日本の中華料理 # 12

東京の中華料理店

雲を起こし、雨を操る水の神・龍。風を司る、平和の象徴・鳳凰。気高く縁起の良いこの神獣たちは、日本では、お皿に、店内の装飾に目にする〞中華料理店の象徴〞…というイメージもあるのではないでしょうか。今、東京の中華料理店は、昔ながらの名店、本場さながらの店、洗練されたカウンター中華など、多様化しているのが面白い。ここでは2人の敏腕ライターが龍、鳳凰に扮し、それぞれのテーマの下で、今、最も足を運ぶべき東京の中華料理店をナビゲートします。

NAVIGATOR

『風の中華』~東京に新しい風を吹かせる、精鋭揃いの個性派~
NAVIGATOR 小松めぐみ/MEGUMI KOMATSU
東京都出身。フードライター、エディター。10代で料理に目覚め、様々なジャンルを食べ歩く。現在は主に雑誌で飲食関連の記事を執筆、編集。「週刊新潮」と「CREAWEB」で連載中。和洋の甘味からお酒、お茶まで、あらゆる嗜好品をこよなく愛好。

『水の中華』~水のように心を落ち着かせる、揺るぎない実力派~
NAVIGATOR 永浜敬子/KEIKO NAGAHAMA
京都府出身。料理、食文化の執筆多数。 全国の郷土料理&ソウルフードを紹介した47都道府県のお国自慢グルメ「食わせろ!県民メシ」(講談社)、「東京出張」(京阪神エルマガジン社)など、ご当地料理に造詣が深い。

風・〇三 [神楽坂] ENGINE

「エンジン」Tel 03・6265・0336 東京都新宿区神楽坂5・43・2ROJI神楽坂1F
 11:30~14:00 LO(月、水~土のみ)、18:00~22:00 LO 日・祝定休。ランチ1,100円~、ディナーコース5,400円~。

日本の旬の素材を 中華料理に変換

赤坂の人気店「うずまき」(左ページでご紹介)でオープンから7年間料理長を務めた松下和昌シェフが、2015年2月1日にオープンしたお店。神楽坂の石畳の路地に面した入口から中に入ると、オープンキッチンのカウンターが割烹のような雰囲気を醸し出す、隠れ家のような空間が現れます。

店内の雰囲気同様、料理も日本的な要素が濃厚。

蒸し鶏にミョウガのソースを添えたり、春巻の具に鮎を使うなど、メニューには日本の旬の食材が満載です。と言うのも、「日本にいるからには季節感を表現したい」と言うのが、松下さんの思い。そのため、壁の黒板に書かれたお品書きには「初ガツオのタタキ」や「炙り〆サバ山椒ソース」など、まるで和食のようなメニューも並んでいます。と言っても、基本は中華。たとえば初ガツオのタタキに添えられたソースは、四川料理の「よだれ鶏」のタレをアレンジしたもので、辣油、豆板醤、豆豉、長葱、ニンニク、ショウガ、カシューナッツなどが使われているのだとか。炙り〆サバのソースの山椒も、実は日本の山椒ではなく、華やかな香りが魅力的な中国山椒「花椒」です。
メニューはアラカルトの他、前菜からデザートまでの7品から成る5,400円と7,560円のコースが2種類。さりげなく和の食材が使われているのが特徴で、たとえば「ピータン豆腐」を変形させた前菜「ピータン湯葉」の隠し味は、金山寺味噌。「湯葉は豆腐より味が濃いので、ピータンにも味を足そうと思って選んだのが金山寺味噌。発酵食品同士なので、ピータンと相性がいいんです」
メインの定番「黒酢の酢豚」は、初夏には徳島産のフルーツトマト、真夏には青ナスなど、旬の野菜を取り合わせるのが特徴。タレは黒酢に日本のお酢を加えることで酸味を立たせているため、濃厚そうな見た目に反して、意外にさっぱり。お皿に余ったタレを別添えのおこげにかけて味わえば、1皿で二度美味しく、満足感もひとしおです。

写真左 徳島産の旬のフルーツトマトを使った「黒酢の 酢豚」2,052円。別添えのおこげに余ったタレを絡めて。
写真右 壁際のテーブル席は落ち着いた雰囲気。オープンキッチン前のカウンター席も人気。

水・〇三 [赤坂] うずまき

「うずまき」東京都港区赤坂5・5・11赤坂通り50番ビルB1F  Tel 03・3584・2116 18:00~20:30LO 日・祝定休。
要予約 8品8,640円のコース、11品10,800円のコースのみ。

古き良き和の素材を用い 独創的な中華料理を創造

食べ手の想像を鮮やかに覆し、意表を突く料理。食べている途中で「あれ? これは中華料理だったはずなのに」と戸惑うことも少なくない柳沼哲哉シェフの中華料理。赤坂「メゾン・ド・ユーロン」でモダンチャイニーズを、白金「ロンフウフォン」で日本の野菜や山菜、果物を使った独自の中華料理を確立し、一世を風靡した柳沼シェフ。体調を崩して一線を退くも、1日1組限定の「うずまき別館」で復帰。2014年10月からはここ「うずまき」で腕を振るっています。

料理は8,640円のコースから。/写真左 鶏のむね肉と豚の内ももの肉からとった上品なキンショーメロンのスープ。
写真右 坊ちゃんカボチャの炒めはほのかな酸味が爽やかな甘酸っぱい餡でいただきます。

食べ手の想像を鮮やかに覆し、意表を突く料理は、今も健在で、さらに磨きがかかっているよう。基本は上海料理とのことですが、もはやその範疇に収まらない、強いて言えば“柳沼中華”と呼ぶにふさわしい独創性があります。しかし、意表を突くと強いて言っても、何も奇をてらった食材を使ったり、強烈な味付けや盛り付けをしているわけではありません。むしろその逆で、古くから日本人が親しんだ野菜や山菜、果物を多用し、味わいは上品。無駄なものを削ぎ落とした料理は品格が感じられます。例えば坊ちゃんカボチャの炒めものは、小メロン、コリンキー、ベビーコーンなど、硬さや口当たりの異なる野菜が使われていますが、これはそれぞれに別の下ごしらえが施されているので、全体として非常にまとまった印象に。いわば日本料理の炊合せに通じるものがあります。キンショーメロンは、かつては日本でもよく見かけたあっさりとした夏の風物詩でしたが、マスクメロンやプリンスメロンの台頭で、今ではほとんど見かけることがなくなりました。「キンショーメロンもそうですが、山菜など、古き良き日本の食材を積極的に使いたい」と柳沼さん。鶏のむね肉と豚の内ももの肉からとったスープは、上品な甘さのキンショーメロンでこそ、その真価が発揮できる清麗な味わい。1日1組の店からゆったりとした空間に移転し、現在は1日3組制。数ヵ月先まで予約の取れない頃に比べると、美味との出合いの機会が増えて楽しみが広がりそうです。

写真左 練りゴマ、発酵させたニラのペースト、唐辛子を合わせた濃厚なソースが印象的なそら豆のわんたん。
写真右 時間がゆるやかに流れる洗練された空間。

Text: Text 小松めぐみ(風の中華)、永浜敬子(水の中華)
Photo:よねくらりょう、佐古裕久
※こちらの記事は2016年6月20日発行『メトロミニッツ』No.164に掲載された情報です。

 

更新: 2017年6月20日

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