TOKYO FOOD JOURNAL 2016 # 8

REPORTAGE
クラウドファンディングが
個性的な名店を
次々ともたらす時代

Text:静浩太 Photo:近藤信也

近年、新たな資金調達手段として注目されるクラウドファンディング。飲食店にも急速に浸透し、個性的な店が数々誕生しています。そこにはどんな目的や、背景があるのかいろんな人に話を聞きながら探ることにしました。

クラウドファンディングは
資金集めの手段ではない!?

映画『この世界の片隅に』では、新宿のシアターの歴代興行記録を塗り替え、お笑い芸人の西野亮廣さんは制作チームと絵本『えんとつ町のプペル』を発表し、表参道での個展を成功させました。インターネットを介した新たな資金調達方法として様々な話題を集めてきたクラウドファンディングですが、2016年は1つのターニングポイントとして記憶されることとなりそうです。
そしてその波は飲食店にも確実に押し寄せています。これまでには考えられなかった名店や、1つの食材に特化した店、支援者限定の会員制レストランなど、個性派飲食店が続々と生まれているのです。今回はそんな現状を探るべく、クラウドファンディングで成功を収めているいくつかの飲食店で話を伺いました。すると、すでにクラウドファンディングが単なる資金集めとしてだけでなく、店の根幹に関わっている構図が浮かび上がってきたのです。

あの名店の開店と成功が
新たな時代を切り開く

昨今の「クラウドファンディング×飲食店」時代の幕開けとなったのは、2015年1月、代々木上原にオープンした『セララバアド』(P 38掲載)がきっかけと言えるでしょう。世界最高峰レストラン、スペインの『エルブリ』などで研鑽を積んだ橋本宏一オーナーシェフが自らの店を構えるにあたり、資金調達手段として選んだのがクラウドファンディングだったのです。
当時のクラウドファンディングは「個人で映画を作りたい」や「復興支援プロジェクトの活動資金を集めたい」など、純粋な応援者を集めるという意味が強く、本格的なレストランビジネスに結びつくようなものは、ほとんどない状況でした。けれど、予定している店の立地は駅から遠く、住宅街で人通りもまばら。橋本氏は「開店資金集めと同時に、オープン前からWEBで拡散、お客様の獲得につながるのなら」と考え、クラウドファンディング事業者Makuakeにレストラン参加の可否を問い合わせます。すると「ちょうどレストランを扱いたいと考えていたところでした」という見事なタイミングで決行。実際、支援者はオープン後すぐに駆けつけ、今でもリピーターとして幾度も訪れているそうです。資金提供者=支援者が顧客となる、クラウドファンディングならではの相乗効果で名店が生まれた瞬間でした。

マーケティングとしての
クラウドファンディング

「29 ON」会員制、メニューはおまかせコースのみの焼かない焼肉屋。温度を0.1℃単位、時間を秒単位で調整する低温調理で、部位ごとにベストの状態で提供。現在は、すでに支援者となった会員のみへの提供ですが、2017年の早い段階で表参道に新店をオープン予定。今からクラウドファンディングを要チェックです。

そんな相乗効果を最大限に用いて成功を収めているのが、今年10月会員制レストランとしてオープンした『29ON(ニクオン)』です。経営するのはグルメメディアの運営や全国の飲食店に様々な食材の紹介、メニュー開発などを行っている「favy」。自ら店を立ち上げ、そこで実際に用いた食材やメニューを顧客に提案できるのはビジネス上も大きなメリットがあると考えたのです。今年2月、ムール貝食べ放題という個性派ダイニング『C by favy』をクラウドファンディングを通じて開店しており、手応えもその価値もよく理解していました。「『29ON』での利用は資金調達ではなく、マーケティングとしての意味が大きかったですね。我々が考える新たなスタイル『会員制』『焼かない焼肉専門店』というキーワードが〝バズる〞かどうかで需要を見極めようと考えたのです」とプロジェクトリーダーのサンチェス下田雅俊氏は話します。

オープン前の懸念が消え
料理、サービスに集中

「COFFEE MAFIA」favyがクラウドファンディングによってオープンしたコーヒースタンド。月額2,000円で会員向けのハンドドリップコーヒーが何杯でも楽しめるという日本初の試みが注目を集めています。Tel 080・9185・6489 東京都新宿区西新宿6・12・16 天空MURA 2F 7:30~17:00 土・日定休

そもそもクラウドファンディングの支援者は、情報収集能力、発信力の高い人が中心。そこにキャッチーなワードが見事にはまり、SNSなどでの拡散に繋がったのです。その結果、初回分はわずか5時間半で売り切れ。数日後追加分を発表するも即日で再び売り切れるという想像以上のリアクションが起こりました。これにより、開業前から9 0 0 人もの店のファンが待っているという稀有な状況となったのです。
同時期には、上質な豆を用いたドリップコーヒーが1カ月2000円で何杯でも飲めるというコーヒースタンド『COFFEE MAFIA』もクラウドファンディングで募集。こちらも新しいスタイルを確立するのです。「通常、飲食店をオープンする際にはスタッフ教育やメニュー開発、空間設計など、すべきことが溢れています。その中でも最大の懸念が集客。それが最初からクリアになるのですから、お客様にどう喜んでいただくか、いかに美味しい料理を提供するかという本来の目的に集中できるのが大きなメリットでした」
そして、そのメリットは開店後にも大きく作用します。オープン時から予約で連日満席の1コース制ですから、使用食材は確定。ゆえに廃棄はほぼゼロ。その分、食材原価にかけることができ、客にとっても店にとっても良い関係が最初から築けたのです。

支援者のプチオーナー感が
店を良い方向に導く

クラウドファンディングならではのプチオーナー感も通常の店にはない反応を生みました。「お客様からいただく言葉が、クレームではなく提案なのです。このメニューはもっとこうすれば美味しくなるのでは?お酒はこっちの方が合うかもしれませんよ」と、〝自分たちの店〞をもっと良くしたいという、支援者ならではの反応だったのです。
そんなプチオーナー感に加え、本来クラウドファンディングが持つ応援する気持ちが上手く作用したのが『宮城漁師酒場 魚谷屋』です。店主の魚谷浩氏は神戸出身。阪神淡路大震災で多くの人から手を差し伸べてもらった記憶から、3・11の東北地方太平洋沖地震のボランティアを始めたのがきっかけでした。当初は短期のつもりで宮城を訪れますが、現地で友人ができ、気がつけば4年。単なる支援ではなく、経済的にもサスティナブルな地域活動をしたいと考えるように。そこで、漁師仲間たちをはじめとした生産者たちの価値を高められるような飲食店を、と同店を立ち上げることを決意。その際に選んだのがクラウドファンディングでした。
「各地でこんな店を作りたいという話をすると、ありがたいことに応援したいという声を事前に多くいただいていました。また、支援者が店のファンになってくれるなら継続的なビジネスモデルが作りやすいのでは、と考えたのです」と魚谷さん。
そして、開店資金の一部をクラウドファンディングで、残りを情熱を持つ宮城の若者漁師たちの団体「フィッシャーマンジャパン」が出資するという形で、漁師と支援者による漁師酒場が開店したのです。漁師には自らの食材が適正価格で消費され、その反応をダイレクトに得られる場が生まれ、支援者には顔の見える漁師たちへの応援とともに、水揚げしたばかりの新鮮な魚介を味わえる酒場ができました。月に一度は漁師がスタッフとして自らの食材を説明しながら接客したり、漁師と直接ふれ合えるイベントなども開催。そんな企画にも、プチオーナー感からか、支援者の参加意欲は強いと言います。

飲食店の根幹に関わり
個性派を生み出す時代

クラウドファンディングを利用する目的や事情はそれぞれに異なりますが、もはや銀行で資金を借りるのが難しいからという単純な理由だけではありません。その飲食店のコンセプトやビジネスモデルと深く結びつき、切り離せない関係ができてきています。2016年の今、クラウドファンディングだからこそ個性的な名店が生まれる時代になったのです。

※こちらの記事は、
2017年12月20日発行『メトロミニッツ』No.170に掲載された情報です。

更新: 2017年12月20日

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