TOKYO FOOD JOURNAL 2016 # 9

REPORTAGE
クラウドファンディングが
個性的な名店を
次々ともたらす時代

Text:松本典子、河﨑志乃
Photo:平尾健太郎、井上美野

近年、新たな資金調達手段として注目されるクラウドファンディング。飲食店にも急速に浸透し、個性的な店が数々誕生しています。そこにはどんな目的や、背景があるのかいろんな人に話を聞きながら探ることにしました。

渋谷 江戸前ずし
鮨 須賀

知恵と技が生きた
日本文化温故知新の〝江戸前ずし〞

目標金額は100万円。開業資金の一部として使わせてくださいと設定したその金額は、クラウドファンディング開始わずか2日目にして達成し、最終的には約200人の支援者が300万円以上を寄せたと言います。そんな約200人の心を最も捉えたこの店のキーワードと言えば(多分)、「本物の江戸前ずし」。
「江戸時代は冷蔵技術も輸送もままならなかったため、その分そこには職人たちの〝仕事〞があった。より美味しく食べるためにはどうしたら良いのかという知恵と工夫をひねり、技術を磨き続けるのが本来の江戸前ずしの仕事なのです」
そう話すのは、「鮨 須賀」店主の浅香秀雄さん。浅香さんは職人として30年以上、様々な店で鮨を握り続けてきて、この歳になって原点の大切さを感じるようになった、と言います。また、素晴らしい仕事が生きている、原点である「江戸前ずし」に取り組んでいる職人は今ではもうほとんどいないこと、このままだと江戸前の文化が途絶えてしまうのではないか、なども考えるように…。ところで江戸前ずしがどんなものかと言えば、タレで煮詰めたり、蒸したり、漬け込んだり、酢で締めたりなどの仕事が込められている鮨で、すし飯は基本的に赤酢です。「例えば、江戸前の小肌は酢でしっかり締めるから酸味が強いんです。だから、すし飯と小肌の間に芝海老で作ったおぼろを挟んで握ります。おぼろは甘いので口に入れた時に酸っぱいネ。
うには塩を振り、バーナーで炙ってから提供する。火で溶けた塩味がほど良く、うになのに海苔を巻かないのがポイント。ちなみに、江戸ずしの元祖・いかの印籠詰めもおすすめ。イカの中に、シャリやかんぴょう、シイタケなどが詰まっている。海老と一緒に握る黄酢おぼろ。コースは日替わりで8,200円~、江戸ずしは1貫400円~、生魚を使った握りも用意。

Tel 03・6778・8906 東京都渋谷区桜丘町2・8 小林ビル3F 18:00~24:00(土~23:00/22:30LO)日・祝定休、土不定休(12月30日~1月9日休)

中野 居酒屋
宮城漁師酒場 魚谷屋 

写真左上 石巻港直送のお刺身満点盛り980円(時価)~/写真右上 「今日は11kgオーバーの鮟鱇が届きました」と言う店主の魚谷浩さん。/写真下 カキの地酒蒸し3ケ1,000円、6ケ1,900円。

漁師たちの熱い想いが届く
生産者直結、食のステージ


連日トロ箱いっぱいに届く新鮮な魚介たち。ぷっくりと身をつけた牡蠣に、肉厚の平目、鯛にホヤ……。この瑞々しく新鮮な食材、すべて宮城の生産者直送なのです。そう、ここは宮城の若手漁師たちが経営する正真正銘の漁師酒場。名ばかりではなく、時には漁師自ら駆けつけ「この魚どうですか? 今朝ぼくが水揚げしてきたものなんですよ」なんて、接客にあたることも。
日々届く魚介を活かすため、グランドメニューはなし。旬の鮮魚をストレートに刺身や浜焼きで、あるいは鍋やアクアパッツァなどにアレンジしたり、地元のバッパ(おかあさん)たちが考案の郷土料理で楽しめます。もちろん野菜は地元の農家から、日本酒もすべて宮城の地酒です。通常は客と接することがない漁師さん。もっと自分たちの魚介の素晴らしさを知ってほしいと、市場には絶対に出ないシーズン外れの子持ちホヤ(これが臭みなくまた旨い!)をはじめとした漁師発のメニューや、宮城の漁場で客と漁師が交流できるイベントを予定するなど従来にはない展開も生まれています。
広々としたオープンキッチンで繰り広げられるライブ感いっぱいの空間。そこには被災から立ち上がる漁師たちの熱い想いと、生産者発の「旨い」がいっぱいに詰まっています。

「みやぎりょうしさかばうおたにや」Tel 03・6304・8455 東京都中野区中野2・12・9高田ビルB1F 17:00~24:00日・祝定休(1月31日~1月5日休)

奥神楽坂 パワーサラダ専門店
HIGH FIVE SALAD

写真のサラダは、右がディルとブロッコリーのパスタサラダ(950円)、左がグリルドチキンのヘルシーサラダ(993円)。また、スープセット(パンと日替わりスープ付き)は、スープがレギュラーサイズだと+250円、ラージサイズは+450円。スムージーはグリーンスムージーとオレンジスムージーの2種類を用意(各453円)

思わずハイタッチしたくなる
健康でおいしいパワーサラダ

この10月、奥神楽坂にパワーサラダ専門店「HIGH FIVE SALAD」が誕生しました。「パワーサラダ」とは人間が必要とするビタミン、ミネラル、食物繊維、たんぱく質など重要な栄養素を1食で補えるボリューム満点のサラダのこと。メニューのサラダは、直接契約している農家さんの野菜を使ったり、自家製ドレッシングは野菜に和えて提供したり、ひと口ごとに違う味わいや食感が楽しめるよう実はいろんな食材が盛り込まれていたりなど、丁寧に考え出された全9種類。

「ハイ ファイブ サラダ」Tel 03・6265・3039 東京都新宿区山吹町261トリオタワーサウス1F 11:00~22:00 無休

代々木上原 モダンガストロノミ―
RESTAURANT Celaravird

コースは全12品で9,180円。写真は根セロリで作る折り鶴、フォアグラの脂でソテーしたインカのめざめの上にフォアグラのテリーヌをあしらった一品で、ワインは醸し製法のデラオレンジ 2015 ヒトミワイナリー。ペアリングは料理に合わせた4杯が付き、アルコールは4,860円、ノンアルコールは4,104円。半分をノンアルコールにしたり、グラスの追加やボトルをシェアなどのアレンジも可能。

モダンガストロノミーの旗手
橋本シェフの表現豊かなコース

昨年1月のオープン以来、常に数ヵ月先まで予約で埋まる人気を築いた「セララバアド」。オーナーシェフは、世界のトップレストランの歴史に名を刻む名店、スペイン「エル・ブジ」で研鑽を積んだ橋本宏一さんです。
メニューに使用するのは、橋本シェフがオープン前から継続している食材探しの旅で出合った、日本の生産者によるこだわりの食材や器たち。おまかせワンコースで、全体のバランスと驚きを大切に〝新しい日本〞を表現した全12品は、まるでアート作品のような世界観。緻密に計算された美味しさで感動を与えてくれます。ここに、シェフ自らテーブルを回って料理の説明をするプレゼンテーションやオープンキッチンのライブ感が加わり、舞台を観るような楽しさが加味されるのです。
「来月で丸2年。昨年夏からは飲み物も含めたコース全体を楽しんでいただけるよう、アルコールかノンアルコールのペアリングを選んでいただくようにしました。自家製のノンアルドリンクも〝料理に合っていて美味しい〞と好評です。ペアリングは海外ではすでに定着していて、北欧ではノンアルのペアリングを出す店も多いですね」と橋本シェフ。料理同様、お酒は国産ワインと日本酒、ノンアルコールは果汁やお茶をベースにした自家製ドリンクなど国産にこだわっており、ペアリングにも〝新しい日本〞が息づいています。
また「セララバアド」は、本格的なレストランがクラウドファンディングを活用した先駆けでもあり、近年は追随してクラウドファンディングを利用するお店が急速に増えています。「開業資金の一部を募集して、店を認知してもらうことにもつながりましたし、オープン前にファンが付くことはすごく大きかったです。出資者も最初から関わったという思い入れを持ってくれるので、今でも来店される方がたくさんいて、嬉しいですね」と橋本シェフ。お客様へのプレゼンテーションを大切にしているため、今はほぼお店にかかりきりですが、来年以降はチャンスがあれば、もう1店舗を考えたり、コラボレーションイベントやプロデュースもやりたいそう。今後も橋本シェフの活躍から目が離せません。

「レストラン セララバアド」Tel 03・3465・8471 東京都渋谷区上原2・8・11 TWIZA上原1F 18:30(19:00コース一斉スタート)~22:30 ※要予約 月・隔週の火定休(2017年3月より日・月定休)12月31日~1月6日休。

※こちらの記事は、
2017年12月20日発行『メトロミニッツ』No.170に掲載された情報です。

更新: 2017年12月20日

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