WHISKY DAISKY ! #2

新鋭クラフト蒸溜所
「秩父蒸留所」

Text: 佐藤太志
Photo: 奥山智明

原料は麦芽、水、酵母のみ。なのに蒸溜所により味は千差万別で、個性が表れるモルトウイスキー。その秘密を探るため、数々の世界的な賞に輝くウイスキーを生み出す、新鋭のクラフト蒸溜所を訪ねました。

※写真は秩父蒸留所を抱えるベンチャーウイスキー社長の肥土(あくど)伊知郎さん。最終的なウイスキーの味を決めるブレンドは肥土さん一人で実施

昔ながらの技術に立ち返る 小さな蒸溜所が生む珠玉のモルト

訪れたのは6月上旬。緑豊かな山々に囲まれた、ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所の近辺の畑では、大麦の刈り取りが始まったばかり。同蒸溜所では、この秩父産の大麦を使ったモルトウイスキーづくりを昨年からスタートしています。「あくまでメインはイングランド産などの大麦で、秩父産は全生産量のうち10%くらい。この土地の原料でウイスキーをつくりたいという思いがありました。うちの蒸溜所では発酵や蒸溜などの詳細だけでなく、麦の品種の違いにも注目して製造しています」と、案内をしてくれたブランドアンバサダーの吉川由美さんは言います。

昨年、秩父産の大麦を使って蒸溜された熟成前のウイスキー=スピリッツを試飲してみたところ、イングランドの大麦のものに比べ、よりフルーティーで華やかに感じられたのだそう。モルトウイスキーはブレンデッドウイスキーの味の骨格になり、シングルモルトとしてそのままでも製品化されることが多いぐらい、風味が強く出るのが特徴です。「材料の違いはもちろん、発酵時間や蒸溜時間、蒸溜器の形など、多くの条件の違いにより、できあがるスピリッツの成分は蒸溜のたびに変わります。そして、熟成環境が長い時間をかけて様々な化学変化をもたらします。その数多くの要素の積み重ねにより、モルトウイスキーの個性が表れるのだと思います」(吉川さん)。

ただし、秩父蒸溜所が行う工夫は、麦芽の品種のことに限りません。たとえば秩父産の大麦を発芽させた後に乾燥させる製麦作業は、人力でかくはんするフロアモルティングを採用。発酵槽はミズナラ材でオーダーメイドして作り、自社の製樽工場を備え、北海道産のミズナラの新しい樽でも熟成を始めるなど多彩です。一見すると斬新なようでいて、実はどれもトラディショナルなものばかりなのだそう。歴史を学んで昔の技術に立ち返ることが、イノベーティブな取り組みと評価される状況になっているといいます。「繊細で手間がかかるものばかりですが、どれも小規模だからこそできることだと思います」と、創業者の肥土伊知郎さん。その哲学が、世界でも個性際立つモルトウイスキーを生んでいると言えます。

海外で製麦したイングランドやドイツ産の麦芽がメイン。

ミズナラの発酵槽。木に棲みつく乳酸菌が発酵を助ける。

2008年に製造を開始。現在社員は14人、敷地入り口から製造棟や貯蔵庫などがすべて見渡せる小さな蒸溜所。代表的な1本は、肥土社長が創業するきっかけになった、生家の造り酒屋が行っていたウイスキー事業・羽生蒸溜所(現在は閉鎖)の原酒と秩父蒸溜所の原酒をブレンドした「イチローズモルト ダブルディスティラリーズ」。

秩父蒸溜所

埼玉県秩父市みどりが丘49
☎0494・62・4601
営業時間:9:00~17:00
※一般の見学、販売は行っていない。酒販店や飲食店の見学のみ対応

Photo 奥山智明 Text 佐藤太志
※こちらの記事は2017年6月20日発行『メトロミニッツ』No.176に掲載された情報です。

更新: 2017年6月20日

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