心に響く「時代」や「暮らし」
|100年後まで残したい料理本[6]|

100年後まで残したい料理本
〔編集者〕若菜晃子さん

様々な方に「100年後まで残したい料理本」をお聞きしてきました。そもそも「料理本」とは曖昧な言葉ですが、「料理が素敵に描かれている本であり、時代、個人の嗜好・ライフスタイルなどが『料理』を通じて伝わってきたり、『料理』の存在が作品の味付けになっている本のこと」。そんな風に言うことにしました。例えば“主婦のバイブル”と呼ばれたレシピ本、食通の作家による随筆もアリです。時代を切り取り、人生を写し出し、読み手の暮らしにヒントをもたらすことは、「料理本」ならではの可能性。人々の心に響く、価値ある「料理本」を広い価値観で集めてみれば、見えてくる何かがきっとある。そして、やがて「料理本大賞」みたいな評価軸が生まれるなど、1ジャンルとして「料理本」がさらに育っていったら面白いと思うのです。

〔編集者〕 若菜晃子さん

[写真の場所]Fuglen Tokyo
本店は、コーヒーが世界最高水準にある国・ノルウェーのオスロで長く愛されてきたカフェ&バー。コーヒーバー+カクテルバー+ヴィンテージ家具
03・3481・0884 東京都渋谷区富ヶ谷1・16・11・1F
月・火8:00~22:00(水・木~翌1:00、金~翌2:00)、土10:00~翌2:00(日~翌1:00) 不定休

日々の食事、何気ない日常の風景は体の中に貯金されていくもの

「誕生日に必ず作ってもらったのは、ポテトパイ。クリスマスには、ジンジャークッキーのツリーが楽しみで、姉と兄と3人で『どの部分を食べるか?』で大騒ぎでした」。実家はどちらかと言えば洋風な暮らしだった、そう話す、若菜さん。外食や市販のものではなく、食事からお菓子まで、毎日、手作りしてくれたお母様の影響で「毎日のごはんは家で作って食べるもの」という感覚は体に染みついていると言います。そんなお母様の秘密は大人になってから明らかに…。それが『私の洋風料理ノート』です。「子どもの頃、この本が台所の隅に置いてあったことは映像として鮮明に覚えています。大人になってから偶然再会して、見れば、私の大好物だった誕生日のポテトパイもクリスマスのジンジャークッキーのツリーも載っている。母が折りに触れてこの本を参考にしていたことを初めて知りました。とは言え、母が実際に読んでいるところは一度も見たことがありません。おそらくもう暗記していたのだと思います。この本に紹介されているのは、著者の佐藤雅子さんが、日々、繰り返し作ってきた普段の料理ですが、ご自身の生き方、暮らし方が色濃く反映されています。佐藤さんは士族出身の明治の女性らしく毅然として誇り高く、と同時に思いやり深く、家族の健康と幸せを支えたいという気概に溢れています。これを読んでいると、毎日一心に料理していた、母の姿を思い出します」 若菜さんのもう1冊『キッチンの窓から』は、疲れた日の夜、ベッドの上で眺めることが多いという本。家族で田舎暮らしを始めたイギリス人作家、スーザン・ヒルが自らの田園生活を語る、エッセイ絵本です。「作家の文章には、自然の恵みを享受して生きることの喜びが溢れていて、同時に季節ごとの伝統行事や古いしきたりを守って暮らしている様子が伝わってきます。挿絵も、古風な画風が文章によく似合い、何度見返しても飽きません。文章の合間に書かれているレシピもいつか作ってみたいと思いながら」

SELECTED BOOKS

私の洋風料理ノート

著者が母親やお姑さんから受け継いだ料理を、自身の思い出やアドバイスとともに1品ずつ解説している。「ボラチョ」「びっくり卵」など、可愛らしい名前の料理やお菓子も満載

スーザン・ヒル文 アンジェラ・バレット絵 [品切れ・重版未定]

キッチンの窓から

秋のゼリーやチャツネなどのビン詰め作り、冬のティータイム、イギリスの伝統料理プディングについてなど、季節ごとのキッチンの風景をレシピとともに綴ったエッセイ

〔編集者〕 若菜晃子さん

〔編集者〕 若菜晃子さん

山と溪谷社にて『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を歴任。独立後は、「街と山のあいだ」をコンセプトに、身近な自然や山をテーマにした小冊子『murren』を発行。近著は『地元菓子』、『石井桃子のことば』(ともに新潮社)

Photo 佐藤航嗣(TRON)Text 森亜紀子
※こちらの記事は2014年9月20日発行『メトロミニッツ』No.143に掲載された情報です。

更新: 2017年4月12日

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