心に響く「時代」や「暮らし」
|100年後まで残したい料理本[14]|

住宅街の小さな本屋さん
BOOK APART

2013年10月に開店した「BOOK APART」は、店主・三田修平さんが移動書店歴1年半を経て始めた実店舗。勝手に我が家の別宅と呼びたくなるような居心地の良さの中、ゆるっと「100年後」のお話を聞いた。

キッチンの冷蔵庫では水出しコーヒーが冷えている。「そのうち、コーヒースタンドを作れたら。コーヒーの香りって、不思議と本と相性がいいんですよね」

「本を見て、よく作りました」
緑に囲まれた白い空間で、三田さんが出してきたのが『はじめてのスープ』。一時期、深夜に仕事から帰宅するとクリームシチューやすいとんなどをストウブの鍋で作っていたそう。
「〝子どもといっしょに?というコンセプトがいいですね。市橋織江さんの写真も見ているだけで楽しい。子どもが生まれた友人に贈ると喜ばれました」移動書店「BOOKTRUCK」を始めるまでにいくつかの書店で働く中で、料理本の存在感を目の当たりにした。
「食べない人はいないように、料理は生活の一部。それゆえに、料理本は対象となる人も楽しみ方の幅も広い。偉大なジャンルだなと実感しました」
実は三田さん、よく料理をする。得意料理はチキンカレー。バゲットを焼くことにハマり、アクアパッツァなどを「無駄に作る(笑)」ことも。
「僕は食べること自体にはそこまで興味がなく、食材が料理になる過程や技術に興味があるのだと思います。作っている時間が楽しいので、手の込んだものを作りたがるんです」

そんな三田さんに料理の面白さを教えてくれた1冊が『ポテト・ブック』。世界各国のじゃがいも料理が、文字だけで紹介されていく。「これは、〝読み物?。読むだけで楽しいと思う初めての料理本でした。伊丹十三さんの訳が本当に良いんです。彼なりの美学やこだわり、本質が、『どうだ、おしゃれだろう?』という上から目線ではなく、でも確固たる意思を持ってちりばめられています」
同じく、読み物として気に入っているのが女優の故・高峰秀子が編集した『わがやのおかず』。「タモリさんが『餃子は白菜餃子に限る!』と語っていたりと、その人の生活や本質的に大切にしていることが垣間見れて面白い。おしゃれなだけじゃない、幅広い人選も良いです」「お湯に梅干しを入れて終わり」とか、時間表記も火加減も表記がなかったり。1人ひとりのエッセイやレシピは、あっけないくらい短いものも多い。
「好きなものを入れて終わり、みたいな、いい具合の適当さが良いんですよね。本は映像と違い、想像力で情報を補完しながら読むもの。情報が少なければ、自分好みに勝手に楽しめる余地も広がる。料理は自分がおいしいければいいのだから、料理本も完璧なレシピよりも、もっとゆるっとしている方がおいしさへの妄想をかきたてられる気もするんです」

住宅という場を生かし、リビング、キッチン、書斎など、各スペースに則った本や雑貨をセレクト。キッチン周りにはレシピや食にまつわるエッセイ本などをラインナップ。料理関連本は新刊も多い。「お店のコンセプトはありますが、それに縛られすぎると置きたい本が置けなくなるので、ゆるくセレクトしています」

それは、本屋という生業への思いとも重なる。
「ネットでは拾えないような本と、感覚的に出合えてつながるのが実店舗の良さ。人がやる店だから、データを定量化してマーケティングするより、もっと感覚的な部分を信じて本を選びたい。料理も同じで、正しい火加減より、ただ読むだけで楽しい料理本がもっとあっていいし、そういう本を伝えていきたいというのが今の気分です」

【SELECTED BOOKS】

「わがやのおかず この一品」
高峰秀子・編
[品切れ・重版未定]
1983年刊。有名人65人が「安上がりで簡単なおかず」を紹介。池波正太郎の「ポテトフライ」、タモリの「白菜ギョーザ」など、「これさえあれば」な1皿のレシピをエッセイとともに文字だけで紹介

「ポテト・ブック」
マーナ・デイヴィス 著 伊丹十三・訳
[品切れ・重版未定]
1976年刊。世界各国のじゃがいも料理のレシピを文字だけで紹介。じゃがいもの取り扱い説明書など、食通で知られた映画監督の故・伊丹十三の訳文に引き込まれる。70年代アートなイラストも必見

「こどもといっしょに食べる はじめてのスープ」
野口真紀・著
アノニマ・スタジオ刊 1,512円
子どもが離乳食の時期を過ぎた頃に、著者が親子でよく食べていたというスープレシピを紹介。食べやすく、滋養たっぷりで、子どもも大好きなスープは、ちょっぴりお疲れの大人にも優しい

「見つけると商売度外視で仕入れてしまう(笑)」という『暮しの手帖』は、かなりの数が揃う

三田修平さん

書店勤務を経て、2012年、トラック1台に本を搭載した移動書店「BOOKTRUCK」を始める。2013年、「BOOK APART」オープン。「15歳で読んだ『リング』(鈴木光司著)は映画よりも怖くて、あの時、本のすごさを実感した気がします」

BOOK APART

「“けっこう面白いな”という本と偶然出合ってほしい」と、建築家ユニットSANAAが手がけた「大倉山集合住宅」内にオープン。新刊&古書、いずれも扱う

BOOK APART

住所:
横浜市港北区大倉山3・5・11 大倉山集合住宅(I アイ)号室
営業時間:
12:00~19:00 月定休 ※電話なし。臨時休業などのお店の情報はFacebookにて
URL:
https://www.facebook.com/mybookapart

Photo 菊池良助 Text 松田亜子
※こちらの記事は2014年9月20日発行『メトロミニッツ』No.143に掲載された情報です。

更新: 2017年6月7日

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