみがあり、口の中に広がる余韻が長く、複雑な表情のカクテルは、もはや濃醇なスープのようにも感じるほど。「カクテルでは珍しい組み合わせですが、各材料の相性はどれも抜群。新しいアプローチで作るミクソロジーは、コクが生まれやすいと思います」(1,720円)

ゆえに、禁酒法時代のNYの隠れ酒場をイメージした店内で、南雲さんは日々、最先端の技術を駆使したカクテルを研究しています。「コクって、どちらかというと、和酒の味わいにしっくりくる表現ですよね。もしかしたら、うま味を感じる日本人だからこその言葉なのかもしれません。今後、このコクにフォーカスしたカクテルを研究していくと、海外からは、日本人ミクソロジストならではのカクテルとして認識される可能性も生まれそうです」。

南雲主于三さん
日本を代表するミクソロジスト。2006年渡英。「Nobu London」に勤務後、07年帰国。「XEX東京」のヘッドバーテンダーを経て、09年に独立。「codename MIXOLOGY」東京店、赤坂店、14年には「MIXOLOGY Laboratory」を開店。ジャニス・ウォンとのコラボレーションなど、海外でも活躍。

MIXOLOGY Laboratory
☎03・6262・3946
東京都中央区八重洲1・6・1八重洲第三パークビル3F
営18:00~翌1:00日・祝定休

※こちらの記事は2016年9月20日発行『メトロミニッツ』No.167に掲載された情報です。

更新: 2018年4月19日

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