WHISKY DAISKY ! #10

花崎一夫さんに聞く③
「非日常な空間でウイスキーを楽しむ」

Text 浅井直子

洋酒研究家でウイスキー畑を歩んできた花崎一夫さんは、バーの達人でもあります。そんな花崎さんに、日本人がどのようにウイスキーを受け入れ、楽しんできたのか。さらには、ウイスキーと出合う場として欠かせないバーとの付き合い方まで、伺ってみました。

花崎一夫/洋酒研究家

1949年東京生まれ。明治大学文学部卒業。サントリースクール校長退職後、現在株式会社エスポア特別顧問。著書、監修書に『新バーテンダーズマニュアル』、『今宵も大人はバーで癒やされる』など。

ウイスキーはインタースペースに ふさわしいロマンのある酒

「インタースペースは、会社と家の間、今日と明日の間に存在している空間を指します。バー利用の目的は、酒を飲みに行く、バーテンダーに会いに行く、待ち合わせなど様々ですが、バーを、日常から離れて、非日常の中でほっと一息つけるお店として捉えてみる。そこであえて、ハイボールを我慢して、自分が憧れるウイスキーを、バーテンダーのおすすめの飲み方で飲んでみてはどうでしょう?」と提案します。


なんと、一杯目の定番となったハイボールをオーダーしない、その狙いは?


「もはや、ハイボールは日常でしょう?(笑)せっかく非日常の空間に気分転換しに来ているのなら、普段飲まないものを頼まなきゃ」と花崎さん。そして、「ウイスキーは、インタースペースを埋める酒としては最高なんです」と続けます。


「ウイスキーはロマンのある酒。造り手の顔、その場所の気候、土地の特徴、そういったものがいっぱい詰まっている。そういったウイスキーの背景をイメージしながら、いかにこの1杯がおいしくなるか、考えながら飲む。すると、その瞬間だけ、時が止まり、自分の世界に浸れる。そういうところがバーで飲むウイスキーの醍醐味ですね。日常からのリセットになります」。


最低でも3 年、いや6 年は寝かせたいと言われるウイスキーは、時間を閉じ込めた酒。じっくり時を重ねた酒だからこそ、飲む人をぐっと惹きつけ、一瞬の時間旅行に誘う魅力を持っているのかもしれません。


「非日常ということで言えば、バーで飲む酒は、本当にうまい。バーテンダーが作る酒は、家庭で作る酒とはまるで違うんです。うまさの平均値を超えていて、そこにさらに、バーテンダー個人の力量が加わります。例えば、シンプルなジントニック一つとってみてもそう。ベースのジンの銘柄を何にするか。そこに加えるのは、レモンかライムか。搾るのか、スライスするのかなど要素は色々あって、何を選択するかでバーテンダーのこだわりが出てきます。じゃあ、ウイスキーのオン・ザ・ロックだったら家で簡単に作れると思うかもしれない。けれど、氷が違う。例え買ってきた氷でも違います。店主が内装も照明もこだわって作り上げた、バーという非日常の空間なんです」

バックバーの主役はウイスキー バーのコンセプトが見えてくる

そんなバー楽しむために、バー初心者が心に留めて置いた方がいいポイントは?


「まず、少人数で行くこと。3人集まると会話の声も大きくなってしまうので、バーの雰囲気を壊さないためにも、1人か2人がいいでしょう。飲み物に関して言うなら、おいしいうちに飲んで欲しい。バーは酒を飲みにくるところ。例えば、ハイボールなら飲んでおいしいのは20分以内。それ以降は、温度も上がって、せっかくのおいしさもダウンしてしまいます」。


その点、ウイスキーは、ゆったり楽しめる酒と言えそうですが、頼み方のポイントはあるのでしょうか?


「まず、自分が飲みたいウイスキーが何かわかっているか、そうでないかで分かれます。詳しい必要はないですが、少なくとも、軽いか重いか、香りが強いか強くないか、スモーキーか、国はどこがいいかなど、こんなものが飲みたい、と何かしらコミュニケーションを取ると、バーテンダーとの距離も縮まります」。さらに、バーを楽しむために、花崎さんは「バーに入ったら、バックバーに注目して欲しい」と言います。バーテンダーのバックにずらりと並ぶ、ウイスキーのボトル。そこに、どんな銘柄が並んでいるのか、コンセプトが現れるところでもあり、メニュー代わりにもなる、バーの見せ所です。


「私もそうですが、お客さんは、それを眺めながら、次はあれを飲もうとか、あの銘柄は何かな?と考えながら飲むのが楽しい。スコッチがメインで、脇を固めるのはバーボンやジャパニーズウイスキー。そこにアイリッシュやカナディアンが加わると、何かこだわりがあるのかなとか、バーテンダーの方向性がわかります。でも、どんな種類であろうと、そのバックバーのメインを張るのは、やっぱりウイスキー。ウイスキーはバックバーの顔、イコール、バーを支える存在なんです」


私たちと、ウイスキーと、それを楽しめるバーと。歴史や楽しみ方を振り返って見えてくるのは、ステータスでもなく、カクテルとしてのベースでもなく、ようやく、ウイスキーそのものを自由に楽しめる段階に入ったということ。バーは敷居が高いから…なんて、尻込みしていたらもったいない! ウイスキーの可能性はこれからです。


「新しいジャパニーズウイスキーのデビューも控えていますし、ぜひ、月1回でも足を運んでみて欲しい。世代交代も進み、今はバーも多様化しています。自分にしっくりくるスタイルのバーがきっと見つかりますよ」

※こちらの記事は2017年6月20日発行『メトロミニッツ』No.176に掲載された情報です。

更新: 2017年11月14日

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