|地中海料理という、暮らし方。[21]|

この国で生まれ、 この国で“食べる”ということ。
地中海と日本の比較文化学

地中海料理同様、2013年、我らが和食も世界無形文化遺産に登録されました。しかしながら、 日本は地中海沿岸地域に大きく水をあけられた感があります。そこで、本特集の最後にお届けしたいのは、2つの食文化の比較学。 地中海料理のレシピを紹介してくださった服部栄養専門学校の服部津貴子先生に再びご登場いただき、お話しいただきます。

服部栄養料理研究会 会長 服部津貴子先生

服部先生は長年にわたって地中海料理を研究されてきて、平成元年、国際オリーブ協会から日本人の口に合うオリーブオイルレシピを作ってほしいとの依頼を受けて以来、本格的にオリーブオイルのリサーチもされるようになったそうです。なんとアメリカのキーズ博士にもお目にかかったことがあるとのこと。「今、日本は自給率が39%ですから、外国の食材をたくさん買っています。それでも一汁三菜の良さを伝えていくことはできるはずなのです。知識を持って、バランス良く食べていただきたいと思います。その点、地中海料理はもともとバランスが良いですし、日本でおなじみの食材を使って作れますので、おすすめです」(服部先生)。先生は著作も多数ありますが、あえて挙げるなら写真の『世界遺産になった食文化』(WAVE出版・児童書)。既刊8巻で、「地中海料理」については、第2巻でスペイン、イタリア、ギリシャ、モロッコ、第6巻ではクロアチア、ポルトガル、キプロスを取り上げています。 

地中海地域と逆行する日本

地中海沿岸地域では、新鮮な魚、四季折々の野菜や果物をよく食べています。そう聞くと、少し日本の食文化と似ていると感じませんか?しかも、地中海地域で使われている食材は、日本でもお馴染みのものばかりです。ただ、調理法とオイルが違うだけ。日本ではサラダ油ですが、地中海地域ではオリーブオイルと、ひまわり油などの植物性オイルをよく用います。そんな地中海地域の人たちは、心疾患などの生活習慣病になる人の割合がとても少ないのです。その理由は食生活に大きな利点があるからですが、地中海の人たちは3千年前から変わらずこの食事スタイルを続けてきました。一方、日本は現在、とても大きな課題を抱えています。それは、生活習慣病の増加。最近、医療費がいよいよ約40兆円になってしまいましたが、その一番大きな要因が〝生活習慣病?なのです。生活習慣病患者の予備軍とは、食事のバランスが悪い人たち。今、男性の肥満、女性の痩せ過ぎが問題となっていますが、食生活を見直すだけで、生活習慣病はかなり防げます。税金を医療費として使ってしまうと消える一方ですが、そのお金をこれから子どもを産む人たちの補助に回したり、教育費に使えば日本の未来につながっていくでしょう。年金に使うというのも良いと思います。

正しく食べて、日本人を育む

日本人の食生活を改善するためには、子どもたちに「食育」を教えることが先決です。さらに、私たち(服部学園)は、世間に「食育」へ関心を持ってもらうためには、やはり法律にするしかないと考えました。そんなことを言い始めたら「食事のマナーなんて家庭で教えるべきだ」と大きな反発が起こりましたが、厚生大臣が小泉純一郎さんだった時、小泉さんは食に対して真面目で真摯な方だったので耳を傾けてくださって、今からちょうど10年前の2005年、小泉政権の時に「食育基本法」が成立するに至りました。法律になったおかげで、学校で正しく「食べること」を教えることができる時代になりました。例えば、きちんと箸を持てない子どももいますが、学校で指導してくれるようになったのです。しかし、以前、「いただきます」と子どもに言わせたら、「給食費払っているのに『いただきます』と言うのはおかしい」と苦情を言ってきた保護者がいて問題になったことがありますね。今は、そんな時代なのです。学校のカリキュラムの中で、日本人が昔から大切に受け継いできたごく当たり前の習慣も教えなければいけない時代になってしまいました。

「生活習慣病大国」までの道のり

日本の食生活が急激に変化したのは、ここ40年くらいの出来事です。地中海の国々は食文化に共通点がありますが、それは隣国と一蓮托生の歴史を歩んできたから。国境などあってないのも同じで、1晩寝たら国が変わっていたということも多々あり、人種も様々に混じり合って文化を共有してきたわけです。しかし、日本は文化の育ち方が違います。お隣の中国や韓国とは食文化が全く異なることからもわかるように、長らく1つの国の中だけで生きてきました。戦後、国際化が始まりましたが、その後の高度成長があっという間に進んだおかげで、昔のものを次々と切り捨ててしまいました。日本人が洋服を着るようになったのも高々100年前ですが、インドでは何千年もの歴史を経てきても、いまだに女性はサリーを着ていますし、毎日カレーを食べています。一方、日本人は海外から新しい文化を取り入れることが得意な国民性。ですが今では、西洋人が日本に興味を持ち、和食が好きだと言っています。日本人が西洋の料理を好きになったように、ないものに憧れるのはどこの国でも同じ感覚なのでしょう。しかし、別にお肉を食べるのは栄養面から見て決して悪いことではありません。戦後、食事が西洋化したおかげで日本人の平均寿命が伸びたことは嬉しいことです。しかし、現代はすっかり栄養のバランスを崩して、生活習慣病になる人が増えてしまったことが問題なのです。ハンバーグが好きな子どもも多いですが、脂っこいものを食べる時はお野菜も一緒にたくさんバランス良く食べることが何よりも大切です。

今や〝家族力?が求められる時代

cAGE / PPS 通信社

日本も昔はおじいちゃん、おばあちゃんと住んでいたので、子どもへ継承されていく文化がありました。「一汁三菜」を基本とした和食を食べていた時代には、生活習慣病もありませんでした。でも、若い夫婦と子どもだけで住んでいるとどんどん新しい習慣へと移り変わってしまうもの。しまいには、4人家族で食卓を囲んで、4人がそれぞれ違うものを食べていたりします。家族全員がそれぞれ自分の好きなものを取り出してきて、レンジでチンして食べる、それが当たり前だと思っている人がいますが、同じ釜の飯を食べなければ家族ではありません。確かに、イタリアでもローマなどの都会に行けば人々は忙しく生活し、海辺でのんびりと暮らしている人たちとは違いますが、地中海沿岸はまだ人と人のつながりが濃く、住民全員が家族のようです。ギリシャの島に行けば、挨拶は「こんにちは」「さようなら」ではなく「今日、何食べる?」です。そして、食卓は必ず家族みんなで囲みます。「家族で食事をする」というのは、大人の目があるので子どものしつけができることもありますし、実際に健康に良いものなのです。最近、オキシトシンという脳内ホルモンが注目されています。オキシトシンの別名は、〝幸せホルモン?。家族や好きな人と一緒に食事をしている時とか、ハグなどスキンシップをしても出てくるホルモンで、これがあると病気になりにくく、体の痛みが緩和されます。今の日本人は、これが不足しているのかもしれません。そもそも地中海沿岸地域には、人で食べるような料理は見当たりません。パエリアだって大きいお鍋で作るでしょう。郷土料理を守って食べている国では、家庭崩壊も起こらないのです。スーパーでパックのお惣菜を買ってくるという文化はありませんから。

おさらい事項

CHECK 1「いただきます」という日本文化

「今日、食事ができること」。今でもそれが当たり前ではない国がありますし、かつての日本もそうでした。 今日も食事ができることへの感謝の気持ちを、キリスト教の人たちは神様へ伝えますが、日本人は違います。食材を育んでくれた自然に、いのちを提供してくれた魚や野菜に、雨の日も風の日も働いてくれたお百姓さんに、料理を生み出した先人の知恵に、そして共に食事を囲んでいる人がいる幸せに、あらゆるものに感謝を込めて「いただきます」と言う習慣があります。世界中、どこを見渡しても「いただきます」や「ごちそうさま」などという言葉がある国はありませ ん。日本人だからこそ生まれた言葉なのです。

CHECK 2「食育基本法」とは?

2005年7月施行。国が、国民が健全な心身を培い、豊かな人間性を育むために、食育に関する施策を総合的かつ計画的に推進すること等を目的としている「食育基本法」。その内容は、子どもの食育の他に、安心・安全な食品の確保、伝統的な食文化の継承、地域産業の活性化、食料自給率の向上への貢献等の推進などを含みます。なお「食育」とは、健全な食生活をし、食文化の継承、健康の確保などが図れるよう、自らの食について考える習慣、食に関する知識・判断力を持った人材を育てること。

CHECK 3 世界遺産になった「和食」

2013年12月、「和食」もユネスコの無形文化遺産に登録されました。登録された理由は「北から南まで、地域ごとに食材、調理法が多彩である」、「自然の美しさ、四季を愛でる精神が込められている」「栄養バランスに優れ、健康的な生活を支えることができる」「年中行事と密接に関わりがある食文化で、家族や地域の絆を深めてきた」など。やはり和食も食文化としての価値を認められたのでした。

CHECK 4「オキシトシン」のチカラ

オキシトシンは、ストレス社会の救世主的ホルモン。近年の研究では、 親子間の愛情や仲間と信頼感を深めている時などに脳内で分泌され、 ストレスを緩和し、安らぎの感情を高めることがわかりました。分泌させるには、他者に触れる(手をつなぐ、ハグをするなど)、動物と触れ合う、感動する、他人に親切にするなどの方法があるようです。

Text:メトロミニッツ編集部
※こちらの記事は2015年5月20日発行『メトロミニッツ』No.151に掲載された情報です。

更新: 2017年3月1日

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