TOKYO FOOD JOURNAL 2016 # 11

焼肉「肉山」米山英明さん
ガストロノミー「salmon&trout」森枝幹さん
フランス料理「Florilège」川手寛康さん

オーナーシェフINTERVIEW

Text:河﨑志乃、唐澤理恵
Photo:井上美野、藤井伸一郎

最後は、今年活躍された5名の料理人のインタビューです。待望の新店、新たなステージへの挑戦など、それぞれの活動をもとに2016年を振り返っていただきました。

焼肉「肉山」オーナーシェフ
米山英明さん

飲食業界に飛び込んで10年の節目の年、2012年に「肉山」をオープン。それから4年が経った今年の8月1日、これまで多くのお客様たちの“登山”を見届けてきた光山さんは、今後は店舗の監督業に専念するとFacebookで宣言しました。野球に打ち込んだ学生時代から、飲食業界の風雲児となり、監督に。「肉山 名古屋」を皮切りに、今年は神戸、高松、福岡に続き12月に新潟、大阪、大宮で「肉山」をオープン。2017年にはさらに3つの「肉山」のオープンが決まっています。「肉と日本酒」などのプロデュースも絶好調! 光山さんの勢いは止まりません。

プレイヤーから監督へ
肉山マインドを全国に広げ皆で楽しんでいく

今年の8月、「監督業に専念する」と宣言しました。昨年オープンした「肉山 名古屋」が本店に負けない人気店となったこともあり、新店オープンの監督に専念することにしたんです。自分が現場でできることはやりきった、次のステージに行きたい、と考えてのことでもありました。ですが、私が店に立たなくなれば「肉山」のお客様が減るかもしれないと思うと、とても勇気のいる決断だったんですよ。Facebookで発表したのですが、そのときは何度も何度も文章を書き直して。不安でしたが、応援してくださる声がとても多くて、ありがたかったですね。そして、今年は全国に6つの「肉山」をオープンしました。2017年は現時点で3つの「肉山」のオープンが決まっています。私と繋がりがあり、熱意のある各地の飲食起業希望者に店を任せるようにしています。
メニューは赤身中心の「おまかせコース」(5,000円、飲み放題付きで10,000円)のみ。塊肉を豪快に焼いて切り分けるインパクトと美味しさで人気。ファンの間では「肉山」で食事をすることを“登山”と言う。写真はフランスから仕入れるオリジナルのワイン。

“肉山プロデュース店”誕生

閉店が決まったとある焼肉店を見に行った時。閉店の原因を聞いて、その場で改善策を提案しました。「この方法でもう一度やってみましょうよ。どうせ閉めるのなら、失うものはないのだから」と。そうしてオープンしたのが1日1組限定の谷中の「肉と日本酒」です。その後、四ツ谷「赤身とホルモン焼 のんき」、亀戸「リトル肉と日本酒」、日本橋「肉友」、渋谷「肉山カレーライス」、銀座「ステーキ 肉と日本酒」などをプロデュースし、私がこれまでに監督した店は、「肉山」本店も含めて約55店になりました。決して数を増やすことが目的ではありません。全国各地のやる気のある人たちと、「肉山」で勝負をしたいのです。新店を計画している時は、その情報をFacebookに流します。それで皆さんの反応やコメントを見て、いけるかどうか判断しているんです。今回の“監督宣言”は大きな決断でした。ですが、これで「肉山」を離れてしまうお客様がいたとしても、それも仕方のないことです。卒業するお客様がいるのも飲食店の宿命。その分、新しく入学してくださるお客様が増えることを願い、皆で日々努力するのみです。私は現場を離れましたが、今後も「肉山」の仲間たちと店を盛り上げていきます。老舗旅館での“1泊肉食ツアー”や、他店とのコラボイベントなどでお客様とお会いすることもできますから。来年も毎日が楽しいと思えるように、全国各地を飛び回り、パワフルに動いていきますよ。

「にくやま」
☎0422・27・1635
東京都武蔵野市吉祥寺北町1・1・20・2F
月~金17:00~/20:00~、土日12:00~/17:00~/20:00~ 無休(12月30日~1月6日休)

ガストロノミー「salmon&trout」
シェフ 森枝幹さん

2014年、森枝さんが27歳の時にオープン。常に世界の最新の考え方やスタイルを取り入れて発信し、感度の高いお客様たちから注目を集め続ける東京の最先端ガストロノミー。自由な発想から生まれるコース料理と、アルコールペアリングが楽しめる。

「サーモンアンドトラウト」のシェフでありながら、クリエイションの視点から食を捉えるフードプロジェクト「THE OYATSU」を監修。かたや今年3月にオープンした新宿ゴールデン街のレモンサワー専門店「The OPEN BOOK」をプロデュース。夏からはペアリングをテーマに、ビール、日本酒、カクテルの3本柱で、「sansa」、「GEM by moto」、「FUGLEN TOKYO」とのコラボイベントを実施するなど大活躍の1年だった森枝さん。そんな彼が今年1番の挑戦だったと語るのが10月に創刊した食のカルチャー誌『RiCE』。編集顧問として携わった雑誌には並々ならぬ思いがあるようです。

もっと面白く、もっと楽しくたくさんの人を巻き込みながら
自由な価値観で食と向き合う

今、食の情報が周りに溢れていますよね。そんな中で、レストランを紹介して「この店に行ってください」というのではなくて、もっと食の背景を知ってもらいたい。読者に考えるクセをつけてもらいたい。そんな思いでこの雑誌『RiCE』を作りました。第1号のテーマは「ごはん」でしたが、第2号(2017年1月発行)は「魚」です。取材するにつれ、資源の枯渇など海が抱える問題に頭がクラクラしました。それならば海の魚を奪い合うことはない、淡水魚だ!と思い立ち、と言っても淡水魚もそう簡単な話ではありませんでしたが、「サーモンアンドトラウト」ではブラックバスとブルーギルを使うことにしました。かつては食糧難を救う縁起のいい魚として日本に迎えられたブラックバスですが、現在は外来種として深刻な問題となり、駆除が行われています。ですが、琵琶湖の北部で獲れるブラックバスやブルーギルは美味しいんですよ。味の濃いスズキみたいで面白い食材なんです。棄てるくらいなら、私が使っちゃおうと思って。まだ価値になっていないものを自分の料理で価値にできたら、漁師さんも喜ぶでしょう? 今回はソテーにして、同じ淡水に生きるすっぽんのスープと合わせ、琵琶湖をイメージした1皿に仕上げました(写真右下 6,500 円のコースより)。『RiCE』という媒体で触れたこと、思ったこと。それらをこの料理で表現しています。また、11月にはオーストラリアの最新の店を訪れ、自由な発想とメッセージ性のレベルの高さに刺激を受けました。

ガストロノミーの料理は現代アートのようなもの。

食べ手も料理に込められたメッセージを解釈しながら楽しむもので、もはや“美味しい”では語れない文化なんです。東京のお客様にも、自分なりの価値観で食と向き合ってほしいですね。多様性が受け入れられるのも東京のいいところですから。来年は海外の店のプロデュースなども予定しています。今、私はコース料理の店をやっていますが、いつかはホテルのダイニングのように、好きな時間に好きな料理を楽しめる店とかもやりたいんですよね。自分が今感じていることを料理で表現するのと同じように、店のプロデュース、イベント、雑誌という形にする。ただアウトプットが違うだけで、実はどれも同じ“編集”の発想なんです。これからも自分が“面白い”と思えることを見つけて楽しみ、周りの人たちもどんどん巻き込んでいきたいと思っています。若いお客様や料理人が自然体で料理を楽しめる未来を目指して、今後もメッセージを発信していきます。

「サーモンアンドトラウト」
☎080・4816・1831東京都世田谷区代沢4・42・7
18:00~24:00LO 日・月定休(1月1日~1月3日休)

フランス料理「Florilège」
オーナーシェフ 川手寛康さん

2015年の移転オープン以来、舞台のようなコの字型カウンターやカクテルペアリングといった新鮮な驚きを提供し続け、“予約の取れないレストラン”代表格となった「フロリレージュ」。今年は有田と函館で開催された世界料理学会に川手さんが登壇、長年取り組むフードロスについてのスピーチが反響を呼びました。さらには台湾「ロウ」やベルギー「ヘルトン・ヤン」、ソウル「ミングルス」といった有名店とのコラボレーションも話題に(上の写真は「ロウ」スタッフと)。「アジアのベストレストラン50」の賞も受賞し、世界的な注目を集める現在、川手さんの思いとは。

来年はフランス、そしてアマゾンへ
視野が海外へと広がったこれから先も自分に与えられた役割を全うしたい

今年の一番大きな変化は、コラボレーションをはじめ、海外の仕事が増えたこと。きっかけは、「アジアのべストレストラン50」の「注目のレストラン賞」の受賞です。意外に思われるのですが、僕は石橋を叩きまくって渡るタイプ。それまでも世界中からゲストが訪れる店を目指していたものの、自分が海外へ出向くにはまだ早いと思っていました。でもタイの受賞式会場に行ったら、たくさんの人が「フロリレージュ」を知っているし、「コラボしよう」と声も掛けられる。それで「あ、海外で料理を作ってもいいんだ」と気付いたんです。そこから先は早かったですね。もっと色々な国で、色々なシェフと交流したいという欲がどんどん出てきて。この12月にまた「ロウ」とコラボしますし、来年2月には「アジアのベストレストラン50」で2年連続1位の「ガガン」が手掛ける、タイの「ズーリング」というレストランでもやります。来年はフランスにも行きたい。実はフランスは僕にとって、近くて遠い国なんです。自分でも理由が分からないのですが、修業から帰って以来、どうしても足を踏み入れることができなくて。最近、ようやく行こうと思えるようになりました。それと、海外の料理学会に登壇するのも目標です。本気で「食で未来を変えたい」と思っているたくさんのシェフに、僕の話を聞いて欲しい。フードロスの他、チョコレートをテーマにする予定です。
「フロリレージュ」2009年に南青山に開店、2015年神宮前に移転オープン。右の写真は、初めて来店する人には必ず提供される“サスティナビリティー”と名付けられた1皿(12,960円のコースより)。通常廃棄される経産牛のカルパッチョに屑野菜のスープをかけたもの。左はそれに添えられるメッセージカード。

チョコレートを
“終わっている”食材だと思っていた

巨額の利益を生む流通の仕組みを知り、もう腹が立って、食べるのも使うのも長らく止めていたんです。今年たまたま太田さん(料理人・太田哲雄さん。スペイン「エル・ブジ」、ペルー「アストリッド・イ・ガストン」などで経験を積み、アマゾンのカカオ産地にも足を運ぶ)が持ってきてくれたカカオに感動したのですが、彼とはカカオ業界をもっと健全にしたいという思いが共通していました。来年5月、アマゾンのカカオ産地まで同行し、そこで見たことを学会で発表しようと考えています。今のチョコレート業界を否定するのに怖さもありますが、学会にはもうオファーを出しました。これまでフードロスをはじめ色々な取り組みをしてきて、正直、無力さを感じることもありますよ。経済が潤えば必ずどこかで無駄が出ますし、戦争が起きれば利益を得る人がいる。でも世の中には役割分担があって、僕は問題を発信し続ける“係”であり、今もこれからも、自分の立場でできることをするだけだと思っています。

「フロリレージュ」
☎03・6440・0878
東京都渋谷区神宮前2・5・4 SEIZAN外苑B1F
12:00~13:30LO、18:30~20:00LO 不定休(12月20日、21日、30日~1月6日ランチまで休)

※こちらの記事は、
2017年12月20日発行『メトロミニッツ』No.170に掲載された情報です。

更新: 2017年12月20日

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