|地中海料理という、暮らし方。[1]|

マリーノ・ニオラ先生に訊く!
地中海料理とは?ー第1部ー

日本の食卓は、とても豊かです。特に東京は、世界各国の料理店が集まっていますし、デパ地下に行けば、高級惣菜からコロッケまで何でも簡単に買うことができます。しかし、昨日食べた食事を思い出してみてください。料理に季節を感じましたか?素材本来の味は楽しめましたか?そして、誰かと共に食卓を囲み、その人と同じ料理を食べ、1つの時間を共有しましたか?
ということで、飽食の時代と言われて久しい昨今、そろそろ物質的な満足度より本質的な豊かさを求めている皆さんを地中海の旅へとお連れしたいと思います。ただ残念なことに、リゾート気分は全く味わっていただけません。とはいえ、少し素敵なことに、生活習慣病知らずの心と体を手に入れていただけるヒントが見つかるかもしれません。これは、2010年、無形文化遺産に登録された「地中海料理」の背景をじっくりと学んでいただける特集です!

写真は、世界有数の景勝地・ギリシャのサントリーニ島。大勢いる人々はエーゲ海に沈む美しい夕日がお目当てで集っています。しかし、この険しい傾斜地に町を切り開いた先人たちの苦労は並大抵のものではなかったでしょう。人々は激しい風にさらされ、乾燥したこの土地に独自の工夫をしながらブドウの木を育て、良質なワインを生産してきました。

【第1章】マリーノ・ニオラ先生に訊く!地中海料理とは?

>>>What's Mediterranean Diet?<<<
地中海料理とは決して“料理”のことではありません。それは、本特集の核となる部分でもあります。そのイメージをつかんでいただきたく、まずは本場イタリアの地中料理調査センター会長、マリーノ・ニオラ先生のお話にどうぞ耳を傾けてください。

【第1部】ー地中海料理の暮らし方ー

2010年、「地中海料理」はユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。登録の際、中心となって活動を起こしたのは地中海沿岸の4つの国(イタリア、スペイン、ギリシャ、モロッコ)の4つの街。ユネスコの専門用語で言えば「コムニタ・エンブレマティカ」(ComunitaEmblematica)、すなわち「象徴的共同体」です。

その4つの街とは、1つ目はイタリアのナポリの南方、のチレント地方にあるポッリカ。次はスペインの北部の街、ソリア。ソリアはあらゆる文化と経済的交易の中継地として成長した街で、内陸部にありながらも地中海文化を色濃く残しています。そして、ギリシャ南部のペロポネソス半島の先端、メッシニア県のコロニ。

最後にモロッコ北西部にあるシャフシャウエン。ここは家の壁や路地が美しい青色で彩られ、「青い宝石箱」と称される美しい街です。これら4つの街が立ち上がり、イタリア、スペイン、ギリシャ、モロッコなどの国々に共通している「地中海料理」は世界無形文化遺産となることができました。地中海料理が"各国に共通している"という意味は、食事の面で見れば、毎日欠かさず食べているものが同じということ。

どの国も「オリーブオイル」、「穀類」(小麦)、モロッコ以外の国は「ワイン」が日々の暮らしの中で欠かせません。加えて、野菜、イワシやサバなどの青魚(これは非常に重要ですよ)、無漂白のパンなどをよく食べます。しかし、「地中海料理」とは料理のことを指しているのではありません。

「地中海料理」の定義を言えば、それはライフスタイルであり、食べ方の流儀です。食べ方の流儀というのは、「旬を大切にする」、「粗食である」、「共に食事をする」の3点に集約されます。これらが「地中海料理」という暮らし方の骨格を成すもので、1点でも欠けていれば成立しません。

私たちは「地中海料理」の"料理"の部分を説明する時は、よく音楽に例えてお話しします。イタリアとモロッコでは料理に違いがあるのは当然ですが、それは同じ楽譜を奏でるにしても奏者によって、編曲や異なった表現になることに似ているのです。地中海地域には共通する食材が多くありながらも、異なる料理を食べています。

例えば、モロッコの場合はクスクス。硬質小麦でクスクスを作り、野菜や豆、時には魚や肉を使いますが、ベースは穀類、野菜、豆、そしてオリーブオイルです。スペインなら、やはりパエリアでしょう。穀類(米)と少量の魚、野菜、オリーブオイルを使いますね。ギリシャは、ギリシャサラダ。タマネギ、トマト、オリーブの実などの野菜類にヤギ乳のフェタチーズを加え、オリーブオイルをかけたサラダで、パンとともに食べます。

このように地中海料理では、オリーブオイル、穀類(小麦)は食事の基本で、あとは土地ごとの季節の食材がふんだんに用いられるのです。

また、定番の郷土料理というのももちろんありますが、同じ料理でも地域によってタマネギがニンニクに変わったりしますし、と違わない地域でも、全く違ったレシピになっていたりする場合もあります。もっと言えば、個人の好みでレシピを発明しても「地中海料理」はなり得ます。

マイナーチェンジを重ね、最終的には味も違った風になっていても「こうしなければならない」というものではなく、個人の裁量があって良いわけです。イタリアのチレント地方なら、青魚料理にはもの異なるレシピが存在しますが、昔は「チレントの女性は種類の青魚のレシピを知ってないといけない」と言われたものです。

その他に、地中海料理は"香り高い"という点も共通しています。ナポリではバジリコやオレガノを多用しますが、地域ごと、さらには料理ごとに異なるハーブが使われていると言っても過言ではありません。なお、ハーブは香りが良いので、塩分を減らせるという利点もあります。

ところで最近、炭水化物、特にパスタやピッツァなどの漂白した小麦を摂るのは健康の面から避けた方が良いということをよく耳にします。しかし、地中海地域に暮らす人々はパスタやパンを毎日食べますが、健康的で、長寿だとよく聞きませんか?炭水化物を避けるという風潮はちょっと行き過ぎ…というか、白い小麦粉で作られたパスタやピッツァを食べても、他に野菜やフルーツを食べると繊維質もしっかり摂取できるでしょう。

だから、パスタやピッツァを避けるのは、誤解を承知で言わせてもらうと、ちょっと愚かだと。また、科学の面からも信憑性を欠いています。と言うのも、様々な研究がされていて、FAO(国際連合食糧農業機関)は、パスタやピッツァはバランスの取れた食べ物だと評価しています。確かに、パスタを食べた後にハンバーグを食べて、また何かを食べたら太りますが、それはパスタのせいではありません。

もしくは大量のチーズであふれたピッツァをアメリカ人のようにたらふく食べて体を壊したとしても、それはピッツァのせいではない。大事なのは、食べる量を知ることです。ここで??つ、ぜひご紹介したい料理があります。イタリア名物の「パスタ・エ・レグーミ」です。

それは、インゲン豆やヒヨコ豆、またはレンズ豆などと一緒にパスタを煮込む農民料理で、この料理の利点はパスタを食べすぎないということ。豆が満腹感をもたらし、さらに良質のタンパク質やミネラル、豊富な食物繊維を摂取することができます。先ほどの話で言えば、漂白した小麦のパスタを食べたとしても、食物繊維は豆から摂ることができますね。

このパスタ・エ・レグーミは、イタリア全土で食べられているメジャーなパスタ料理ですが、実は、地中海地域である南部と中部・北部では大きく異なる点があるのです。南部のものは、動物性タンパク質を一切使いません。中部・北部では最初に料理のベースを作る時、パンチェッタ(ベーコン)の油分を使いますが、南イタリアではオリーブオイルになるのです。

動物性脂肪を摂ると人間の体の細胞を酸化させるフリーラジカルが増殖し、心筋梗塞などの心血管性疾患のリスクが上がるもの。地中海料理のエリアである南部の方が、より健康的にパスタ・エ・レグーミを食べていると言えます。

他に地中海料理の特徴と言えば、調理時間が短いということもあります。材料も少なくシンプルで、例えばトマトソースとバジルのスパゲティの材料は、スパゲティ、トマト、バジル、オリーブオイルのみ。調理時間は、およそ15分以内です。パスタを茹でるための水を用意している間に、ソースを作り、15分後には、もうテーブルについて食事ができるという具合です。

地中海料理には「長時間、コトコト煮込む」という調理法はごく稀で、お祭りの時のお祝いの料理など、年に数回あるだけ。長時間煮込むのは、イタリアでは北部の料理。北イタリアの中でも、とりわけ海から遠いロンバルディア州やピエモンテ州などで、フランスやドイツの料理の影響を受けた、長時間煮込む料理が多く見られます。

現在、7カ国が登録!世界遺産になった「地中海料理」

The Mediterranean Sea

2010年、ユネスコの世界無形文化遺産に地中海料理の国として登録されたのは、イタリア、スペイン、ギリ シャ、モロッコ。加えて、2013年にはクロアチア、ポルトガル、キプロスの3カ国も登録されました。ここで、下の地図をご覧ください。そう、ポルトガルは地中海に面していないのです。しかし典型的な地中海性気候であり、暮らしぶりも近隣の国々との共通点が多く見られます。何せ「地中海料理」とは“ライフスタイル”ですので、そのことをどうぞお忘れなく。

スペイン/ギリシャ/モロッコ/イタリア

なぜ”ライフスタイル”なのか?「地中海料理」の定義

上のインタビュー中で、ニオラ先生は地中海料理の定義を“ライフスタイルであり食べ方の流儀”であり、「旬を大切にする」「粗食である」「共に食べる」とおっしゃいました。ユネスコの定義で言えば、「穀類、魚類、その保全・加工・消費に関わる風景から食事に至る技術、知識、習慣及び伝統に基づく社会的慣習。魚介類、穀類、乳製品、野菜、果物類等をバランス良くとり、油脂分は肉類を少量、オリーブオイルを中心として摂取するもの。本料理には、コミュニティの健康、生活の質、より良い生活に資するもので、適量のワインを交えながら、ゆっくりとコミュニケーションする食事スタイルを含む」。その土地の風景を想起させるほど自然の恵みをシンプルに生かした料理、季節のサイクルに敬意を払い、天然資源の持続可能な管理をしている人々の営み、1,000年にわたって受け継がれてきた「我々は食べるためではなく、共に食べる時間のためにテーブルにつく」というような日常生活の側面などを含めて「地中海料理」と呼べるのです。

Interview:粉川妙
Text:メトロミニッツ編集部

※こちらの記事は2015年5月20日発行『メトロミニッツ』No.151に掲載された情報です。

更新: 2016年10月12日

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