TOKYO FOOD JOURNAL 2016 #5

REPORTAGE
いよいよ東京でも根付き始めた
レストランからの提案

Text:佐々木ひろこ

今やすっかり広く浸透した“マリアージュ”という言葉は、料理とワインのおいしい組み合わせのことですが、最近、レストランの中に“ペアリング”をうたう店が増えています。料理のコースに合わせてワインもコース仕立てで楽しむスタイルを指すようです。

「優れたペアリングを行えば、料理とワインそれぞれがよりおいしく感じるのはもちろん、両方の味わい自体が大きく変化して、まさに完璧なハーモニーが生まれるのです」

— ニューヨーク「ル・ベルナルダン」(ミシュランの三ツ星レストラン)のウェブサイトより
ここ数年、東京のレストランで「ペアリング」という言葉を耳にする機会がぐんと増えました。ペアリングとは“pairing”、つまり「対にしたもの/組み合わせ」を意味し、レストランでは国内外問わず「ワインペアリング」という言葉でよく使われます。ワインをボトル単位で、もしくはグラスワインとして皿ごとに注文する代わりに、コース仕立てのお料理それぞれにぴったりのグラスワインの組み合わせが用意されている、いわば「ワインのコース」がここで言うワインペアリング。皿の数だけワインの種類もサービスされることが多いようですが、さらに一歩進んでワインの価格帯別にいくつかのコース設定がある店や、応用編として「カクテルペアリング」や「ジュースペアリング」などのコースを持つ店も出てきています。

30年前、
パリの三ツ星レストランで始まった

このペアリング、世界的な流行はここ最近と言えるものの、実はそのスタート地点ははるか 年前。1980年代半ばのこと、ヌーベル・キュイジーヌの雄、パリの三ツ星レストラン「ルカ・カルトン」のシェフだったアラン・サンドランスは、料理とワインとの関係性に強い関心を抱きました。そしてワイン界の権威、ジャック・ピュイゼ博士に師事し、ディジョンやブルゴーニュ地方のワインクラスで熱心に学びます。さらに当時としては珍しく、シェフとして様々なワイナリーを巡り、彼の料理を「ハッピーにする」ワインを探し始めたのです。
サンドランスが、彼の料理と「おすすめグラスワイン」を一緒にメニューに載せたのは1987年のこと。レストランではボトルワインをオーダーするのが当然だったフランスで、この斬新な試みを導入するにあたっては、彼の妻までが最後まで反対したと言います。しかし3カ月後に振り返ってみると、なんと8割近くのゲストがこのペアリングワインをオーダーしていたのだとか。現在に続くワインペアリングの世界を開いたのは、「彼にとって、料理のレシピの仕上げはワインとの組み合わせだった」(弟子であるシェフ、アラン・パッサール談)というサンドランスの慧眼だったのです。

ワインペアリングの広まり

現在はワインテイスター、ワインディレクターとして様々なレストランへのコンサルティングを行い活躍する大越基裕さんによると、「僕はワインの勉強のためフランスに2009年まで滞在したのですが、ワインペアリングはそれ以前から北欧やアメリカなどで大流行していましたね。僕は帰国後、古巣の『銀座レカン』に戻り、シェフソムリエになってすぐにこのスタイルを導入しました。2010年の後半、日本ではおそらくこの頃が黎明期だったはずです」
ボトルでオーダーすると、どうしても「アミューズと前菜2皿」「前菜数品と魚」など数皿を1種類のワインで通さなければならず、またグラス用のワインはほんの数種類の用意しかない場合がほとんどです(ワインはいったん抜栓すると長くて数日で飲み切る必要がありますが、その後オーダーが入らなければロスとなるため、店として多種類を用意するのは高リスクなのです)。レストランが提供するコースの皿数自体が昔に比べて増えた中、全皿を2、3種類のワインで対応するにはどうしても無理がある。アミューズのフォアグラの皿に合わせたワインが、前菜1のゴボウの皿、前菜2のスズキの皿とも合う保証はないのですから。
実際、サービス側として長い間「これでいいのか」というジレンマを抱えていたという大越さん。それぞれの料理にベストの組み合わせを追求できるワインペアリングはまさに理想的で、レカンのゲストにも大好評だったそうです。ペアリングの世界に大きな可能性を見出した大越さんは、その後独立を果たして以降、「レフェルヴェソンス」(西麻布)、「ラ・ボンヌ・ターブル」(日本橋)、「ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー」(広尾)、「スガラボ」(港区某所)、「アキナガオ」(札幌)といった名だたるフレンチレストランをはじめ、焼鳥店「鳥幸WINE PAIRING」(恵比寿/右ページ掲載)や鴨料理店「なかもぐろ」(中目黒)、牛懐石料理店「うしどき」(シンガポール)、JAL国際線のファーストクラスなど数多くのクライアントを持ち、また「ダイニングアウト」ほか、多くのイベントを通じて、ペアリングの提案を行っています。

個性豊かな「焼鳥×ワイン」を提案する、「鳥幸WINE PAIRING」。こちらのペアリングコースも大越基裕さんがプロデュースしています。毎日届く甲斐路軍鶏を使用した焼鳥は、部位に合わせて焼き加減を変える、4種類のタレを使い分けるなど、1本ずつすべてが自慢だそうですが、さらにペアリングコースの場合、串1本1本にワインを組み合わせるという楽しさです。また、ワインによく合う、フレンチベースの1品料理も充実。

まさに百花繚乱!ペアリングの現在

さて、今の東京のペアリング事情が特に面白いのは、ドリンクの内容がワインに限らない店が増えたことでしょう。フレンチレストランでありながら、「アミューズにはシャンパーニュ、前菜1には南アフリカのソーヴィニヨン・ブラン、前菜2には芋焼酎のカクテルを楽しみ、メインの2皿はひやおろしの日本酒とブルゴーニュの赤を合わせる。デザートは日本酒の古酒と味わって〆」などという組み合わせも、十分アリなのです。
この流れについて、白金のフレンチレストラン「ティルプス」のオーナーソムリエ、大橋直誉さんは言います。「レストランの料理自体がずいぶん多様化し、フランス料理も伝統的なそれとはストラクチャーが大きく変わりました。最近の皿の中には昔ながらの料理×ワインの方程式に当てはまらず、逆にワインよりも他カテゴリーのドリンクの方が合うものもあるんです」
ティルプスでは今夏の2カ月間、なんとワインを完全に封印し、コースに日本酒もしくはお茶のみを合わせたペアリングの提案を試みました。名店「カンテサンス」のソムリエを務めた大橋さんが、ワインからいったん離れるという冒険に乗り出した訳は、「ワインに頼らず、日本酒とお茶の新しい可能性を追求してみたかったんです。ありがたいことに、僕のわがままをお客様も面白がってくれました。ペアリングは、レストランの個性として打ち出せる時代になったと思います」。大橋さんはこの経験から得たノウハウをもとに、様々なカテゴリーのドリンクを取り混ぜたペアリングを提案し続けています。
また神宮前のフレンチレストラン「フロリレージュ」では、ワイン(日本酒含む)とノンアルコールのペアリングコースに加え、カクテルを織り交ぜたコースも提供しています。廣田晴樹さんと中村遼さん、2人のソムリエが技と知識を競い合い、協力し合って生み出すハーブや果物を多用したカクテルは、川手寛康シェフの料理の世界観とも通じるクリエイティブな世界。それだけで飲むのでなく、あくまで川手さんの料理と合わせた時の味わいの膨らみ方、風味の溶け合い方、相乗効果を計算し尽くした、完全オーダーメイドの「作品」と言えるでしょう。中村さんは言います。「最近は、『シェフの個性』を楽しむためにレストランに行くお客様が増えたように思います。シェフの個性、世界観を映すのは、もちろんまず料理ですが、その食事体験をさらに完璧にするために、ドリンクの存在がクローズアップされてきたのではないでしょうか。お客様は、自分で選んで失敗するよりも任せた方がスマートだし、その店をより楽しめるよね、という方が多いですね」

「鳥幸 WINE PAIRING」“串1本1本に1杯ずつペアリングの醍醐味がここに”串1本ずつにワイン(9本コースには日本酒も)が付いてくる「串ペアリングコース」は3種類。串5本コース(5,400円)、串7本コース(7,560円)、串9本コース(9,720円)。Tel 03・6455・3485 東京都渋谷区恵比寿西1・13・6 ブラッサムZEN3F 11:30~14:00(13:30LO)、17:00~23:30(22:30LO) 日定休(12月31日~1月3日休)

ゲストもハッピーなWIN-WINの関係性

他にも多くの料理人やソムリエに話を伺いましたが、皆口を揃えるのが「料理だけでなくドリンクも任せたい、というお客様が多い」こと。確かに料理名を聞いてもどんな料理が出てくるのか分かりにくい昨今、完璧に合うことが担保されているドリンクと予めセットされていることで失敗なく、より満足感の高い食体験ができると感じる方が多いのでしょう。
レストラン側としても、料理を必ずおいしい組み合わせで食べてもらえる安心感があると同時に、ワインのロスを最低限にしながら(ペアリングのオーダーが入れば確実に消費されるため)、きちんと利益を出せるというビジネス上の利点もあります。今後も広がるに違いないペアリングブームですが、だからこそ「一過性の流行に終わらせないためには、より精度を上げたペアリング技術が必要です。日本酒や焼酎など、和酒の魅力ももっと発信していきたい。ペアリングがもう1つの食の楽しみになるように、僕も引き続き頑張って提案をしていこうと思います」(大越さん)
アラン・サンドランスが初めて取り組んだあの時から来年で 年、ペアリング文化が日本で今後どのように円熟を迎えるのか、来年も注視していこうと思います。

「Art of Champagne」

“シャンパーニュが好き”と思っても、実際に現地を訪ねる機会に恵まれる人は限られています。しかしシャンパーニュは味だけでなく、そのイメージ全てを楽しむもの。産地、原料、歴史を勉強しても、リアルなイメージが思い描けなければもったいない…との思いから生まれたサービスが1 月より始まります。その名も「ArtofChampagne」。大越基裕さん、千葉和外さん、林基就さんの3人のトップソムリエがプロデュースした、新しい形のシャンパーニュ定期購入サービスです。3人はシャンパーニュ地方へ足を運び、土地の魅力から造り手ごとのぶどう栽培、醸造、熟成までを取材。さらに、全17村のグラン・クリュ(特級畑)をドローンで上空から撮影。そして制作した動画とガイドブックと、そのストーリーに合ったシャンパーニュとともに、毎月1回、お届けします。先着1000名様限定ですので、どうぞお見逃しなく!

「Art of Champagne」サービス概要
●サービス内容:動画配信(全7回)、ガイドブック(全7冊)、シャンパーニュ(全9本/初回と2回目は2本ずつ)を毎月1回お届けします ※初回は2017年1月中旬頃発送
●利用料:15,984円×7カ月(送料無料)
●販売セット数:先着1,000名様限定
●申し込み:「Art of Champagne」HPよりhttp://www.artofwine.jp/champagne/

※こちらの記事は、
2017年12月20日発行『メトロミニッツ』No.170に掲載された情報です。

更新: 2017年12月20日

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