|異彩のビストロ[1]|

その進化の裏側を追いかけてみた!!
【ビストロ概論】第1章
「ネオ・ビストロとはなんだ?」

イメージは、ウッディな店内で、赤いギンガムチェックのテーブルクロスや手書きの黒板メニューがある店…?ビストロとは何でしょう?しかも、今、パリでも東京でも“ネオ化”が進行中だそうで、「ビストロ」について、フランスの事情から東京の歩みまでいろいろ探ってみます。

フランスの『フーディング』に訊いた「ビストロ」と「ネオ・ビストロ」の関係値

発祥は、恐らく19世紀初頭。「ビストロ」はいつの時代も人々の暮らしに寄り添いながら、約150年以上もの間、フランス中のそれぞれの街角に息づいてきました。

それは、ワインを楽しみながら賑やかに会話が楽しめるという点では”居酒屋”、前菜、メイン、デザートの順に、1人ずつフルポーションで料理をいただくのが基本スタイルである点では"小レストラン"庶民的で日常的な食事の場であるという点では”食堂”とも言えるのかもしれませんが、「ビストロ」を日本語で言い替えようにも、どうも一言ではぴたりと合う言葉が見つかりません。つまり、"ビストロはビストロ"なわけですが、そもそもはっきりとした定義も決まっていないよう。ただ多くの場合、「家庭的もしくは地方色豊かな料理を手頃な価格で提供し、コーヒーからワインまで楽しめる。店内にはカウンターがあり、カジュアルな雰囲気で活気がある」というような店のことで、"日常的に使える"や、店主とお客、お客同士など"人と人との距離が近い"ことなども大事なポイントです。しかし、これまで特に大きな進化を望むでもなかったビストロたちに、最近、"ネオ化"した仲間(もしくはライバル)が増えています。パリに新しい店がオープンするという情報が入る度に、また"ネオ"だったりする状況で。まずはそんな新潮流「ネオ・ビストロ」とは何か?を探ってみたいと思います。

「ネオ・ビストロ」とは何か?
「フランスでは、もはや『ネオ・ビストロ』はクラシカルなビストロとは別の、飲食店の1業態としてすっかり定着しています」。そう話すのは『フーディング』の創始者の1人で、フードジャーナリストのジュリア・サミュさん。ここからは、ジュリアさんに「ネオ・ビストロ」について話をお訊きしたいと思います。ところで「ネオ・ビストロ」という冠を擁した店は、近頃、東京でもぽつりぽつりと見かけるようになりました。日本では一般的に、ネオ・ビストロとは「サービスも内装も値段も気さくなのに、実は一流フランス料理店で腕を磨いてきたシェフが手がける店で、レベルの高い料理を提供するビストロのこと」と言われていますが、フランスでもそうなのでしょうか?

「私たちは、ネオ・ビストロとは〝ビストロノミーな料理が食べられるビストロのこと"と言っています。それは、"シェフのアイデンティティが感じられる料理を提供するビストロ"という意味で捉えてもらっても良いかもしれません。ネオ・ビストロという言葉が使われるようになったのは、今から10年以上も前のことです。その頃、長く美食の頂点に立っていたガストロノミー的な記号に対し、もう時代遅れだと感じる人々がたくさん現れました。ガストロノミー的な記号というのは、例えば、堅苦しいサービス、白いテーブルクロス、純銀製のカトラリーなど。そんな時、街を見渡してみれば、ビストロの記号(リラックスできるサービス、テーブルクロスを使わない、お財布に優しいことなど)はそのまま生かしながら、現代的で、エッジの効いた個性的な料理を出す店『ネオ・ビストロ』が増えていたのです」

昔から、ビストロのメニューというのは、大抵どの店でも伝統的な定番料理(ビストロ料理)が揃っているもの。しかし、ネオ・ビストロの料理は、基本的には誰もがよく知るビストロ料理でありながらも、高度な調理技術とシェフの感性を駆使しながら作られた"自分流のビストロ料理"だと、ジュリアさんは言います。伝統料理なのに、モダンで軽くなっていたり、別のフレーバーが加わっていたり、その料理のルーツをたどりつつ、新しい解釈で作られていたり…というように。この状況をあえて例えてみれば、日本のお蕎麦屋さんとはどの店でも定番料理(蕎麦)を扱っていて、老舗もあれば新店もある中から、私たちはどの店に食べに行こうかな?と選びます。しかし、それとは別に、新たに〝自分流蕎麦"を扱うネオ・蕎麦屋という業態が出現した、という状況でしょうか。

「ちなみに『ビストロノミー』とは、2004年、フーディングのミーティング中にジャーナリストのセバスチャン・ドゥモランが言い始めた言葉で、その意味は『ビストロ的なガストロノミー』。それは、先に挙げたように、ビストロの記号を持ちながら、独創性豊かに美食を提供する店にある学問(アイデンティティー)です」。

高級レストランの「ガストロノミー」に対する言葉として、フーディングが生み出したネオ・ビストロの「ビストロノミー」も、近年、日本でもよく耳にするようになりました。
「ネオ・ビストロが生まれた理由は、時代がそれを求めたから。安くてもテロワールの表現がしっかりと伝わる正直なワインを揃え、トレーサビリティーを大切にした食材を使い、お客に安くて美味しいものを提供するために料理と向き合うシェフがいる、そんな店だからこそ皆がそこに行くべき価値を感じているのです」。ネオ・ビストロは、日々、本質的に美味しいものを食べることの大切さに気づかせてくれる発信地でもあるのかもしれません。

『フーディング』(FOODING)とは?

Food(食)+Feeling(感覚)=FOODING 1999年、フードジャーナリストのアレクサンドル・カマスが立ち上げた活動であり、独自のカテゴリ分けで紹介するレストランガイド(雑誌とWEBサイト)の名称でもある。フランスのみならず、アメリカ、イタリアなどでも大きな食のイベントを開催している。

Text:野中ゆみ(メトロミニッツ編集部)
coordinate:勅使瓦加奈子(CREMA)

※こちらの記事は2015年8月20日発行『メトロミニッツ』No.154掲載された情報です。

更新: 2016年10月5日

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