”コク”って何?#4

『コク語辞典』を引いたら。
様々な人たちの用語解釈集④

有馬邦明さん
南敏郎さん
茂手木浩司さんの場合

Photo 牧田健太郎 Text 外川ゆい、浅井直子

少し肌寒くなり、いよいよ本格的な“コク”の季節が到来しました。あの「ミルクのコク」なんて言う時の“コク”です。皆さんは、その言葉の意味を説明できますか?「コクがあってマズい」とは言いませんので、必ず「おいしい」につながることまではわかりますが、頭の中のイメージをまとめるのはなかなか難しく、これまで私たちもぼんやりしていたのです。誰でも知っている言葉なのに、調べてみる限り、どうやらきちんとした定義も確立されていないようで、解釈もきっと人それぞれ。そこで今月の特集は、“コク”に迫ってみたいと思います。様々な方に“コク観”をお聞きして、アーカイブ化。それを『コク語辞典』というカタチで展開したいと思います。

様々な人たちの用語解釈集

『コク語辞典』を引いたら。
コクとは何か?を探るためにまずは、東京で活躍される料理人・作り手の方々のコク語辞典を引いてみました。ここに登場するのは、各店のメニューの中で最もコクのある料理や飲み物です。どうぞ、コクをイメージしながら、ご覧ください。

こく【有馬邦明さんの場合】

多種類の素材を組み合わせて、じっくりと時間をかけて調理することで生まれる味の厚みの立体感のこと。
―――「パッソアパッソ」シェフ(門前仲町/イタリア料理)

余すことなく使う食材が、立体感ある味わいに

ピエモンテ、ロンバルディア、トスカーナなどで研鑽を積んだ有馬邦明シェフが腕を振う門前仲町のイタリア料理店。料理は、7皿前後で構成される10,800円のおまかせコース1本。「コクは、美味しい料理に欠かせないもの。コースの流れを考える時、それぞれの料理が持つコクのバランスを考えながら組み立てます。豊かなコクを感じる料理は、食べ終えた後も印象に残ります」と有馬シェフ。数あるメニューの中でも、コクを象徴する料理がスープだと言います。

鰯のパッサート
鮮度のいい鰯を丸ごと使用。肉厚のドライトマト、ナスや人参、じゃがいも、ポルチーニ、豆などを日本酒と水で柔らかく炊いて、すりつぶし、一日かけてとったブロードでのばしたスープ。手間を掛ける分、コクが出ている(10,800円のコースより)

「パッサート」とは“裏ごし”の意味で、食材を丸ごと柔らかく炊き、すりつぶして作るスープ「。食材を余すことなく活かせるので、無駄がありません。イタリアの気候が生んだドライトマトと日本の旬の野菜や茸、日本酒など多くの食材を合わせることで生まれる味の立体感がコクとなります」。自ら田畑に出向いて米や野菜作りを手伝うなど、食材を尊重することを信条とした有馬シェフならではの逸品です。

有馬邦明さん
1972年、大阪府生まれ。96年に渡伊し、約2年間の修業を積む。帰国後、千葉県や都内のレストランを経て、2002年に「パッソ ア パッソ」を開業。

Passo a Passo
☎03・5245・8645
東京都江東区深川2・6・1 アワーズビル 1F
営18:00~21:30LO 水定休

こく【南敏郎さんの場合】

熟成や発酵などによりもたらされる深みのある味のこと。中国料理に欠かせない調味料はコクの表現が見事である。
―――「ミモザ」シェフ(表参道/中国料理)

中国料理特有の調味料を使いこなし、一瞬にしてコクを演出する

青山の路地裏に、7月に誕生したばかりのオシャレな一軒。名店「シェフス」でシェフを務めた南俊郎さんが、待望の独立を果たしました。アラカルトのみのメニューは、その8割が現地で愛されている古典的な上海料理です。調理を始めると瞬く間に完成するものが多い南シェフの料理ですが、時間を掛けることで生まれるイメージの強いコクは、どう表現されるのでしょうか

葱油拌麺上海油そば
古くから愛される上海のローカルフード。中華鍋で万能葱と干し海老を炒め、とろりと濃厚な中国醤油を加えて葱油を作る。茹でた中太のちぢれ麺を和えれば完成。中国醤油由来のコクを感じる一品。黒酢をたっぷりと回しかけていただく(1,728円)

「『葱油拌麺』でコクを生み出しているのは、中国醤油です。中国料理で使用する調味料は、時間を掛けて発酵や熟成をしているため、加えるだけでグッと深みのある料理になります」と南シェフ。江蘇と杭州の流れをくむ上海料理は、醤油、黒酢、酒などの醸造品や、砂糖を多用した甘辛く濃厚な味付けが特徴です。「中国の調味料は、主役にはならないけれど、コクには欠かせない存在ですね」。今後は、約2カ月ごとにテーマに合わせたメニューが登場し、11月には上海蟹フェアを実施予定。

南俊郎さん
1983年、徳島県生まれ。大阪の名店「空心」を経て、新宿御苑前「シェフス」に入店。6年半のうち4年半はシェフとして腕を振う。今年7月、「ミモザ」を開店。

Mimosa
☎03・6804・6885
東京都港区南青山3・10・40 FIORA南青山2F
営18:00~23:00LO日・祝定休

こく【茂手木浩司さんの場合】

凝縮した旨みによって成立するのがコク。洋食においては、長時間に渡る煮込みやソースのベースとなる小麦粉のとろみも影響する。
―――「たいめいけん」三代目オーナーシェフ(日本橋/洋食)

かけられる時間と手間ひまが、プロのコクを生む

創業は昭和6年。歴史ある洋食店と言えば必ず名前が挙がる「たいめいけん」を現在切り盛りするのは、メディアでもおなじみの三代目シェフ、茂出木浩司さん。当然ながら幼い頃から洋食のコクには慣れ親しんできました。そんな茂出木さんが考えるコクとは、「料理の中に、凝縮した旨みがあること」。

ビーフシチュー
焦がすと苦味が出てしまうため、優しくじっくり小麦粉を炒めた「エスパニョールソース」に食材を加え、1週間煮込むことで、A4~A5ランクの山形牛の旨みや野菜の甘みを凝縮させ、ビーフシチューの基本となるデミグラスソースを作っていく。赤ワインやマデラ酒、仕上げに加えるトマトピューレでコクの1つとなる甘みもプラスし、いっそう味わい深く。(3,500円)

「僕の中では、コクと旨みはイコールです。家庭料理では出せないコクを出すことを常に心がけています」。今回、コクのある料理としてまず挙げてもらったのが、「ビーフシチュー」。「洋食でコクのある味わいと言えば、ビーフシチューなどのベースになるデミグラスソースです。牛肉のスジ、バラ、テールなどと香味野菜を毎朝7時頃からとろ火で煮込み、夜6時には火を止めてゆっくり冷ます。これを1週間続けます」。デミグラスソース作りは、片時も目が離せず、厨房では必ずスタッフが交替で張り付きます。こうして、じっくり時間をかけることで凝縮された旨みが、「たいめいけん」のコク。「煮込むことで、肉の旨み、野菜の自然な甘みが複雑なコクを作ります」

ロシア風ポタージュ
ポタージュスープにチーズをかけてオーブンで焼いて仕上げるのが「ロシア風」。ブイヨンが持つ旨みと、具材のベーコンや生クリーム、牛乳の油分がなめらかなコクを生む。(1,200円)

さて、コクが楽しめるおすすめのもう一品は、「ロシア風ポタージュ」。やはりこちらのコクも、丁寧な仕込みの時間から。鶏ガラ、牛スジ、ミルポワを8時間煮込んでブイヨン(出汁)をとっていきます。今後もこのコクは永遠に求められ続けるだろうと言う茂出木さん。「コクは手間をかけていることの証。口に含む時、無意識のうちに、煮込んだ手間ひまも一緒に食べているのです。また、日本人がコクを求める時、コクが持つ食感、“とろみ”も同時に欲していると思います。洋食の場合、食材から出るとろみと、小麦粉を炒めて作るソースのベースから出るとろみがあります。これが、具を優しく包んで、液体と固体のとろけるような一体感を生み、おいしさの余韻が続く。手間ひまが生むプレミアム感と、食感が生む幸福感。この2つがコクの魅力なのでしょうね」

茂出木浩司さん
高校卒業後、渡米。帰国後、数軒のレストラン修業を経て「たいめいけん」三代目シェフに。メディアへの出演や、レシピ本の出版、テイクアウト業態への進出など、伝統を大切にしつつチャレンジを続けている。

たいめいけん
☎03・3271・2465(代表)
東京都中央区日本橋1・12・10
営【1F】平日~土 11:00~21:00 (20:30 LO)/日祝 11:00~20:30 (20:00 LO)/定休日 年始1/1、1/2
【2F】昼の部 11:00~15:00 (14:00 LO)/ 夜の部 17:00~21:00 (20:00 LO)/日・祝定休

※こちらの記事は2016年9月20日発行『メトロミニッツ』No.167に掲載された情報です。

更新: 2018年4月19日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop