WHISKY DAISKY ! #7

ウイスキーの樽学

Text 佐藤太志

“ウイスキーの命”とも言われる樽。ここでは奥深い樽のあれこれについて学んでみましょう。

呼吸している樽。その中で起こる 様々な変化により熟成が進んでいく

ウイスキーの熟成に樽が利用されるようになったのは、実は偶然。徴税を逃れるためにシェリー酒の空き樽に詰められた密造ウイスキーが長年放置され、数年経って発見された結果というのが定説で、200年ほど前から始まったといいます。

なぜ樽に貯蔵すると豊かな香味が加わるのか、そのポイントはまず素材が木であること。長期間にわたる温度などの変化により樽は呼吸します。温度が高いと中の空気が膨張し、外に空気を押し出し、逆に低いと中の空気圧が減り、外気を取り込むのです。この過程でウイスキーが蒸散し、年間で数%の量が減少しますが、この現象を昔から「天使の分け前」と言い、おいしいウイスキーのためには不可避とされています。

蒸発が進むと樽内の上部を占める空気のスペースが大きくなり、液体表面が空気に触れることで酸化もします。そして、液体と樽の接触面では木からポリフェノールなどの成分が溶け出すのも重要。樽の木にオークが選ばれるのは、成分が他の木よりも多量に含まれるのが理由のひとつです。さらにオーク材は固くて液体がもれにくいという特性も。ただ、熟成中のメカニズムは科学で解明できているのはごく一部で、いまだ樽の中には神秘の世界が広がっています。

素材

ホワイトオーク
北米だけに生育する木で液体が最も漏れにくい。熟成では軽快でバニラやココナツのような甘い香りが生まれる

コモンオーク
シェリー酒によく使われ、スパニッシュオークとも呼ばれる。熟成ではドライフルーツのような重厚な香味が特徴

ミズナラ
日本の代表的なオークで最近注目の素材。華やかな香りが強く、熟成年数を経るとお香を思わせる独特の香りも

スギ
オークではなく強度的に側面の板には向かないが、円形の鏡板に使用することも。特有の清涼な香りが付く

セシルオーク
元はコニャック用として使われ、一部のウイスキーで熟成に利用。タンニン量が多く、スパイシーな香味も

作り方

樽は縦にしたときに横につく細長い側板、上下の円形の鏡板、鉄の締め輪のフープで構成されています。木材は液体が漏れないように丸太の中心から放射線状に切り出した柾目板を使用。側板を樽の形に合わせ、強度が強くなるよう曲げ加工を施し、フープを装着。樽の胴ができあがったら掘った溝に鏡板をはめ込みます。基本的にすべて手作業。日本では数は少ないですが、サントリーの白州や秩父蒸溜所など製樽工場を持つ蒸溜所もあります。

チャー

組み合わせた樽の内部を焼く加熱作業のことを「チャー」と呼び、樽材の成分をうまく引き出すために欠かせません。できたばかりの新樽はこのチャーの影響もあり、香りが強く出過ぎるため、モルトウイスキーではバーボンやシェリーなどで1回使用した後の樽を使うのが一般的。1回使った樽を一空き樽、2回は二空き樽などと呼び、六空きまで使うことも。成分が出にくくなると、もう一度火を入れる「リチャー」を行い、再活性化させます。

サイズ別ウイスキー樽

ウイスキーに使われる樽はサイズも多様!
基本的な4つのサイズと、その特徴をご紹介します。

バレル(180~200ℓ)
バーボン用の樽として1度使用され、その後スコッチや日本のウイスキーに利用されているサイズ。容量が小さいので、熟成が早く進むと言われている。樽の中を強く焼いているため、香ばしい焦げくささがあり、バニラのような甘い香りも

ホッグス(230~250ℓ)
バーボンウイスキーの樽を分解し、その側板を利用し、樽の胴をバレルより一回り大きく作り直した樽。バレルに比べるとバニラのようなバーボン由来の風味は弱くなり、クッキーやビスケットを思わせる穀物系や木の香りがついた原酒を育む

ヘッドバット(480~500ℓ)
シェリー酒の貯蔵に使用された後に、ウイスキーにも使用されるため、シェリー樽とも呼ばれる。ウイスキーの色味が赤みを帯びた濃い琥珀色になり、溶け出す成分も豊富。レーズンやアプリコットなどの香りや、濃縮された果実香をまとうのが特徴

パンチョン(480~500ℓ)
ホワイトオークを使用した樽。バットよりずんぐりとした形が特徴で、容量が大きいため熟成がゆっくりと進み、温度変化が激しい環境でウイスキーを長期熟成させる場合に最適と言われる。穏やかな木香と穀物や果実の香りがバランスよく生まれる

※こちらの記事は2017年6月20日発行『メトロミニッツ』No.176に掲載された情報です。

更新: 2017年6月20日

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