ワインとシャルキュトリ#1

-INTRODUCTION-

シャルキュトリの予備知識

皆さん、今年もまもなくボジョレ・ヌーボの季節がやってきますね(11月17日解禁)。で、今月号の特集は、この秋はワインとともにシャルキュトリを楽しんでみませんか?というご提案です。「シャルキュトリ」(charcuterie)とは、chair(肉)+cuite(火を入れる)が語源のフランス語。ハム、ソーセージ、パテ、テリーヌ、リエットなど、主に豚肉を使用した食肉加工品のことです。本場フランスではワイン同様に、チーズとシャルキュトリにも“テロワール”があるとされ、地方ごとに個性が異なる、代々受け継がれてきた味があります。それは知るほどに面白く、味わうほどに奥深い世界のはずですが、日本ではワインやチーズに比べて手に入る種類もそう多くなく、お店もまだまだ少ないと思いませんか?と言いながらも、実は最近、こだわりのシャルキュトリを自家製している店が増えていて、東京にも東京ならではのシャルキュトリ文化が芽吹きつつあるのでは?と感じていたりもしています。この秋は、「ワインとシャルキュトリ」を始めてみませんか?

シャルキュトリ-起源と本場-

約200年間にわたり安定と繁栄を享受した古代ローマ帝国は、全盛期にはイタリア・ローマを中心に地中海全域、北はイギリスから現在の中東やアフリカ大陸にまで領土を広げました。その長く続いた平和の中で、ハムやソーセージは庶民の暮らしに欠かせないご馳走だったようです。

ヨーロッパでは、紀元前2500年頃の新石器時代より豚を飼育してきました。豚は雑食で、残飯でも食べてくれる上に、子を1頭ずつ増やす牛や羊とは違って多産。さらに6〜10カ月で食肉にできるという生産効率の良さ。そこで、特に農業資源の少ない北西ヨーロッパで、春に生まれた豚を秋から冬の初めに肉に変え、その大半を翌年の秋まで貯蔵するというサイクルが生まれました。肉を塩漬け、乾燥させたり、燻製すると長期保存が可能になることは、かなり早期の段階で発見されていたようです。

そして、古代ローマ時代には、ハムやソーセージの技術が発達。町の食肉店ではハムやソーセージが売られ、毎年のお祭りではご馳走として振る舞われ、「贅沢だ」ということでお祭りとハム・ソーセージ禁止令が出てもなお(4世紀中頃、コンスタンティヌス帝の頃)、人々は密造しながら食べ続けたと言います。このローマ時代に、最も有名だったのが「ゴールのハム」。そのゴールとはガリアのことで、フランスという国が生まれる前のその地の呼び名です。やがてローマ帝国が滅びると、ハムやソーセージの文化はヨーロッパ各地でそれぞれ育ち始めます。中世になると東方貿易によってヨーロッパに香辛料がもたらされ、それまで味気なかったハムやソーセージがさらに美味しく進化をすることに。ルネサンス期を迎え、上流階級の美食のステージでも活躍する中で、今のハムやソーセージの原型が確立されていきます。

ハム・ソーセージ -言葉の整理-

私たちがいつも使っている「ハム」(ham)や「ソーセージ」(sausage)という言葉は、英語です。でも、ハムもソーセージも、フランス、イタリア、スペイン、ドイツなど、各国にある食文化で、国によって当然言葉が変わってきます。それらを簡単に一度整理してみましょう。

フランスの基準-分類と種類-

フランスで1969年に発行された「シャルキュトリ規定書」では、シャルキュトリには約450種類があり、製法によって16種類に分類されています。以後、時代や規制の変化によって何度か改訂を繰り返しながらも、いまだ、フランスではこれがシャルキュトリ製造の指針となっているそう。

シャルキュトリの16分類~フランスの場合~

・カットされた生肉/ローストポーク、豚肩甲骨肉の塩漬け、豚腕肉のハムなど
・乾燥肉/ジャンボン・セック(豚もも肉のハム)、コッパ(豚背肉のハム)など
・加熱肉/ジャレ・キュイ(すね肉のロースト)、コンフィ・ド・ポー(豚肉のコンフィ)など
・生もしくは加熱したソーセージ類/ソーシス(ソーセージ)、ソシソン(大ソーセージ)など
・乾燥タイプのソーセージ類/ソーシス・セッシュ(ドライタイプのサラミ)、フュゾ(大腸を使うサラミ)など
・加熱タイプのソーセージ類
・パテやテリーヌ類
・リエット類
・頭部を使った製品/フロマージュ・ド・テット(豚の頬肉やタン、耳などを用いたテリーヌ)など
・内臓の腸詰類/アンドゥイユ(豚の腸などを入れた腸詰め)、アンドゥイエットなど
・トリップ(牛、羊などの胃腸)や豚足を使った製品
・ブーダン・ノワール類(豚の血と脂身の腸詰)
・ブーダン・ブラン類(鶏や仔牛に卵、クリームを入れた腸詰)、クネル(鶏や魚肉に小麦、卵黄などを加えた練り物)
・牛肉製品/コンビーフなど
・フォアグラとフォアグラをベースに使った製品
・その他/ハーブ入りソーセージ、シュークルートのソーセージ添えなど

\下の写真は、パテとテリーヌ、どっち?/

近頃、どのビストロに行っても大抵目にするメニュー「パテ」。しかし、パテとは一体何でしょうか?本来、パテは肉類をミンチ状にしたものを“パイ生地”で包んで焼く料理のこと。でも、最近はパイで包まないものが多いので、テリーヌとの区別がつかないことも…。テリーヌは、ミンチ状にした材料を“テリーヌ型(”四角い形をした専用の器)に詰めて作ったもの。つまり、パテをテリーヌ型に入れて作ったら「テリーヌ」になるのでしょう(?)

ワインとシャルキュトリ-日本の時代-

ロースハム、ボンレスハム、ウィンナーソーセージなど、日本のハムやソーセージは、常に「食材」として食卓で活躍してきました。だから、ワインと楽しむシャルキュトリとは、ひと味違う文化と言えます。ここでは日本のハム・ソーセージの歩みをチーズとともに考察してみます。

1883(明治16)年にはわずか4gだった日本人1人当たりの年間豚肉消費量は、1897年(明治30)年には122gに達します。その背景には洋食や中華料理の普及があるようで、それに伴いハムやソーセージの生産量も急増します。そんな日本のハム・ソーセージはと言えば、例えば江戸時代初期、長崎では中国人が持ち込んだ豚でオランダ人たちが作っていたとか、1874(明治7)年、横浜の外国人居留地に住んでいたイギリス人のウィリアム・カーティスが外国人向けに製造・販売を始めたとか、1918(大正7)年に終戦した第一次世界大戦後、習志野の収容所捕虜の中にいたドイツ人のハム・ソーセージ技術者たちにより、その製法が日本中に伝わっていったなどの記録を見つけることができますが、いずれにせよフランスのシャルキュトリと決定的に違うことは、洋食や中華料理の〝食材〞として存在してきたことではないでしょうか。

しかし、おそらく似たような境遇にあったであろうチーズは…?ワインの輸入が自由化した1970年以降、日本では度重なるワインブームが起こりますが、80年代後半〜90年頃のバブル期には高級志向、ボジョレ・ヌーボがブームに。そんな、90年頃からチーズにも新時代が到来します。それまではプロセスチーズが主流だった中、ナチュラルチーズの需要が急上昇したのです。その当時、時代は「イタめし」ブームで、ピッツァの人気が高まり、ナポリのモッツァレラチーズが注目され、プロシュート(生ハム)という言葉も根付き始めた頃。専門店ができて本場の様々な味が楽しめるようになり、近年では良質な「国産」もたくさん手に入るようになったチーズに対して、シャルキュトリの時代はきっとこれから、です。今、本場のシャルキュトリを日本でも伝えたいと言うフランス人シェフがいますし、海外で出合ったシャルキュトリを自家製するシェフもいます。東京でも「ワインとシャルキュトリの時代」がまもなく始まる気配です。

※こちらの記事は2016年10月20日発行『メトロミニッツ』No.168に掲載された情報です。

更新: 2018年3月13日

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