ビストロの現在地 #9

東京のビストロ

Le Monde Gourmand
[自由が丘]

Photo 井上美野 Text 浅井直子

今、東京にもビストロは無数に存在します。しかし、時代ごとに人々の心を満たしてきた、フランスのビストロが抱く“エスプリ”を知っている店となると、おそらく限られています。しかし、これよりご紹介するのはフランスで料理を学び、本場の文化を経験したことがあるシェフが手がける、東京のビストロです。それぞれがフランスのエスプリを独自の目線で店に込め、東京らしいビストロに育て上げています。

食材のメリハリを工夫することでビストロをもっと日常に

オーナーシェフの嘉藤貴士さんは、「タテルヨシノ」の吉野建さんからの信頼も厚く、「ステラマリスパリ」でもシェフを務めたほどの実力派。そんな嘉藤さんが2015年10月、自由が丘にオープンした「ルモンドグルマン」は、料理への思いはガストロノミーにいた時と同じ、でも敷居は低く。ご近所さんから愛されるお店です。

まずは、左の写真にご注目。ハッとするほど潔い1皿に上る主な食材は、和牛ほほ肉とジャガイモ、この2つのみ。ビストロの定番メニュー、「和牛ほほ肉の赤ワイン煮込み」です。嘉藤さんが、今も思い出すのが、最も長く師事した吉野建シェフの「皿に余計なものをのせるな。主食材と付け合せとソースがあればいい」という言葉。

このビストロ料理にも、その教えが生きています。「例えば、この煮込みなら、つい、飾りでハーブを添えたくなりますが、牛ほほ肉にとって余分な味わいならぐっと我慢。食材の良さを最大限に引き出す姿勢は、高級店でもビストロでも変わりません」。

だから、食材そのものが主役になる場合は、とことん質を追求。「その分、ガストロノミーでトリュフを使う部分を、トリュフオイルに置き替えたり、フォアグラも、それ自体が主役でなければ冷凍を使ったりして、価格を調整しています」。そうまでして、お財布への優しさを貫くのは、「ビストロを日常に」という考えが、嘉藤さんの土台にあるからです。

「目指すのは、ご近所の中華料理屋さんのような、気軽に人が集まる存在。住宅街を抱えた自由が丘に店を構えたのも、そんな思いが基本にあります。お1人でふらりとワイン1杯と1皿でも、ご家族で賑やかにでも、お客さんの暮らしの中で利用してもらえることが嬉しい」。ああ、その嬉しさはこちらも同じ。なぜなら、私たちが待ち望んでいたのも、まさにそんなお店なのですから。

「フランスの牛と違い、和牛がしっとり仕上がると気付いたのは、向こうでの経験のおかげ」という斎藤さん。約3時間半かけて煮込んだ肉は、口の中で上質なゼラチン質がとろけ出す。和牛ほほ肉の赤ワイン煮込み1,944円

左/アジのマリネとポロねぎのヴィネグレット1,026円。ビストロの定番食材、ポロねぎが主役の料理。柔らかく茹でたポロねぎの甘みに、ヴィネグレットソースの酸と、鮮度の良いアジのマリネが持つ塩気がアクセント右/カウンター席の他に、テーブル席(14名)も。グラスワインは、白3種類、赤3種類、他に、泡、ロゼが揃う

|CHEF| 嘉藤貴士さん -Takashi Kato-

1973年、兵庫県生まれ。「タイユバン・ロブション」などを経て渡仏。南仏とパリで修業し、帰国後、2008年「タテルヨシノ銀座」オープニングシェフ就任。11年再渡仏。「ステラマリスパリ」のシェフに。帰国後、13年「タブローズ」に務めた後、15年に現店オープン。

ルモンド グルマン

☎03・5726・8657 東京都目黒区緑が丘2・17・15
11:30~13:30LO、18:00~21:00LO 月(祝日の場合は営業、翌火曜休み)、第2、4火定休

更新: 2017年5月22日

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