|尊敬できる鮨[1]|
世の中で愛されている”鮨の魅力”

たとえ夏の暑い日でも、銀座「すきやばし次郎」の小野二郎さんは外出時の手袋は欠かさないと言います。それは、鮨職人にとって最も大切な「手」を保護するため。手が柔らかいとシャリの硬さがちょうどいい具合になるのだと、今年で御年90歳を迎える方とは思えないような綺麗な手をされているのだとか。鮨の作り手は、料理人とは言わず「職人」です。職人とは「熟練した技術をもとにモノづくりに携わる人」のことで、自らの仕事を一途に愛し、最高の仕事のために努力を惜しまない人なのではないでしょうか。そんな職人が手をかける仕事だからこそ、私たちは尊敬し、お金を払ってでもその価値を味わいたいと願うわけで。今月は、みなさまを至高の「鮨」の世界へご案内したいと思います。まずは、四谷「すし匠」の日本が誇る鮨職人・中澤圭二さんにお話を聞きました。

鮨の魅力

写真)中澤圭二さんー中学卒業後、全国各地20軒を経て、1989年、二番町に「すし匠さわ」を開店。その後1993年に四谷「すし匠」を開く。今年5月開催のミラノ博にも参加予定。来年のハワイ進出以外にも、「飛鳥Ⅱ」のクルーズに帯同し海外の漁港を見て回るなど、世界の魚の質を上げることが日本のためになると精力的に活動している。

「中澤さんの握りが四谷で食べられなくなる!」と足繁く通う常連の間に衝撃が走ったのは、2013年のこと。全国の鮨職人から「尊敬する鮨職人」の筆頭として名前が挙がる、四谷「すし匠」店主、中澤圭二さん。「鮨屋のカウンターは人と人のコミュニケーションが何より大切」と説いた著書『鮨屋の人間力』からもうかがえるように、中澤さんの親しみやすい人柄と確かな腕を、鮨人気上昇中の海外が放っておくはずもなく。発表から3年後の来年2月には、いよいよ、日本の魚は使わず向こうの魚で勝負するハワイ(「ザ・リッツ・カールトン・レジデンスワイキキ・ビーチ」)の新店舗へ旅立ちます。名人が語る鮨の魅力、とくとご賞味あれ。

鮨には握る人の全てが表れる

「うちは赤と白があるから」と中澤さんが小さなお櫃によそってきたのは、米酢を使った白く光る酢飯と、赤酢を使ってほんのり色づいた「赤シャリ」。そもそも江戸前鮨に使われていたのは、酒粕で造られ深い味わいをもつ赤酢です。中澤さんがこの地にお店を構えた平成5年以来、「江戸前鮨とは何か?」を追究する中で辿り着いたのが、鮨ダネに合わせた2種類の酢飯の使い分け。それは、中澤さんが江戸前鮨の魅力に取りつかれた、ということの表れとも言えます。「流通や冷蔵技術が今のように発達していない江戸時代に、魚を保存するための工夫が、江戸前鮨で言う"仕事"。では、技術が発達した平成の時代の江戸前鮨とは何か?を突き詰めて出た答えが、保存のためではなく、酢飯に合うように魚を"作る"こと、"手当てする"こと。そして"一個体の鮨として完成していること"なんです」。ご自身の江戸前鮨を、「平成江戸前鮨」と呼ぶ中澤さん。「例えば、このカウンターのケースに入った小鰭をちょっとつまみにちょうだいと言われても、私は絶対に出しません」と、確固たる平成江戸前鮨論は続きます。「なぜなら酢飯に合うように寝かせて、赤酢と合わせて初めて美味しさが出るように、小鰭を"作って"いるからです。たい焼きをあんこだけ食べないでしょ(笑)?同じように、1つの鮨として食べる際、酢飯は赤か白か、魚を食べ頃まで寝かせて酢飯に合うようどんな"手当て"をするか、薬味は和がらしなのかわさびなのか、それらをどう組み合わせていくかなどを考える、鮨職人としての醍醐味はそんなところにあると感じています」。茶目っ気のある例えを交えつつ、握りが始まるとすっと集中力を高める中澤さん。空気を丸めるかのような柔らかな手つきで、心底愛おしそうにふわりふわりと握っていきます。これが当代きっての名人技…と見惚れていると、「でもね、鮨職人は技の前に、素材の魚と目の前のお客さんにどれだけ愛情を込められるかが大切なんです。だから私の考える江戸前鮨は、その1貫が美味しければいいではなくて、お客さんが楽しく食べられるよう、雰囲気も整えることが同じくらい大事。カウンターの中で仕事をする"さらし"の商売ですから、人間同士の会話や気持ちのキャッチボールで成り立っているんですよね」自らを「24時間鮨のことを考えている鮨バカ」と笑う中澤さんは、お客として他店に足を運ぶこともしばしば。職人からお客側の視点にスイッチした際の鮨の魅力を伺うと、「鮨を食べに行くことは、その人間を食べに行くことだと思います。鮨に全て人間が出るんですよね。それが面白くて怖いところ。結局、人が好きなんでしょうね(笑)」。14席程の店内で抱えるスタッフは10人(!)。中澤さんの下を巣立って活躍中のお弟子さんは数知れず。確かに、人間が好きじゃなきゃ、とてもできません。鮨に魅せられた人は、人間に魅せられた人でもあったのです。

中澤さんが考える鮨を楽しむための心得

【1】進化した江戸前鮨の「仕事」に注目!
江戸時代、保存のために施していた「仕事」が、昭和50年代辺りから始まった鮨ダネの新鮮さを競う「海鮮寿司」の時代を経て、平成に入ってからは特に鮨ダネの特性をより引き出す「仕事」へ進化。赤酢使いにも注目。

【2】鮨屋にも、「グランメゾン」から「ビストロ」まである!
鮨としっかり向き合うなら「グランメゾン」、ちょっと贅沢したいなら「プチメゾン」、気軽に行ける町場の鮨屋は「ビストロ」と、食べる状況に合わせた店を見極めることが鮨屋で心地良く過ごせるポイント。

【3】結局、大切なのは人と人とのコミュニケーション!
グランメゾン的な鮨屋だから…と臆することなかれ。大切なのは、友だちや恋人に会うのと同じく相手に向き合おうとする気持ち。わからないことを聞くのもコミュニケーションの1つ。あとはとにかく場数を踏むこと!

江戸前鮨を追究した結果、鮨ダネによって赤酢と米酢の酢飯使い分けに至った中澤さん。酢牡蠣や春の訪れを告げる春子(共に写真下段左)など、繊細な味わいの鮨ダネには米酢を、鮪のづけや煮小柱(共に写真上段中央)など、熟成させたものやしっかりした味わいの鮨ダネには「赤シャリ」を合わせる。握りと握りの合間に気の利いたつまみが出るのも「すし匠」スタイル。青森の郷土料理「いちご煮」に倣った「いちご蒸し」(写真下段右)は、「青森のウニは少し火を入れた方がおいしい」と同じく青森のエゾアワビとともに蒸し物に

中澤圭二

鮨職人 中澤圭二

職人としての技術や知識だけでなく、その人間性から多くの鮨職人から尊敬を集める「すし匠」の主人。

すし匠すししょう

営18:00~22:30LO 日・祝日の月定休 ※おまかせのみ、おひとり20,000円~

すし匠

住所:
東京都新宿区四谷1・11
陽臨堂ビル
TEL:
03・3351・6387
営業時間:
[月・水・金] 11:30~13:30 18:00~22:30(L.O) [火・木・土] 18:00~22:30(L.O)

※こちらの記事は2015年2月20日発行『メトロミニッツ』No.148掲載された情報です。

更新: 2016年10月13日

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