いま・ここにある「食」の話 #1

現在を見つめ、
未来を創るシェフたち

Interview 三好かやの
Photo 小林秀銀

「食」(食べることや食べるもの)の先は、自然、人々、文化や歴史、街や土地、生物や生命、経済や社会、世界や日本、暮らしや健康など、とにかく、あらゆるものとつながっています。つまり、「食」を入口に何らかをたどり始めると、見えてくることがあるかもしれません。かくして今月の特集は、いわば「食」をテーマにしたオピニオン特集です。料理人を中心に、日頃から「食」に携わっている方々に、それぞれの視点、それぞれの論点で“今の関心事”を話していただく対談&インタビュー(加えて、コラム)をお届けします。それぞれの話に耳を傾ければ、今ならではの価値観、次の時代の展望、そして私たちがいま・ここに生きていることの責任など、様々な想像が広がります。

【CROSS TALK】
「フロリレージュ」
オーナーシェフ 川手寛康さん
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「シンシア」
オーナーシェフ 石井真介さん

[ Profile ]
HIROYASU KAWATE(写真左)
1978年、東京生まれ。「カンテサンス」のスーシェフを経て、2009年に「フロリレージュ」をオープンさせる。2017年度のアジアベストレストラン50で14位を獲得するなど、世界的にも注目を集める

[ Profile ]
SHINSUKE ISHII(写真右)
1976年、東京生まれ。「オテル・ド・ミクニ」や「ラ・ブランシュ」を経て渡仏。帰国後は「レストラン バカール」のシェフを経て、2016年に「Sincére」(シンシア)をオープンさせる

社会の課題を“自分事”にする、これからのシェフの有り方

毎日、忙しなく目先の仕事をしながら過ごしていると、気づけば社会の中には「他人事」が多くなっていったりします。しかし「食」の業界の第一線にいる、料理人の方々は、自然、生産者、流通など、様々なつながりが多い仕事。その仕事を通じて、社会の課題を「自分事」と捉え、近年、自身の店のことだけではなく、外に目を向ける料理人が増えています。この石井シェフも川手シェフもまさにそう。おふたりに話を伺いました。

石井真介さん(以下、石井)

20年前、僕が料理人になった頃は、料理を勉強することが仕事でした。でも、今の僕らの世代のシェフたちというのは、夜、普通に飲んでいて話をしていても、農業・漁業のこと、環境問題のこと、多方面に話がいくようになっています。ただ自分の店を守って、おいしいものを作るだけが料理人ではないと皆が考え始めているのだと思います。

生産者や社会ともちゃんとつながって、サステナブルな(持続可能な)世の中にしていこうと考える人が増えているのではないかと。今、その点では、まずは勉強がしたいというニーズも高まっていると思います。最近は「サステナブルシーフード勉強会」に参加していますが、集まるのは30〜40代のシェフが中心。

主催者は僕の他にいますが、前回は会場としてうちの店を使うということもあって、僕が声を掛けました。店が閉まった後の深夜0時からの開始で、店内にぎっちり椅子を並べて35人がマックスのところ、呼びかけた全員が夜中にも関わらず来てくれて。

大学の教授を呼んで、漁業に詳しい人がスクリーンを出して説明をしてもらったり、僕らは普段から魚を扱っているのに、漁業については全く知識がないことを改めて実感します。僕は、川手ほどたくさん活動はしていませんが、お金のためではなく、社会活動というか、世の中のためにできることはしたいという気持ちはやはり強くありますよね。毎日、朝から晩まで働いて、忙しい中でもできることはあると思うんです。

川手寛康さん(以下、川手) 

僕は石井さんの漁業の勉強会には行っていませんが、興味がないわけではありません。でも、自分が全てに首を突っ込んでも意味がない。僕は自分のことに取り組み、よそでは自分が携わっていない活動があちこちで起こっていてこそ、だと思うのです。小さなものが寄せ集まって、やがて大きなものになり、そして持続していく…。

今は同時多発的に、ちょうど各所で様々な活動が起こり始めている時期なんだと思います。僕がこういう活動を始めた4、5年前は、お前何やってるの?という雰囲気でしたが、ここ最近は、僕らよりもっと若い世代のシェフたちも動き始め、小さな活動が起きていると感じます。

石井 僕が料理以外のことを考え始めたのは、日常の疑問がきっかけでした。漁業に目を向け始めたのも、子どもの頃から釣りをやってきたから。ヒラメを釣るためには、まず餌になるイワシを釣るんですが、サビキという仕掛けを海へ垂らすとイワシがいっぱいついてくる。それを生簀に入れてヒラメの漁場に行って釣るんです。

ところが数年前から、イワシが獲れなくなって、漁師さんから1匹50円で買うようになっていました。そんな風にイワシが釣れなくなったことは感じていても、理由はわからないまま。また、仕事をしていても魚屋さんに「今日は築地に魚がない」と言われることもありますし、これまで身近だった魚がどんどん減っているのが明らかなんです。

そこでなぜだろうと思って、いざ、勉強してみると到底解決できないような根深い課題がたくさんある。でも、自分にできることがあるなら、何か少しでも良いからやりたいと思うようになりました。

川手 僕のきっかけは5年ほど前、和歌山の「ヴィラ・アイーダ」のシェフ・小林寛司さんとの出会いが大きかった。それまでは「フロリレージュ」をオープンさせて、東京で予約の取れない店を育て上げ、自分としてはわりと満足していたんです。

そこへ小林さんが来てくれて、いろいろ話すようになり、和歌山のお店まで行ったりもしました。小林さんって、会っても自分のことはほぼ話さないんですよ。人のこと、町のこと、国のことしか話さない。もちろん料理の話はしますが、それは自分の料理じゃなくて「こんな料理をしたら、もっと和歌山を好きになってもらえるんじゃないか」とか。それって、「東京で一番になりたい」と思ってやってきた僕とは真逆じゃないですか。

そして、小林さんに「夢は持った方が良いんじゃない?」って言われた時、ハッとしたんです。東京で一番になるのは目標ではあったけど、夢とは言えなかったのです。しかも、その夢は「自分の夢ではなく、未来のビジョンを考えろ」と言うんです。「皆が幸せになれるようなことを、皆で一緒にできたらすごく良いじゃないか」と。これまでの自分が本気で恥ずかしくなりました。

でも、きっと小林さんは覚えてないと思います。ベロベロに酔っ払っていましたから(笑)。でも、すげぇ人だな、自分は今まで日本中、世界中の人を幸せにするビジョンなんて考えたこともなかったと思って、そのためには、今の自分にないことをしなければいけないと考えたんです。おかげで今は、例えば、「いただきますプロジェクト」とか、他にも岩手のシェフたちと一緒にやっているグループとか、数多くの活動に取り組んでいます。

世の中にはあらゆる問題が山積みで、1人の力では何も動かせないので、皆で集まって知恵を出し合いながら、模索しながらやっているのです。でも、これまでは「食」に関わる人のチームだけで活動してきましたが、最近はやはりそれだけではダメじゃないかと皆が感じ始めているところもありますね。

他分野の人も交えていかないといけないのではないか、と。最終的には、一般の人たちにも広く知ってもらうにはどんな方法が良いのかを見つけられたら良いなと考えています。こうしている間にも、世の中ではいろんな事態が進行中で、「未来」というものを考えた時に、明るい未来が待っていることが保証された状況ではなくなっていることに多くの人にも気付いてほしい。

食糧問題、汚染の問題、環境破壊など、そういったものも影響が自分たちの身の回りのも確実にやってきます。実は、すでにやってきてもいます。どれも解決策は簡単に見つかるものではありませんが、まずは皆が正しいことを「知る」ということが重要になってくると思います。

Photo 小林秀銀 Interview 三好かやの

※こちらの記事は2017年7月20日発行『メトロミニッツ』No.177に掲載された情報です。

更新: 2017年10月13日

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